コンテンツまでスキップ

パロディと商標

旅先でこのようなTシャツやタオルを見たことはあるでしょうか。

パロ写真 思わずクスッと笑ってしまうものですね。これらはいわゆるパロディであり、パロディとはある作品を模倣しつつ風刺や皮肉を加えて茶化し、揶揄うことで新たな表現・意味を作り出すことをいいます。元ネタがわからなければパロディとして成立しません。写真の図案も元ネタが分かりやすくなっています。しかし元ネタが容易に分かると”パクった感”が強くなりますから知財的にかなり危険な匂いがします。

 パロディというと著作権との関係が深そうですが、商標との関係も深いものです。商標の世界においてパロディは基本的に認められません。パロディ商標の登録は認められませんし、パロディ商標を商売に使用すると商標権侵害となるリスクも非常に高くなります※1。シャレですよ?と気軽にパロディ商標を採用する人もいますが、シャレでは済まされないことになりかねません。ですから安易にパロディ商標を使わないようにしましょう。
 ブランドを大事に育てたい人にとっては、他人に自分の商標を元に勝手にパロディ商標を作られて使用されるのは腹が立ちますし、何より自分のブランドの信用に傷をつけられることになります。もし自己の商標のパロディ商標を発見した場合には積極的に警告して使用をやめさせ、絶対に許さないという姿勢を見せていく必要があります。ブランドが有名になればなるほどパロディ元にされるリスク・頻度は高くなりますから根気がいる作業となりますが、ブランドの保護においては重要です。

 このように説明すると、特許庁は一律にパロディ商標の登録と認めないのだなと思われるかもしれませんが、実はそうではないところが商標の世界の難しいところです。パロディ商標が登録されるかどうかは、既にある商標(パロディ元商標)と類似するかどうか(4条1項10号、11号)、混同を生ずるおそれがあるかどうか(同15号)、不正の目的があるかどうか(同19号)、公益の観点から登録を認めるべきではないものかどうか(同7号)を根拠に判断されます。
 フランク三浦事件※2では、無効審判(特許庁の判断)の段階では、商標登録は無効であると判断されたものの、その後の審決取消訴訟(裁判所の判断)の段階では、商標登録は有効であると逆転判決がなされました。事件の説明に入る前にこれだけは強調しておきますが、本事件は登録性に関する判断であって、この事件をもって商標権侵害(不正競争防止法上の違法行為)を否定するとまではいえない(商標権を有していても侵害となる可能性はある)ことに留意してください。

本件商標  フランク三浦

引用商標1  フランク ミュラー

引用商標2 引用2

引用商標  引用3

・4条1項10号、11号について
両商標は称呼において類似するが、外観において、本件商標は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた構成から成るのに対して、引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるから本件商標と引用商標1はその外観において明確に区別し得る。観念において本件商標からは「フランク三浦」との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対して、引用商標1からは外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから,両者は観念において大きく相違する、として商標の類似性を否定した(*引用商標2、3も大凡同じ理由です)。

・同15号について
両商標の指定商品・役務の取引者及び需要者は共通するものの、両商標は外観及び観念が異なり、称呼のみによって商標の出所を判別するものではない。また、フランクミューラーがその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないとすると、本件商標の指定商品の需要者等において普通に払われる注意力を基準としてもすると、フランクミュラーを営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえないから、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められない。

・同19号について
本件商標はフランクミュラーの使用商標のいずれとも類似しないため本件商標が不正の目的をもって使用するものに該当するかどうかについて判断するまでもなく、本件商標は4条1項19号に該当するものとは認められない(*本件は7号については争われていません)。

 パロディ商標は元ネタを直感させつつ、そこに揶揄を加えたものですから、互いの商標は類似する傾向にあるものの、パロディの元ネタが有名であればあるほど、あるいはパロディの手法が上手くなるなればなるほど商標非類似の傾向が強くなります。この判決ではまさにその傾向にあるといえます。
 登録性に問題がないのであれば、パロディ商標を使用しても良いのでは?と考えられそうですが、パロディ商標は商標の類似性以外にも、ただ乗り(フリーライド)、希釈化(ダイリューション)、汚染(ポリューション)が問題となります。元ネタを揶揄する性質上、どうしても元ネタのブランドの信用に乗っかる必然性があり、その結果、元ネタのブランドの信用を毀損することになるからです。フリーライド、ダイリューション、ポリューションは混同の有無や不正の目的の有無の判断に使われます。KUMA事件※3においては、これらが考慮され、フランク三浦事件とは真逆の判決(無効)となりました(*KUMA事件は4条1項15号及び7号についての争いです)。

本件商標

KUMA

 

引用商標

PUMA

・4条1項15号について
共通する構成(PUMAとKUMAとは、ともに4文字で「P」と「K」以外が共通するなど)から生じる共通の印象から、本件商標と引用商標とは全体として離隔的に観察した場合には看者に外観上酷似した印象を与える、また、両商標の需要者は共通する上、商標をワンポイントマークとして使用する場合には、商標の些細な相違点に気づかないことも多い場合もあるとして混同を生じるおそれがある、として15号に該当する。

・同7号
日本観光商事社(KUMA商標権利者)はPUMA商標が著名であることを知った上でこれに酷似した商標を使用することでKUMA商標に接する需要者等にPUMA商標を連想、想起させてPUMA商標に化体した信用・名声・顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的があるといえ、KUMA商標をその指定商品に使用する場合には、PUMA商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)され、PUMA商標に化体した信用・名声・顧客吸引力ひいては被告の業務上の信用を毀損させるおそれがあるということができるから、公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するといえる、として7号に該当する。

 フランク三浦事件とKUMA事件とで判断が分かれていることからもパロディ商標が一筋縄ではいかない代物であることがわかるかと思います。
 パロディ商標はその性質からパロディ元の商標権者からライセンスを得ることが難しい上に、
商標の類似性・フリーライド・ダイリューション・ポリューションの問題もあります。そのため無用な係争に巻き込まれるリスクが高くなりますから使用はやめましょう。
 

※1 不正競争防止法上侵害となるリスクもあります。
※2 平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/085835_hanrei.pdf
※3 平成24年(行ケ)第10454号 審決取消請求事件(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/381/083381_hanrei.pdf