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【弁理士解説】チラシ・DM・テレビの効果測定は特許になる|オフライン広告×デジタルをつなぐ登録特許3件

「チラシの効果は測れない」「テレビCMを見た人がWebでCVしたか分からない」——マーケティングの現場で長年言われてきた課題です。ところが、このオフラインとオンラインをつなぐ仕組みが、日本の特許として次々に登録されています

本記事では、紙のDM、折込チラシ、テレビ視聴——それぞれの領域でオンラインとの接続を権利化した登録特許3件を、特許庁の公報(J-PlatPat)で請求項まで確認して弁理士が解説します。共通するのは、「測れない」を技術で解き、その解き方を権利にしているという構図です。

💡 シリーズ記事:本記事はマーケティング×特許シリーズの一編です。分野全体の登録例はマーケティングは特許になる?登録特許15件の検証をご覧ください。

結論|「測れない」の解き方が権利になっている

● 3社が3つの異なる接続点を押さえている:紙DM(グーフ)、折込チラシ(オリコミサービス)、テレビ視聴(電通)。いずれも自社の主戦場とデジタルの接続を権利化しています。
● 発明の中身は「泥臭い工夫」:複数事業者の相乗り印刷、来店人数からの逆算、テレビ視聴を説明変数に含めること——派手なAI技術ではなく、実務の課題を解く具体的な手順が請求項になっています。
● 権利化が速い:グーフは出願翌日に審査請求し、約3か月で登録。オリコミサービスも早期審査を利用しています。
特許 権利者 つないでいるもの 登録
特許6632046株式会社グーフ紙のDM × ランディングページ2019-12-20
特許7247311株式会社オリコミサービス折込チラシ × デジタル広告の予算配分2023-03-17
特許7397252株式会社電通テレビ視聴・屋外広告 × 配信対象の選定2023-12-05

なぜこの領域に特許が集まるのか

デジタル広告の内側で完結する技術は出願が激しく、先行技術も分厚い領域です。ところが「オフラインとオンラインの境目」には、いまも権利が張られ続けています。理由は2つあると考えられます。

第一に、技術的な工夫の余地が大きいこと。Web内で完結する計測はタグを埋めれば済みますが、紙やテレビは「誰が見たか」の識別子がありません。そこを埋めるには、コードを刷り込む、来店数と広告費の関係を学習する、視聴データを外部から取り込む——といった仕掛けの発明が必要になります。工夫が必要な場所には、特許が生まれます。

第二に、先行技術が少ないこと。デジタル広告のターゲティングは出願が激しい領域ですが、「紙のDMとLPをつなぐ」「チラシとデジタルの予算を最適配分する」といった発想は、それぞれの業界プレイヤーしか思いつきません。自社の主戦場に隣接した領域だからこそ、まだ空いているのです。

弁理士の視点:今回の3社は、印刷会社・折込会社・広告会社です。いずれも「最先端のテック企業」ではありません。自社が長年扱ってきた媒体の知見をデジタルに接続したところに、権利化の余地があった——この構図は、多くの業界に当てはまります。

紙DM×LP|相乗り印刷で測る(グーフ・特許6632046)

特許番号特許第6632046号(公報種別 B1
発明の名称広告効果測定システム及びプログラム
特許権者株式会社グーフ
出願/審査請求/登録2019年9月25日 / 2019年9月26日(翌日)2019年12月20日
早期審査あり(願書に【早期審査対象出願】の記載)
請求項数12項(IPC: G06Q 30/02)

請求項1の原文を掲げます。長文ですが、構造は明快です。

特許第6632046号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用)

第1の事業者の印刷メディアに記録される、配送先毎にパーソナライズされたデータを生成する第1の生成部であり、当該第1の事業者に対応する第1のランディングページのアドレスと、当該印刷メディアの配送先を特定する第1の識別情報とを含む第1のコードを生成する第1の生成部と、前記印刷メディアに記録される、配送先毎にパーソナライズされるデータを生成する第2の生成部であり、予め定めた相乗り条件を満たす1又は複数の第2の事業者に対応する第2のランディングページのアドレスと、当該印刷メディアの配送先を特定する第2の識別情報とを含む第2のコードとを生成する第2の生成部と、前記第1のランディングページに埋め込まれているアクセス測定用の第1のタグを通じ、当該第1のタグを特定する情報と、アクセス元である配送先を特定する前記第1の識別情報を取得する第1の取得部と、前記第2のランディングページに埋め込まれているアクセス測定用の第2のタグを通じ、当該第2のタグを特定する情報と、アクセス元である配送先を特定する前記第2の識別情報を取得する第2の取得部と、前記第1のランディングページへのアクセスを測定した第1の結果を前記第2の事業者に提供し、前記第2のランディングページへのアクセスを測定した第2の結果を前記第1の事業者に提供する測定結果提供部とを有する広告効果測定システム。

何がすごいのか|「相乗り」を権利化した

この請求項の核心は、1枚の印刷物に複数事業者の広告を「相乗り」させ、それぞれの計測結果を互いに提供するという点にあります。整理すると次の流れです。

要件 内容
A第1事業者のLPアドレス+配送先を特定する識別情報を含むコードを、配送先ごとにパーソナライズして生成
B「相乗り条件」を満たす第2事業者についても、同じ印刷物用に同様のコードを生成
C各LPのタグ経由で、どの配送先からアクセスがあったかを取得
D第1の結果を第2事業者に、第2の結果を第1事業者に提供(=相互提供)

要件Dが独特です。単なる効果測定なら「自社の結果を自社に返す」だけで足りますが、この特許は相乗りした事業者間で結果を交換するところまで構成要件にしています。DMの送付コストを複数社で分担しつつ、互いのLPの反応データも得られる——事業モデルそのものが発明として書かれているのです。

なお請求項2は、LPアドレスをリダイレクト先に設定したアドレスを使い、リダイレクトのログから識別情報を取得する構成です。タグを埋められない場合の代替手段を、別の独立項として用意しています。

実務Tips(計測手段を複線化する):請求項1がタグ方式、請求項2がリダイレクト方式——このように同じ目的を達する複数の手段を、それぞれ独立項として立てておくのは有効な設計です。競合が「タグは使わずリダイレクトで実装した」と主張しても、もう一方の請求項で捕捉できます。

チラシ×デジタル|来店数から予算配分を逆算(オリコミサービス・特許7247311)

特許番号特許第7247311号(公報種別 B2)
発明の名称情報処理装置、方法、プログラム、プラットフォームを提供するコンピュータ実装方法
特許権者株式会社オリコミサービス
出願/審査請求/登録2021年12月1日 / 2022年6月20日 / 2023年3月17日
早期審査あり
請求項数19項

特許第7247311号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・抜粋)

事業者が運営する少なくとも1つの店舗において提供する商品又はサービスに関する広告情報を、電子的な第1広告媒体と非電子的な第2広告媒体とによって提供するための広告費用に関する情報を決定する情報処理装置であって、前記店舗への来店人数と、前記来店人数と相関を有する相関デモグラフィックデータと、前記第1広告媒体に割り当てた広告費と、前記第2広告媒体に割り当てた広告費と、を含むデータを教師データとして機械学習を行う機械学習処理部と、前記機械学習により生成された予測モデルを記憶する予測モデル記憶部と、仮想的な来店人数が所定の人数となるときの前記第1広告媒体に割り当てるべき第1広告費及び前記第2広告媒体に割り当てるべき第2広告費を、前記予測モデルから予測する広告費予測部と、少なくとも1つの前記第1広告費と少なくとも1つの前記第2広告費との組み合わせの各々に対応する来店人数を前記広告費予測部から決定し、決定された来店人数が所定の来店人数となる前記第1広告費と前記第2広告費との組み合わせを…

何がすごいのか|「予算配分」という日常の問いを発明にした

請求項に「電子的な第1広告媒体」と「非電子的な第2広告媒体」という対比が明記されています。後者が折込チラシです。そして解いている問いは、地域小売の店長が毎月悩む「チラシとネット広告に、いくらずつ配分すべきか」そのものです。

仕組みは逆算型です。来店人数・デモグラフィックデータ・両媒体の広告費を教師データとして学習し、「来店人数を◯人にしたいなら、チラシに△円・デジタルに□円」という配分を予測します。効果を測るのではなく、目標から入力を決める方向に踏み込んでいる点が特徴です。

弁理士の視点:折込チラシの会社が、自社の顧客が抱える最大の悩みを発明にしています。「顧客からよく聞かれる質問」は、発明の宝庫です。それを人力で答えているうちはノウハウですが、仕組みとして自動化した瞬間に権利化の候補になります。

テレビ×デジタル|視聴データを学習に使う(電通・特許7397252)

特許番号特許第7397252号(公報種別 B2)
発明の名称広告通知システム、広告通知方法、および情報処理装置
特許権者株式会社電通
出願/審査請求/登録2019年12月2日 / 2022年8月10日 / 2023年12月5日
請求項数9項

特許第7397252号 特許請求の範囲 請求項1(原文引用・末尾の限定部分)

…前記サービス提供サーバは、受信した前記指標値に基づいて、前記第2の利用者群に含まれる複数の利用者のうち少なくとも一部の利用者に前記商品に対する広告を通知し、前記商品に対する広告への接触に関する情報が、前記商品に対する広告での滞在時間、前記商品に対する広告に含まれる動画の視聴の有無、前記商品に対するオフライン広告への接触に関する情報、またはテレビジョンでの前記商品に対する広告の視聴に関する情報のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、広告通知システム。

何がすごいのか|総合広告会社のデータ資産が請求項に出ている

全体の構造は、機械学習によるターゲティングの定石です。第1の利用者群の属性・趣味嗜好・広告接触情報を説明変数、商品への行動を目的変数として学習し、第2の利用者群について「行動する可能性」を指標値として出力、その指標値に基づいて広告を通知します。

個性が出ているのは末尾の限定です。「広告への接触に関する情報」の中身として、オフライン広告への接触テレビジョンでの広告の視聴が明記されています。Web内の行動ログだけで学習するのではなく、テレビと屋外広告の接触データまで説明変数に取り込む——これは総合広告会社ならではの構成です。

また、システムを「サービス提供サーバ」と「評価サーバ」の2つに分けている点も実務的です。評価(スコアリング)を行う主体と、実際に広告を届ける主体を分離することで、データを持つ側とメディアを持つ側の役割分担を前提とした構成になっています。

3件を並べて見る|権利化のアプローチの違い

観点 グーフ(紙DM) オリコミ(チラシ) 電通(テレビ)
発明の型識別子の設計+事業モデル機械学習による逆算学習データの範囲を拡張
解いている問い誰がDMを見てLPに来たかどちらにいくら配分すべきか誰に広告を届けるべきか
AIの使用なし(識別子とタグの設計)あり(予測モデル)あり(学習済みモデル)
権利化の速さ約3か月(翌日審査請求)約1年3か月(早期審査)約4年(通常審査)

注目すべきは、グーフの特許にAIが使われていないことです。「識別子を刷り込み、タグで拾い、結果を交換する」——技術としては地味ですが、それでも特許になっています。AIを使うことが権利化の条件ではありません。解決策が具体的な仕組みとして書けるかどうかが本質です。

見逃せない共通点|権利化が速く、公開前に登録される

グーフの特許を経過で追うと、驚くべき速さです。

日付 出来事
2019年9月25日出願
2019年9月26日審査請求(出願の翌日)+早期審査
2019年12月20日登録(出願から約3か月)

さらに重要なのが、この特許の公報種別が「B1」であることです。B1は公開公報が発行される前に登録されたことを意味します。通常、特許出願は1年6か月後に公開されますが、審査がそれより速く進むと公開を経ずに登録公報だけが現れます

実務Tips(競合ウォッチの盲点):公開公報の監視だけで競合動向を追っていると、この型の権利は登録されるまで一切見えません。ある日突然、権利になった状態で現れます。当事務所がマーケティング関連の登録特許15件を検証した際、4件がこのB1でした(→15件の検証記事)。競合ウォッチは登録公報まで含めて設計してください。米国でも同じ現象が起きており、Notionの特許戦略で分析しています。

実務への示唆|自社の「接続点」を棚卸しする

① 「測れないもの」を測る工夫は、発明になりやすい

紙、電話、来店、対面商談、イベント——デジタルで完結しない接点をお持ちなら、そこをオンラインとつなぐ工夫は先行技術が薄い領域です。「うちは印刷会社だから」「うちはリアル店舗だから」という企業こそ、狙い目があります。

② 事業モデルごと書ける場合がある

グーフの「相乗り」のように、複数の当事者が関与する仕組みも請求項に書けます。ただし、複数主体が処理を分担する構成は権利行使の際に論点になり得るため、誰の行為として捉えるかを意識した請求項設計が重要です。

③ AIは必須ではない

3件のうち1件はAIを使っていません。「AIを使っていないから特許にならない」は誤解です。逆に、AIを使うなら学習方法や評価指標まで書き込む必要があります(→AI広告文の特許の分説)。

④ 速さは選べる

グーフは3か月、電通は4年。どちらが正しいという話ではなく、事業上の必要性に応じて速度を選べるということです。出願と同時に審査請求し早期審査を申請すれば、大幅な短縮が可能です(→スーパー早期審査の活用事例)。

よくある質問(FAQ)

Q. チラシやDMにQRコードを刷って効果測定していますが、これは特許に触れますか?

A. コードを刷って計測すること自体は広く行われており、それだけで侵害になるものではありません。グーフの特許6632046は「配送先ごとにパーソナライズした識別情報」「相乗り条件を満たす複数事業者」「結果の相互提供」まで含めた構成です。要件が1つでも欠ければ原則として非充足です。実装との対比は弁理士にご相談ください。

Q. AIを使っていない仕組みでも特許は取れますか?

A. 取れます。本記事のグーフの特許6632046はAIを使わず、識別情報の設計とタグによる計測、結果の相互提供という構成で登録されています。重要なのはAIの有無ではなく、課題の解決策が具体的な仕組みとして記載できるかどうかです。

Q. オフライン広告の会社ですが、デジタル企業に比べて特許は不利でしょうか?

A. 必ずしもそうではありません。本記事の3件は印刷会社・折込会社・広告会社によるもので、いずれも自社が扱う媒体の知見をデジタルに接続した発明です。デジタル完結の領域は出願が多く先行技術も厚いのに対し、オフラインとの接続点は相対的に空いています。自社の現場知見が強みになる領域です。

Q. 「B1」の特許とは何ですか?普通の特許と違うのですか?

A. 登録後の権利としての効力は同じです。違うのは登録前の扱いで、B1は公開公報が発行される前に登録に至ったものを指します。審査が18か月より速く進んだ場合に生じます。第三者からは事前に察知しにくいため、競合調査では公開公報だけでなく登録公報も追う必要があります。

Q. 出願から3か月で登録というのは一般的ですか?

A. 通常の審査では年単位かかるため、3か月はかなり短い部類です。グーフの事例は、出願の翌日に審査請求し、あわせて早期審査を申請した結果と考えられます。早期審査には所定の要件(事情説明書の提出等)があり、すべての出願で使えるわけではありませんが、要件を満たせば大幅な短縮が可能です。

まとめ

紙DM、折込チラシ、テレビ視聴——「測れない」とされてきた領域は、いま特許が積み上がりつつある競争領域です。しかも権利化は速く、公開前に登録される例もあります。

重要なのは、この3件が最先端のテック企業ではなく、それぞれの媒体を長く扱ってきた事業者による発明だという点です。自社の現場に「デジタルとつながっていない接点」があるなら、それは権利化の候補です。まずは棚卸しから始めてみてください。

知的財産事務所エボリクスへのご相談

エボリクス(evorix.jp)では、広告・販促・効果測定分野の特許出願、競合特許のクリアランス調査、早期審査を活用したスピード権利化のご相談を承っております。オフラインとデジタルをつなぐ仕組みをお持ちの企業様のご相談を歓迎します。まずはお問い合わせフォームより、ご相談の流れとあわせてお気軽にどうぞ。

本記事の注意事項:本記事は2026年7月時点の公開特許情報(特許庁J-PlatPat)に基づく一般的な解説です。引用した請求項は公報の記載に基づきますが、権利範囲は最終的に公報の正本と出願経過により定まります。本記事の要約・分説は理解を助けるための整理であり、権利範囲を画定するものではありません。審査経過に関する記述のうち推測を含む部分はその旨を明記しています。特許と各社のサービス・製品との対応付けは、公報に製品名の記載がないため推測を含みます。侵害の成否について本記事は何ら断定するものではなく、個別事案の結論を保証するものでもありません。事業判断にあたっては専門家の個別検討をご利用ください。

出典

杉浦健文 弁理士

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。