1. 商標の定義と保護対象...
中国における意匠制度概要(2025年最新情報)
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中国では、意匠(デザイン)に関する独立の法律はなく、発明特許・実用新案と同じ「専利法(中国特許法)」で規定されています。2021年の大改正で部分意匠の導入や存続期間の延長が実現し、さらに2022年にはハーグ協定への加盟も果たしました。本記事では、2025年時点の最新情報に基づき、中国意匠制度の全体像を日本の実務者向けに包括的に解説します。
目次
意匠の定義と保護対象
中国の専利法第2条第4項では、意匠を製品の形状、模様、色彩、またはこれらの結合について、製品の「全体」または「一部分(局部)」にかかわる新しいデザインであって、視覚を通じて美感を起こさせ、工業上の利用に適したものと定義しています。2021年の法改正により、部分意匠(製品の一部分のデザイン)も保護対象に含まれるようになりました。
保護対象となるのは、具体的な製品の外観デザインです。ここでいう「製品」とは大量生産可能な工業製品を指し、その外観(立体的形状、平面的模様、色彩の組合せなど)に着目します。家電、家具、衣服、包装容器などが典型であり、建築物の外観等は通常「製品」に該当しないと解されています。
GUIの保護について
中国ではグラフィカルユーザインタフェース(GUI)も、ディスプレイ装置の画面に表示された模様として製品に組み込まれる形で意匠保護が可能です(2014年の審査基準改正で解禁)。ただし、GUI単体(製品に依存しない抽象的画面デザイン)は保護対象外であり、あくまで「製品の一部」に表示されるものとして出願する必要があります。
保護されない対象も明確化されています。専利法第25条6号では、「印刷物に描かれた模様や色彩(またはその結合)であって、主に標識(表示)としての機能を果たすもの」には意匠権が付与されないと規定されています。商品のラベルやロゴ、包装紙のデザインなど、純粋に識別標識として用いられる2次元の模様は意匠として登録できません(ただし壁紙や織物の模様は除かれます)。
留意点:純粋に機能上の形状のみで美感を欠くものは「視覚を通じて美感を起こさせ」ないため意匠としては適格でないと解されます。公序良俗に反するデザインや、他人の肖像・著作物を無断利用したデザインなども認められない可能性があります。
登録要件(新規性・独自性など)
中国で意匠登録を受けるためには、専利法第23条に定める要件を満たす必要があります。主な要件は以下のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 新規性(絶対的新規性) | 出願する意匠は「従来の設計(既存の意匠)に属しないもの」でなければなりません。「従来の設計」とは出願日前に国内外で公然と知られた意匠を指し、世界中どこでも出願前に公表・公知となった同一または類似のデザインは新規性を失います。先願主義が厳格に適用され、同一意匠について後願は拒絶されます。 |
| 独自性(明確な差異) | 既存の意匠単体または複数の意匠の特徴の組合せと比較して「明らかな違い」を有することが要求されます。日本の「創作非容易性」に近い概念ですが、ハードルは高くないもののデッドコピーやごくありふれた意匠の単なる組み合わせは認められません。 |
| 先後権利不衝突 | 他人が出願日前に取得した合法的権利(登録商標、著作権等)と衝突しないことも要件です。他人のキャラクター等をそのまま取り入れたデザインは、たとえ新規でも登録が受けられません。 |
以上の主要要件に加え、意匠は工業的に利用できること(製品として量産できること)が定義上求められます。「既存の意匠」には口頭による公知も含まれるため、インターネットや展示会で公開されたもの、製品として市販・展示されたりカタログに掲載されたデザインはすべて既存意匠に該当します。
新規性喪失の例外(グレースピリオド)
政府主催または認定の国際展示会への初披露、学術会議での発表、第三者による不正な漏洩公開などについては、公開日から6か月以内に出願すれば新規性を喪失しなかったものとみなされます。とはいえ、実務上は出願前に公表しないことが鉄則です。
要件をまとめれば、「世界で新しく、既存のデザインとは明確に異なり、他人の権利とバッティングしない美感ある製品デザイン」であることが登録の前提となります。実際の審査では後述のように実体的なチェックは限定的なので、一見して既存にない特徴があればまず通るといえます。ただし権利行使段階で争われる可能性があるため、類似デザインの有無は出願人自身で調査・検討しておくことが望ましいでしょう。
出願手続の流れ(必要書類、図面要件、優先権主張、出願言語など)
出願から登録までの基本的な流れは以下のとおりです。
ステップ1:出願準備
保護対象とする製品およびデザインを確定し、必要な図面・写真を用意します。言語は中国語ですので、日本企業が直接出願する場合は中国語翻訳や代理人(中国専利代理師)との調整が必要です。中国では意匠もロカルノ分類に従って分類されるため、該当する分類を確認し、製品名称も適切な一般名称を決めます。部分意匠であれば、部分と製品全体の名称を組み合わせた名称が要求されます(例:「コップの取っ手」)。
ステップ2:必要書類の提出
中国意匠出願には以下の書類が必要です。
- 願書(請求書):出願人やデザイン名称、設計者名などを記載する書面です。
- 図面または写真:保護を求める意匠を明確に表した画像資料です。製品の形状・模様などを六面図(六方向の正投影図)や立体図等で漏れなく示します。写真提出も可能ですが、背景のない鮮明なものを用意します。
- 簡略説明(Brief Explanation):意匠の内容を補足説明する書面で、出願時に必須です。
- 委任状:出願人が外国企業・在外者の場合、中国の代理人に依頼するための委任状が必要です。
- 優先権書類:優先権を主張する場合、最初の出願の書類のコピーを出願から3か月以内に提出します。
簡略説明の記載事項:(1)意匠製品の名称、(2)製品の用途、(3)意匠の設計要点(創作上の特徴)、(4)最も特徴を表す画像(代表図)を記載します。これらは権利解釈にも影響し得る重要事項なので、正確かつ慎重に記載してください。
部分意匠の図面では、破線(点線)による非主張部分の表示が認められています。部分意匠を出願する際は、製品全体の図面も添付し、破線と実線等で保護範囲(部分)を明示します。
ステップ3:出願と受理
願書類一式をCNIPAに提出すると(オンライン出願が一般的)、出願日が確定します。中国は先願主義のため、この出願日が非常に重要です。出願から1~2か月程度で方式審査を経て受理通知書が送られてきます。出願言語は中国語であり、英語や日本語では受付されません。
ステップ4:優先権主張
中国はパリ条約加盟国ですので、最初の意匠出願から6か月以内であればパリ優先権を主張できます。優先権を主張するには出願時にその旨を書面で宣言し、先の出願の公証コピーを3か月以内に提出します。
2021年改正:国内優先権の導入
「中国における先の意匠出願から6か月以内」に「同じまたは類似の意匠」を改めて中国に出願する場合、先の出願を基礎に優先権主張できるようになりました。先に出した意匠を少し修正して再出願する場合などに有用ですが、先の出願は放棄することが前提です。
ステップ5:審査と登録
出願が受理されると、CNIPAによる方式審査(初歩的な審査)が行われます。拒絶理由がなければ、実体審査を経ずにそのまま登録査定となり、登録料を納付して登録公告・意匠権発効となります。スムーズに進めば出願からおよそ3~6か月で登録となります。出願中の意匠は公開されず、登録と同時に初めて公告公開されます。
ステップ6:補正・分割
出願日から2か月以内であれば出願人が自主的に図面や簡略説明の補正を行うことが認められています。unity違反を指摘された場合、分割出願によって分けて出願し直すことが許されます(分割出願の出願日は元の出願日に遡及)。
複数意匠の一括出願:中国では1件の意匠出願は原則1意匠ですが、例外として「同一製品に属する2つ以上の類似意匠」または「セット製品に属する2つ以上の意匠」は一括して1件の出願にすることが可能です。類似意匠やセット意匠は最大10意匠までまとめて出願できます。
ステップ7:出願言語と翻訳
提出書類はすべて中国語で作成しなければなりません。日本語や英語のままでは受理されません。願書の各欄も中国語で記載し、出願人名・住所は中国語表記となります。図面に文字が入っていれば削除するか中国語に置き換えます。翻訳・表記ミスは拒絶理由となり得ますので、現地代理人のチェックを受けるなど慎重に対応しましょう。
以上が中国意匠出願から登録までの流れです。早いケースでは出願後数ヶ月で登録証が得られるスピード感がありますが、その分出願書類の不備にはシビアです。特に図面・写真と簡略説明の整合や部分意匠の表示方法など、形式面の要件を満たすよう注意が必要です。
審査制度(方式審査と実体審査の有無、審査期間など)
中国の意匠審査は「方式審査」が中心で、実体審査は基本的に行われません。専利法第40条に「意匠出願が初歩的な審査(方式審査)を経て拒絶理由がなければ登録を認める」と規定されており、発明特許のような実質的審査は課されません。迅速な登録が特徴ですが、裏を返せば無審査登録制度に近い運用となっています。
方式審査(初歩審査)でチェックされる事項は以下のとおりです。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 形式要件の確認 | 願書の記載事項、図面の整合性、簡略説明の有無と記載形式など、提出書類が所定の要件を満たしているかを審査します。不備があれば補正指令が出されます。 |
| 不登録事由の審査 | 専利法第25条各号に該当しないか(主に標識として機能する印刷物の模様、公序良俗違反等)を審査します。 |
| 明白な新規性欠如 | 審査官は通常サーチを行いませんが、自分の知り得る限りの既知意匠と比較して明らかに同一または紛らわしいと判断できる場合には拒絶します。あくまで顕著なケースのみが対象です。 |
| 単一性要件の確認 | 一つの出願に複数意匠を含む場合、類似意匠またはセット意匠の範囲に収まっているか審査します。要件を満たさない場合は分割を促す通知が来ます。 |
出願から登録までの期間は概ね3~6か月程度と非常に短く済みます。審査で問題が無ければ、登録査定、登録料納付、登録公告となり、公告日に権利発生となります。公告(権利化)と同時に初めて内容が公開される点に注意が必要です。
注意:中国には出願公開から登録までの異議申立制度(公報異議)は存在しません。公開自体が登録と同時なので、第三者が権利成立前に異議を述べる機会はありません。不備のある登録意匠は、後述する無効審判(無効宣告請求)制度によって事後的に取消を求めることになります。
拒絶があった場合の救済:方式審査で拒絶理由が通知された場合、出願人は意見書提出や補正によって応答できます。それでも拒絶査定となった場合、拒絶査定不服審判(復審)を請求できます。復審決定にも不服な場合は、北京知識産権法院(知的財産法院)に行政訴訟を提起して司法審査を受けることができます。
遅延審査請求(審査の一時延期)制度
2019年に導入されたユニークな制度で、出願と同時に請求することで意匠の審査・登録を意図的に遅らせることができます。2023年改正審査指南で柔軟化され、月単位で最長36か月まで指定可能となり、途中で遅延請求を取り下げて審査を再開させることも可能になりました。まだ発売前のデザインを早期に公開したくない場合に最大3年弱、公知化を先延ばしできるメリットがあります。実務上は「とりあえず36か月の遅延を指定し、出願後に状況に応じて取り下げて早期発行させる」という使い方が推奨されています。
登録後の権利内容と効力(権利期間、更新、権利行使)
登録公告がなされると意匠権が発生します。意匠権は登録公告日から効力を生じ、権利者には専用権が与えられ、他人による無断実施を排除できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 出願日から15年(2021年改正で10年から延長。2021年6月以降出願分に適用) |
| 更新制度 | なし。最大15年で権利は消滅します。 |
| 年金(維持料) | 毎年の納付が必要。初年度は登録料に含まれますが、2年目以降は期限までに年金を納付しないと権利は途中で消滅します。 |
| 禁止行為 | 登録意匠を利用した製品の「製造」「販売の申出」「販売」「輸入」(営利目的) |
権利範囲は、登録時に公開された図面または写真に示されたその製品の意匠によって定まります。簡略説明は解釈の参考として用いることができるものの、図面等に表れていない要素まで権利範囲に含めることはできません。権利範囲には、登録意匠と同一またはそれと近似した意匠も含まれ、需要者の視覚によって「両意匠が異ならない」と評価される程度に似ていれば侵害と判断されます。
意匠権評価報告制度:中国の意匠は実質審査なしで登録されるため、有効性は保証されていません。2008年の法改正で導入された「意匠権評価報告」制度により、権利者や利害関係人の請求でCNIPAが先行意匠調査を行い評価報告書を発行します。権利行使(訴訟や行政摘発)を行う際にはこの評価報告書を取得しておくことが推奨されています。評価報告書に法的拘束力はありませんが、裁判所もこれを重視します。
ライセンスと譲渡:第三者にライセンス(実施許諾)を与えることも可能で、契約書の書面作成とCNIPAへの登録が求められます。意匠権の譲渡(権利移転)も可能で、CNIPAへの届出が必要です。近年、中国では意匠のオープンライセンス制度(特許権者が一般に許諾条件を公開し、希望者にライセンスする仕組み)も導入されつつあります。
侵害判断の基準:中国の意匠権侵害判断は「全体的な視覚による評価」で行われます。日本と同様、需要者の目から見て両デザインが近似しているかどうかで判断されます。簡略説明に「デザインの要点は〇〇の形状にある」と書かれていれば裁判所はその部分を重視して比較するため、簡略説明の書き方次第で権利範囲が狭まったり広まったりする点に注意が必要です。
無効審判・異議申立制度
中国の意匠は登録時に初めて公開されるため、日本のような登録前の異議申立制度は存在しません。第三者がその意匠登録に不服・疑義がある場合は、登録後に無効化を求める「無効宣告請求」(日本の無効審判に相当)を行うことになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求人と期間 | 誰でも(法人・個人を問わず)意匠権の存続期間中いつでも請求可能。時効の制限もありません。 |
| 審理機関 | CNIPA内部の専利復審無効部門(旧称:特許復審委員会)。3人以上の審査官からなる合議体が組まれます。 |
| 無効理由 | 新規性・創作性欠如、不登録事由該当、先願主義違反、図面の矛盾、他人の先取得権利との衝突など多岐にわたります。 |
| 審理期間 | 概ね6か月~1年程度。必要に応じて口頭審理(ヒアリング)が行われます。 |
| 決定の効果 | 無効とされた場合、その権利は初めから存在しなかったものとみなされます(遡及無効)。 |
重要:意匠の場合、権利者による補正は許されません。発明や実用新案ならクレーム減縮等ができますが、意匠は図面を事後修正する制度がなく、無効理由を覆すための補正は認められません。一旦欠陥ありと判断されるとアウトです。
審決に不服がある当事者は、北京知識産権法院に不服訴訟を提起できます。中国では登録後に相手の権利を無効にすることは珍しくなく、特に多国籍企業間の係争では頻繁に利用されます。
企業の知財部としては、競合の怪しい意匠権に目を光らせ、必要なら速やかに無効手続きをとることが重要です。一方で自社権利について無効リスクがある場合、訴訟前に評価報告書を取って有効性を確認する、あるいは関連する改良デザインは別途出願しておくなどの備えが考えられます。
意匠侵害に対する対応(民事、行政、刑事対応)
中国における知的財産侵害への対応ルートは大きく「民事ルート(裁判)」「行政ルート(行政摘発)」「刑事ルート(警察による摘発)」の3つがあります。
民事訴訟(裁判)による救済
最も確実な救済手段は民事訴訟(侵害差止・賠償請求訴訟)です。権利者は侵害者を相手取り人民法院(裁判所)に提訴します。中級人民法院が第一審管轄で、北京・上海・広州などには知的財産専門法院も設置されています。
民事訴訟で請求できる主な救済は「差止命令」「損害賠償」「侵害品の廃棄等」です。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 懲罰的賠償 | 悪意のある重大な侵害に対し、認定損害額の1~5倍まで賠償額を増額できる制度。故意かつ情状の悪いケースが対象。 |
| 法定損害賠償額 | 損害額の立証が困難な場合、上限500万元(約8,000万円)まで裁量賠償が可能(従来の100万元から引き上げ)。 |
| 立証負担の緩和 | 裁判所が被告に帳簿提出を命じることができ、被告が正当な理由なく提出しない場合は権利者の主張額を採用して損害額を推定。 |
| 仮処分・証拠保全 | 緊急の事情があれば仮の差止命令や証拠保全(証拠品の差押え)が可能。ただし担保金の供託が必要。 |
民事訴訟は一審・二審の二審制で、一審は約1年、控訴審も半年~1年程度が目安です。深刻な侵害には民事訴訟が最も効果的といえます。
行政ルート(行政機関による取締り)
権利者が行政執法機関(知的財産局や市場監督管理局の知財執行部門)に申し立てて、行政処分によって侵害を止めさせる仕組みです。担当部署は現地調査や立入検査を行い、侵害が成立すると認めれば直ちに侵害行為の停止を命令できます。違法所得の没収や罰金を科す権限もあります。
メリットは対応が迅速で費用が安価なこと。デメリットは損害賠償を命じる権限がないことです(別途民事訴訟が必要)。行政担当官が間に入って当事者同士の和解(調停)を試みることもあります。
税関(水際取り締まり)の活用
意匠権者は自らの意匠を税関総署の「知的財産保護備案」に登録できます。登録された意匠権は税関が輸出入貨物を検査する際の監視対象となり、模倣品が輸出入されようとすると通関保留・差押えを行います。中国税関は輸出入ともに取り締まり可能で、中国国内で作られた模倣品が海外市場に出ていくのを水際で阻止できる非常に有用な手段です。
刑事手続(刑事罰・摘発)
意匠権侵害それ自体に対する刑事罰は、中国には基本的に存在しません。中国刑法には商標偽造や営業秘密侵害についての犯罪類型はありますが、特許(発明・実用新案・意匠)侵害は民事上の違法行為と位置づけられています。
ただし、他人の特許を勝手に表示したり、でたらめな特許番号を製品に付したりする「特許偽造罪」は処罰対象です。これは「権利がないのにあると偽る」行為であり、意匠侵害とは性質が異なります。
実務上のポイント:中国では意匠権侵害は民事と行政で対処し、刑事は補助的と考えましょう。企業は民事訴訟で差止・賠償を図り、悪質業者には行政摘発も併用するのが実務対応となります。また、専利法58条の「虚偽特許表示」に自社が引っかからないよう、中国生産品の表示には注意が必要です。
海外出願(ハーグ制度の対応、中国からの出願、中国への国際出願)
中国企業や日本企業にとって、中国意匠を軸に海外展開する場合や、海外の意匠を中国で権利化する場合の手段について整理します。ポイントはハーグ国際意匠制度の活用とパリ条約に基づく直接出願の選択です。
中国のハーグ協定加盟
中国は2022年にハーグ協定(意匠の国際登録に関するジュネーブ改正協定1999)に加盟し、同年5月5日に国内発効しました。これにより、中国を含む複数国への意匠出願を一度の国際出願(ハーグ出願)で行えるようになりました。
中国を指定国とするハーグ出願の注意点:
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 簡略説明の添付 | 中国は「国際出願には意匠の簡略説明を含めること」を必須要件としています。意匠ごとに設計要点などを記載した簡略説明を付す必要があります。 |
| 単一性要件 | 複数意匠は「同一製品の類似意匠」または「セット製品の意匠」という中国の単一性要件を満たす必要があります。全く別製品のデザインを含めると拒絶されます。 |
| 図面要件 | 中国審査官が見て理解不能な図面や不鮮明な写真は拒絶理由になります。必要に応じて国際段階で補正(図面の差替え)を行うことも検討しましょう。 |
| 拒絶通報期間 | 中国は拒絶通知期間を12か月に延長する宣言をしています(他の多くの国は6か月)。 |
| 保護期間 | 出願日(国際登録日)から15年。年金も国内出願同様、毎年支払いが必要。 |
| 手数料 | 中国指定には個別手数料が適用。概ね中国に直接出願する場合と同程度の費用です。 |
中国から海外への意匠出願:中国企業がハーグ制度を活用すると、一度の手続で複数国の意匠権が得られます。ただし米国や日本のように図面や制度要件が独特な国を指定する際には、その国ごとの拒絶リスクに注意が必要です。
ハーグ協定を使わず直接各国に出願する場合も依然可能です。中国はパリ条約加盟国なので、中国で最初に出願してから6か月以内であればパリ優先権を主張して各国に個別出願できます。なお中国では意匠について外国出願のための事前許可(秘密審査)は不要で、先に外国に出願しても法律上問題ありません。
日本から中国への意匠出願:日本企業が中国で意匠権を取得するには、(1)中国に直接パリルートで出願するか、(2)ハーグ国際出願で中国を指定する、の二つの方法があります。
| 出願ルート | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 直接出願(パリルート) | 直接コミュニケーション可能。補正や意見書も柔軟対応。意匠ごとにきめ細かく出願可能。 | 中国語翻訳・現地代理人が必要。国ごとに個別手続が発生。 |
| ハーグ国際出願 | 一度の出願で複数国に出せる。共通言語(英語等)で手続。事務が簡素。 | 中国固有の要件への対応が難しい場合がある。拒絶対応時に現地代理人指名の別途費用が発生。 |
出願ルート選択のポイント:中国単独なら直接出願がより確実です。多国一括権利化が目的ならハーグを活用しましょう。自社の状況に応じケースバイケースで最適な出願経路を選択することが重要です。
中国特有の実務上の留意点
最後に、中国意匠制度における日本とは異なる実務上の留意点を整理します。
審査運用と戦略面
中国の意匠審査は実体判断が緩やか(新規性の細かなチェックなし)です。「とりあえず出願しておけば登録になる」ケースが多く権利取得のハードルは低いですが、登録後に無効になりやすい権利も混在します。重要なデザインはできるだけ早期に出願し先願を確保することが大切で、製品発表より前に出願するスピード感が要求されます。
先願主義の罠(部分意匠と全体意匠の同日出願):日本では同じ人が同じデザインの一部と全体を別々に出願する場合の特例がありますが、中国にはそれがなく、自分の全体意匠出願が先にあると自分の部分意匠出願でも拒絶されます。全体デザインも部分的特徴も両方権利化したい場合は、必ず同日に両方を出願するようにしましょう。同日ならお互い先後関係がなく新規性に影響しません。
図面作成上のポイント
中国出願では図面(または写真)が命です。以下の点に注意しましょう。
- 六面図の完全提出:立体物なら正面・背面・左側面・右側面・上面・底面を原則全て提出。未提出の視点は権利範囲に含まれない可能性があります。
- 部分意匠の図面:少なくとも製品全体図と部分の斜視図を含め、破線を用いて非請求部分を示します。
- 破線の活用:破線を使った部分は権利範囲に含まれない扱いです。中国では破線は部分意匠制度専用の運用で、全体意匠出願で破線を使うのは基本NGです。
- 写真提出時:無背景で製品のみが写った鮮明な写真を用意。白背景・十分な解像度を確保しましょう。
簡略説明の記載の注意:簡略説明は意匠権の解釈に利用できますが、諸刃の剣です。ポイントは「余計なことを書きすぎない」ことです。「この意匠のデザイン要点は〇〇にあります」と書くと、それ以外は平凡だと認めたようなものです。設計要点欄には特徴を簡潔に述べつつ、限定し過ぎない表現を心がけましょう。なお簡略説明には文章のみ記載可能で、参考図や写真は記載できません。
複数意匠の同時出願
中国の類似意匠制度は日本の関連意匠制度とは異なります。1件の出願に最大10個まで含められますが、同一または類似の製品に限定されます。類似意匠群は一括して一つの意匠権として扱われ、10個のバリエーションがあっても権利番号は一つで年金も一件分です。ただし無効や侵害の判断では各デザインごとに検討されます。
セット意匠については、一組の物品全体で1意匠とみなされます。条件は以下のとおりです。
- (1) 同一のロカルノ分類に属すること
- (2) 慣習上同時に使われ販売されること
- (3) デザインコンセプトが統一されていること
セット意匠の留意点:セット製品として出願したものを後で単品に分けることはできません。また、セット内の一部だけ部分意匠にすることは認められません。部分保護したければ別出願が必要です。
GUIや画面デザインの実務
2023年の施行細則改正で「電子機器」という汎用的な製品名称がGUI関連でも使えるようになり、スマホにもPCにも表示可能なソフトウェア画面は「電子機器のGUI」として一括出願できるようになりました。
GUI出願実務では、画面の正面図を提出し、必要なら拡大図や遷移図も付けます。GUI以外の機器部分は破線で描くか省略します。簡略説明には「○○用GUIを表示する△△(製品名)」のように、GUIの用途と製品名を記載します。
その他の実務上の留意
- 願書情報の整合:出願人の氏名・住所はパスポートや登記証の表記通りに中国語化し、途中で表記ゆれがないよう統一します。中国では職務発明なら会社が意匠権者となるのが原則です。
- 先行意匠調査:中国では義務ではないですが、重要案件ではやっておくべきです。中国企業は欧米や日本のデザインもチェックしていて、模倣出願(パクリデザインの先取り出願)も存在しますので、商品発表前に出願しておく等の自衛策が必要です。
- 権利行使の戦略:大々的な侵害には民事と行政のコンビネーションが有効ですが、小規模業者が相手だと訴訟コスト倒れになることもあります。行政摘発で市場から締め出すだけに留める判断や、税関登録を活用して輸出ルートを断つ戦術も有効です。
中国の意匠制度はこの数年で部分意匠導入・存続期間延長・国際出願対応と大きく変化し、ますます日本企業にとっても無視できない存在となっています。日本の弁理士・知財部門としては、これら最新情報を踏まえて中国におけるデザイン保護戦略を最適化していく必要があります。中国は世界最大の製造・消費市場であり、デザイン面からの競争力も年々高まっています。自社の優れたデザインは中国でも権利化し、模倣品には毅然と対処するとともに、他社のデザインにも目を配りつつ、有効に制度を活用していきましょう。
参考資料:中国専利法(意匠関係)、中国専利法実施細則、CNIPA審査指南(2023)、中国国家知識産権局 公告、弁理士法人オンダ国際特許事務所「中国における意匠制度の概要」、Armstrong Teasdale法律事務所 解説、他.
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