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日本におけるUI画面デザインの意匠登録事例

意匠法改正と画面デザインの保護背景

従来、日本の意匠制度では保護対象が「物品」に限定され、ソフトウェアの画面デザイン(UI)は単独では意匠登録できませんでした。しかし2019年の意匠法改正(施行:令和2年4月1日)により、新たに「画像」(スクリーン上の視覚的デザイン)が意匠として保護可能となり、多くの企業が関心を寄せています。これによりスマートフォンアプリやウェブ画面のデザインも**「画像意匠」として登録できるようになりました。改正以前でも、画面デザインを機器の一部(例えば携帯端末の一部)として部分意匠**で登録する例はありましたが、改正後は画面そのものを独立した意匠として登録できる点が大きな違いです。

以下では、日本の特許庁によって公開されているスマホアプリ/ウェブ画面UIの意匠登録事例を、UIのタイプ別に紹介します。登録番号や出願人(企業名)、登録日など基本情報とともに、それぞれの画面デザインの特徴やポイントについてまとめます。また、最後に代表的な事例を一覧表に整理しています。

決済・クーポン画面の意匠登録事例

ユーザーの支払い操作やクーポン利用に関する画面デザインも意匠登録されています。特に金融・EC系サービス企業による事例が見られます。

  • バーチャルカード情報表示画面(NTTドコモ) – スマホ決済サービスにおけるクレジットカード情報表示UIの意匠登録例です。登録意匠第1791683号(登録日: 2025年2月12日)として、出願人は株式会社NTTドコモ。画面上にカード番号や有効期限を表示しつつ、「支払いロック」機能によってタップ操作でカードを有効化するとセキュリティコードが表示される仕組みです。ロック中はコード非表示とすることで、ユーザーが誤って決済を進めてしまうのを防ぐ工夫が特徴です。

  • 宿泊予約クーポン取得画面(楽天トラベル想定)宿泊予約サイト/アプリのクーポン利用UIも意匠登録されています。例えば意匠登録第1687842号「宿泊施設予約画面のクーポン取得用画像」では、予約画面上で複数の割引クーポン(金額や種別別)を取得・適用できるデザインが保護されています。出願人名は公報で直接公表されていませんが、画面上に「宿クーポン」「GoToトラベル」割引額などが表示されており、大手旅行サービスの画面デザインと推測されます。このように予約時の割引情報提示クーポン選択UIも保護対象になっています。
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チャット/メッセージ画面の意匠登録事例

SNSやメッセンジャーのチャットUIも意匠登録の対象です。また、チャット形式で問い合わせやQ&Aを行うUIも事例があります。

  • メッセージアプリのチャット画面(Google) – 出願人グーグル エルエルシーによるスマートフォンのチャットUIが、意匠登録第1621588号「携帯情報端末」として登録されています。この意匠では、メッセージ入力欄や送信ボタンに加え、スライドバー(表現力インジケーター)を上下ドラッグすることで文字サイズや装飾を変化させる独特のUIが特徴です。改正前の登録のため部分意匠(実線部分が権利範囲)として保護されており、チャット画面におけるユーザー操作性向上のデザインを意匠権でカバーした例と言えます。

  • 問い合わせチャットボット画面(Arithmer) – AIチャットボットを用いた問い合わせ回答UIの事例です。意匠登録第1675969号「問い合わせ情報表示用画像」(出願人:Arithmer株式会社)では、ユーザーからの質問と回答候補・回答内容をチャット形式で表示する画面デザインが登録されています。画面は入力エリア、問い合わせ内容表示エリア、チャット形式の回答表示エリア、回答候補の提示エリア等で構成され、回答候補を提示してユーザーを支援するインタフェースが特徴です。一部の領域(回答文中の強調部分)が権利範囲外(赤色で非保護指定)になるよう部分意匠として登録されています。

(※LINEなど国内SNS企業によるチャット画面の意匠登録は、本調査の範囲では公報事例が見当たりません。しかし上記のように、海外企業によるチャットUIの登録例があり、同種のインターフェースも意匠権で保護し得ることが示されています。)

ナビゲーション(地図案内)画面の意匠登録事例

地図や経路案内を表示するUIデザインも登録されています。交通情報や経路検索の独自UIがポイントです。

  • 経路案内・渋滞情報表示画面(Yahoo!地図) – 出願人ヤフー株式会社によるナビゲーションアプリUIで、意匠登録第1686757号「経路案内用画像」が該当します。画面上部に地図、下部に情報パネルを配置し、出発・到着時刻や渋滞予測グラフ、所要時間などを一画面で表示するデザインです。特徴は時間帯スライダー操作により出発時間を変更すると、地図上の渋滞区間表示や所要時間等の情報がリアルタイムに変化する点です。ユーザーは地図経路と混雑予測を視覚的に確認し、スライダー操作で予定調整できる優れたUIとなっており、この動的な画面遷移デザインが意匠権で保護されています。

ホーム画面・メニューUIの意匠登録事例

スマートフォンやデバイスのホーム画面、メニュー画面も意匠登録されています。特にApple社は改正後に積極的に画面意匠を出願しており、複数の登録例が公開されています。

  • ホーム画面/メニュー画面(Apple) – 出願人アップル インコーポレイテッドによる事例です。意匠登録第1691660号「メニュー用画像」は、ホーム画面上でアプリのアイコンやウィジェットを配置・起動するUIデザインが登録されています。画面上部には2つの正方形枠がありウィジェットを表示可能で、ユーザーが操作して表示ウィジェットを切り替えられる構成になっています。これはちょうどiPhone/iPadのホーム画面におけるウィジェット配置機能を想起させるデザインで、こうしたアプリ一覧・ウィジェット表示用UIを保護した例です。また、意匠登録第1694011号「情報表示用画像」では、デバイス充電中に時刻・バッテリー・通知などを表示するロック画面UI(いわゆる常時表示ディスプレイ)が登録されています。いずれも画面中の一部要素は破線で描かれ権利範囲外としており、アイコン配置や情報表示レイアウトそのものを実線部分で権利化しています。

その他の注目すべきUI意匠登録事例

上記以外にも、多様な分野のUIが意匠登録されています。例えば、配車サービスアプリの画面デザインや業務用ソフトの分析画面なども事例があります。

  • 配車サービスのGUI(DiDi) – 中国発のタクシー配車サービス「DiDi」のアプリ画面も日本で意匠登録されています。意匠登録第1691930号「GUI」(出願人:Beijing DiDi Infinity Technology and Development)で、行き先入力フォーム、各種機能アイコン、地図ナビ機能などを含む配車アプリのメイン画面が保護されています。文字要素(地名等)は意匠の構成要素ではないものの、GUI全体のレイアウトと機能配置について権利範囲が及ぶ点がコメントされています。

  • 経営分析ダッシュボード画面(TKC) – 業務ソフト分野では、株式会社TKCによる財務・経営分析用UIも登録例があります。意匠登録第1675961号「経営分析用画像」では、企業の経営指標を多角形チャート(レーダーチャート)上にプロットし、自社の現状と前期、業界平均を比較表示する画面デザインが説明されています。画面中央に配置した多角形グラフの頂点に各指標を配置し、視覚的に自社の特徴と課題を把握できるUIとなっており、このようなビジネス分析ツールの画面も意匠権で保護され得ることがわかります。

(※本調査では、ソニーや任天堂といった国内大手企業によるUI画面の意匠登録事例は公報から確認できませんでした。しかし、近年はアップルやグーグルなど海外企業だけでなく、日本企業(楽天、NTTドコモ、ヤフー等)も画面意匠の出願を増やしており、今後さらなる事例公開が期待されます。)

代表的事例一覧(UIタイプ別)

以下の表に、上記で取り上げた代表的な意匠登録事例をUIの種類別にまとめます。

UIタイプ 登録意匠の例(登録番号) 出願人(権利者) 登録日 デザインのポイント
決済(カード情報表示) カード情報表示用画像(意匠登録第1791683号) 株式会社NTTドコモ 2025年2月12日 バーチャルカードの番号・コード表示。ロック解除操作でセキュリティコードを表示
予約/クーポン 宿泊施設予約画面のクーポン取得用画像(意匠登録第1687842号) 楽天グループ株式会社 2021年* 宿泊予約時に利用可能な複数クーポンを画面上で提示。割引適用状況を一覧表示するUI
チャット(メッセージ) 携帯情報端末(メッセージ通信機能UI)[意匠登録第1621588号] Google LLC 2018年* チャット入力欄と送信UI。テキストサイズ変更用スライドバーで文字装飾を動的変更
問い合わせチャット 問い合わせ情報表示用画像(意匠登録第1675969号) Arithmer株式会社 2021年* チャットボットによるQA画面。質問入力欄と回答表示欄、回答候補欄を備えた対話UI
経路案内(地図) 経路案内用画像(意匠登録第1686757号) ヤフー株式会社 2021年* 地図+渋滞情報の経路案内UI。出発時間スライダー操作で渋滞区間表示や所要時間が変化
ホーム画面/メニュー メニュー用画像(意匠登録第1691660号) アップル インコーポレイテッド 2021年* デバイスのホーム画面UI。アプリアイコンとウィジェット配置領域を備え、複数ページ切替表示
配車サービス GUI(意匠登録第1691930号) Beijing DiDi Infinity Technologyand Development 2021年* タクシー配車アプリのメイン画面。目的地入力フォーム、機能アイコン、地図表示などを一画面に配置

 

以上のように、日本でもスマートフォンアプリやウェブ画面のUIデザインが多数意匠登録されています。決済・金融、旅行・サービス、コミュニケーション、ナビゲーションなど幅広い分野で、画面上のレイアウトや操作要素の独創的なデザインが保護対象になっている点は、今後のUI/UX設計や知的財産戦略において示唆的です。各社は特許(機能面の保護)だけでなく意匠権(見た目・操作UIの保護)を組み合わせることで、自社サービスのユーザーインターフェースを包括的に守り、模倣品排除やブランド価値向上に活用していると言えるでしょう。