コンテンツまでスキップ

意匠法改正はどうなる?第23回意匠制度小委員会の資料から読む「仮想空間デザイン」と「生成AI」の検討状況を弁理士が解説

意匠法改正はどうなる?第23回意匠制度小委員会の資料から読む仮想空間デザインと生成AIの検討状況

2026年10月20日、特許庁の産業構造審議会 知的財産分科会 意匠制度小委員会(第23回)が開催され、資料1「意匠制度に関する検討課題について」が公表されました。議題は「仮想空間におけるデザインに関する意匠制度の在り方」と「生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応」の2つです。注目すべきは、メタバース上のデザイン保護について、これまで検討されてきた法改正を前提とする「原案」を見直し、「当面は法改正によることなく現行の画像意匠の枠組みで保護する」という方向性(案)が事務局から示された点です。本記事では、公表資料(全44ページ)を読み解き、何が議論され、どこへ向かおうとしているのかを弁理士の視点で整理します。

この記事のポイント

  • 第23回意匠制度小委員会(2026年10月20日)では、仮想空間デザインの保護について、法改正を要する「原案」から、現行法の枠内で対応できる「修正案」へ見直す案が示された。
  • 修正案の保護対象は「仮想オブジェクトの形状等を表した画像」。仮想空間上のサービスにおいて機器の機能に関連して一定の役割を果たすものに限られ、ゲーム・アニメの提供を目的とするサービスは含まれない。
  • 修正案の画像は現行の操作画像・表示画像の枠組みで捉えられるため、事務局案は「当面は法改正によらず保護」+「制度ユーザー・クリエイター向けガイドの作成」。
  • 生成AIについては「意匠」「創作者」「引用意匠適格性」「新規性喪失の例外」の4論点でヒアリング・海外調査を実施。結論は「引き続き調査・検討」で、直ちに制度改正する段階ではない。
  • 次回の小委員会は2026年12月頃の予定。メタバース関連のデザインは、現行制度でも画像意匠として出願できる余地があるため、今から権利化の検討を始める価値がある。

1. 第23回意匠制度小委員会で何が議論されたのか

OVERVIEW

意匠制度小委員会は、意匠法の改正や運用見直しの方向性を審議する特許庁の審議会です。2019年改正(画像・建築物・内装の保護拡充)もこの小委員会の報告書が土台になりました。

今回の小委員会は2026年10月20日(火)11時から、特許庁特別会議室とWeb会議の併用で開催されました。配布された資料1「意匠制度に関する検討課題について」は全44ページで、構成は次の3部です。

議題 内容 事務局が示した方向性(案)
1. 仮想空間におけるデザイン3Dモデル等で表される仮想空間上のデザインを意匠法でどう保護するか。これまで検討した「原案」を見直し「修正案」を提示当面は法改正によらず、現行の画像意匠の枠組みで保護。ユーザー・クリエイター向けガイドを作成
2. 生成AIと意匠制度「意匠」「創作者」「引用意匠適格性」「新規性喪失の例外」の4論点について、企業・有識者ヒアリングと五庁(日米欧中韓)の動向調査の結果を報告AIの技術水準や諸外国の検討状況を注視しつつ、引き続き調査・検討
3. 次回予定2026年12月頃に開催予定。上記2議題を継続審議―

ひとことで言えば、「メタバースのデザイン保護は法改正ではなく運用・ガイドで対応」「生成AIは結論を急がず調査継続」というのが今回の資料のメッセージです。以下、それぞれの中身を詳しく見ていきます。

2. 仮想空間デザインの保護:これまでの「原案」と3つの論点

なぜ検討が始まったのか

現行の意匠法(2020年4月施行の改正法)では、画像のデザインは「操作画像」(機器を操作するための画像)と「表示画像」(機器が機能を発揮した結果を表示する画像)に限って保護されています。詳しくは当事務所の画像意匠のデザイン保護事例やUI画面デザインの意匠登録事例で解説していますが、いずれも「機器等の機能」との結びつきが要件です。

一方、メタバースやVR空間で流通するアバター、家具、車両などの3Dモデルは、機器の操作や表示とは直接関係しない「仮想空間の中に存在するオブジェクト」です。こうしたデザインについて意匠法による保護を求める一定のニーズが存在することを踏まえ、小委員会は①保護対象、②意匠の類否判断、③実施行為の3つの論点に分けて検討を進めてきました。

第20回で示された「原案」の中身

これまで検討されてきた原案は、画像の意匠において、操作画像・表示画像に加えて「仮想物品等の形状等を表した画像」を第3の類型として保護対象に加えるというものでした。「仮想物品等の形状等を表した画像」と認められるには、次の2要件を満たす必要があるとされていました。

原案における保護対象の2要件

(1)画像として表される仮想物品等の形状等が、一の立体的形状を有し、任意の視点から見ることが可能であること
(2)画像として表される仮想物品等が、仮想物品等としての用途及び機能を備えていること

この類型は操作画像・表示画像とは別物なので、機器の機能との関係は不要とされていました。

類否判断については、実質的に守りたいのは仮想物品等の形状等であることから、「仮想物品等の需要者の視点」で形状等と用途・機能の類否を判断するとされました。資料では、仮想空間のソファは現実のソファのような着座機能を実際には持たなくても、「ソファとして認識させる」こと自体を用途・機能として認定できる、という考え方が示されています。

なお、本ブログでは2026年4月にメタバース上の車両デザインと意匠法改正の注目点として、この原案の方向性を前提にした解説を公開しています。今回の第23回資料はその方向性を大きく見直す内容ですので、本記事をあわせてお読みください。

3. ヒアリングで示された懸念と「修正案」への見直し

「権利が広すぎる」という現場の声

原案のまま現行法と同じ実施行為の規定を当てはめると、①保護対象の画像と②その画像を表示する機能を有する3Dモデルの両方が実施の対象になります(意匠法第2条第2項第3号)。すると、特定の仮想物品と認識できる3Dモデルを制作する行為、インターネット上で販売する行為、ユーザーが仮想空間で使用する行為のすべてに意匠権の効力が及び得ることになり、ヒアリングでは次のような消極的な意見が示されました。

  • 制作段階:練習やアイデア出しとして3Dモデルを「業として」制作する行為にまで権利が及ぶことへの懸念
  • コンテンツ制作:ゲームやアニメに用いる3Dモデルの作成に意匠権が及び得ることへの懸念
  • 使用段階:プラットフォームのユーザーが、ワールド内に配置された3Dモデルを「業として」使う行為にまで権利が及ぶことへの懸念
  • 一要素問題:多数の要素で構成される空間の一要素として組み込まれた3Dモデルに権利が及ぶことへの懸念

これらは権利の実効性とクリアランス調査(他人の権利を侵害しないかの事前調査)の負担とのバランスの問題です。事務局は、実施行為の範囲を個別に削るより前に、その前提となる保護対象と類否判断そのものを再検討すべきだと整理しました。

発想の転換:「仮想空間の内側」から「現実空間の利用者」の視点へ

修正案の鍵は、仮想物品の役割をどこから見るかという視点の転換です。資料はインテリアシミュレーションサービスのソファを例に、2つの捉え方を対比しています。

視点 ソファが果たす役割の捉え方 位置づけ
① 仮想空間の内側から見る「ソファとして認識させる役割」「アバターが着座する対象としての役割」原案の考え方。機器の機能とは無関係
② 仮想空間の外側(現実空間)から見る「インテリアシミュレーションを行うための操作対象としての役割」「シミュレーション結果を表示するための役割」修正案の考え方。いずれも機器の機能に関連する役割

仮想空間上のサービスは、VRゴーグルやパソコンといった機器を介して現実の利用者に何らかの機能(例:インテリアシミュレーション機能)を提供しています。そうである以上、仮想物品がサービスの中で果たす役割は機器の機能に関連するものとして捉えられる、というのが修正案の論理です。

修正案の内容

修正案(第23回資料・14〜15ページ)

保護を図るべきターゲットは、物品・建築物に限らない「仮想オブジェクトの形状等」(アバター、空間その他の仮想的な対象を含む)。これを「仮想オブジェクトの形状等を表した画像」を保護対象とすることで実質的に保護する。

ここでいう仮想オブジェクトとは、(a)一の立体的形状を有し、任意の視点から見ることが可能なものであって、(b)仮想空間上のサービスにおいて機器の機能に関連して一定の役割を果たすものをいう。

※「仮想空間上のサービス」には、ゲームやアニメの提供が目的とされているものは含まない。

類否判断は「画像の用途及び機能」、すなわち現実空間の利用者に対して仮想オブジェクトが機器の機能に関連してどのような役割を果たしているかに着目して行います。実施行為は、現行法の画像の意匠と同じ(作成・電気通信回線を通じた提供とその申出・使用、画像記録媒体等の譲渡・貸渡し・輸出・輸入とその申出)とされました。

重要:修正案では、機器の機能に関連する役割を果たさない3Dモデル(練習・アイデア出しで作るモデル、ゲーム・アニメ用のモデルなど)は、そもそも保護対象の画像に該当しません。したがって、それらを制作・販売・配置して使用する行為は実施行為に当たらず、ヒアリングで示された懸念の多くは保護対象の絞り込みによって解消される、と資料は整理しています。

4. 原案と修正案の比較:なぜ「法改正なし」という結論になったのか

修正案の最大のポイントは、保護対象の画像に「機器の機能との関係」が必要とされたことです。これは現行の操作画像・表示画像の要件そのものであり、資料は「修正案における画像は、現行意匠制度における画像(操作画像・表示画像)の保護の枠組みで捉え得る」と結論づけています。資料24ページの評価表を整理すると次のとおりです。

評価軸 原案 修正案 理由
現行意匠法との整合性×○原案は機器の機能との関係が不要なため法改正が必要。修正案は現行の枠組みで捉えられるため法改正不要
クリアランス調査の負担○◎修正案は「機器の機能に関連する役割」にも着目するため調査範囲を限定でき、負担は原案より小さい
権利の実効性◎○原案は「特定の仮想物品として認識させる用途・機能」が共通すれば権利が及ぶため実効性が高い。修正案は現行制度と同程度

つまり修正案は、原案に比べて権利の実効性では一歩譲るものの、法改正なしで速やかに対応でき、クリアランス負担も軽い「バランス型」の選択です。これを受けて事務局が示した「今後の対応の方向性(案)」は次の2点です。

今後の対応の方向性(案)

① 仮想空間におけるデザインについては、当面は法改正によることなく、修正案において保護対象となる画像を、現行意匠制度における画像の保護の枠組みの下で保護する。
② 事務局において、制度ユーザーやクリエイターに向けたガイドを作成し、周知を行う。

なお、ゲームやアニメの3Dモデルに意匠権が及ぶことへの懸念についても、資料は「現行意匠制度においては映画やゲーム等のコンテンツの画像は意匠登録を受けることができないため、現行の枠組みで対応するのであればこの懸念にも対応できる」と付記しています。

参考:有識者が示した「権利が及んでも実害は小さい」という見方

資料17〜18ページには、仮に意匠権の効力が及ぶ場面があっても実際の影響は限定的だとする有識者意見も収録されています。実務家として押さえておきたい論点を抜粋します。

  • 試験・研究の例外(意匠法第36条で準用する特許法第69条第1項):特許法と同様に狭く解されるため練習・試作への適用は難しいとする意見と、意匠法では広く解して改良のための試行錯誤を含めるべきとする意見の両方がある。
  • 過失の推定(意匠法第40条):ユーザーが使用前にクリアランス調査をする機会が全くなかった場合は、推定を覆して損害賠償責任を負わないとする余地がある。
  • 損害額:画像の使用はやめることが容易で、賠償額は第39条第3項のライセンス料相当額程度にとどまり得る。一要素のみの侵害であれば部分実施として推定覆滅がなされ、損害額は限定的になる。
  • 一要素問題:部品の意匠権が完成品に及ぶのと同様、空間の一要素であってもデータとして区別できる以上は権利が及ぶと考えるのが産業財産権全体のバランスに合う。

5. 実務への影響:メタバース関連デザインは今どう守るか

今回の資料が示唆する最も実務的なメッセージは、「機器の機能に関連する役割を果たす仮想オブジェクトであれば、現行法のもとでも操作画像・表示画像として意匠登録を受けられる可能性がある」ということです。資料22ページでは、インテリアシミュレーションサービスで配置を変更できるソファの形状等を表した画像は、操作画像・表示画像に該当するものと認められる、と明示されています。

保護対象になり得るもの・なりにくいもの

想定されるデザイン 修正案(現行枠組み)での見立て 理由
インテリアシミュレーションで配置・操作できる家具の3Dモデル保護対象になり得るシミュレーション機能の操作対象・結果表示という機器の機能に関連する役割を果たす
バーチャル試着・商品の3Dビューアで表示される商品モデル保護対象になり得る試着・閲覧機能に関連する役割を果たすと整理できる余地がある(画像の用途の記載が鍵)
業務用VR会議・研修プラットフォーム内の操作可能なオブジェクト保護対象になり得るサービスが機器を介して提供する機能との関連を説明しやすい
ゲーム内のキャラクター・アイテム・乗り物対象外ゲーム・アニメの提供を目的とするサービスは「仮想空間上のサービス」に含まれない。現行法でもコンテンツの画像は登録不可
鑑賞目的のみの3Dアート、練習・アイデア出しで作ったモデル対象外機器の機能に関連する役割を果たさない

注意:上記はあくまで第23回資料に示された事務局の考え方に基づく一般的な見立てです。小委員会での議論はまだ継続中であり、今後作成されるガイドや審査基準の改訂で具体的な線引きが示される見込みです。個別案件の可否は、出願時の「画像の用途」の記載や図面の表し方によっても左右されます。

出願戦略で意識すべき3点

第一に、「画像の用途」をサービスの機能と結びつけて記載することです。現行制度は、出願時に画像の用途を明らかにさせることで機器等の機能との関係を確認する設計になっています(2019年2月の小委員会報告書)。「仮想空間用のソファ」ではなく「インテリアシミュレーション用の操作画像」のように、現実空間の利用者に対して果たす役割から用途を定義する発想が必要です。

第二に、意匠権以外の保護手段と組み合わせることです。ゲーム・アニメ用のモデルや、機器の機能との関連を説明しにくいデザインについては、著作権、そして2024〜2026年に段階的に施行された改正不正競争防止法によるデジタル空間の形態模倣規制が引き続き主役になります。この点はメタバースのアバター模倣と改正不正競争防止法で詳しく解説しています。

第三に、現実の物品の意匠登録を並行して検討することです。現実の製品を仮想空間でも展開する企業であれば、物品の意匠権と画像の意匠権を組み合わせることで、現実と仮想の両面から模倣を牽制できます。意匠出願の基本的な流れは意匠登録の流れ5ステップを、当事務所のサポート内容は意匠出願サービスをご覧ください。

6. 生成AIと意匠制度:4つの論点と調査結果

2つ目の議題は生成AIです。資料は冒頭で、特許分野のDABUS事件について、2026年3月に最高裁が上告審として受理しない決定をしたことで知財高裁判決が確定し、発明者欄にAIの名称を記載した出願は却下されることが明らかになった、と触れています。意匠法も特許法と同じ「創作法」であるため、同様の問題意識から①意匠、②創作者、③引用意匠適格性、④新規性喪失の例外の4論点が検討されてきました。今回は、パッケージ・日用品・自動車・電機・ソフトウェア業界の企業と有識者へのヒアリング、および五庁(日本・米国・欧州・中国・韓国)の動向調査の結果が報告されました。

DEFINITION

資料でいう「AI自律デザイン」とは、生成AIを利用して作成したデザインのうち、人が創作に関与せず生成AIが自律的に作成したデザインを指します。単に「生成AIを利用して作成したデザイン」という場合はAI自律デザインを含みます。

論点① 「意匠」:AI自律デザインを保護すべきか

ヒアリングでは意見が割れました。「AI自律デザインに意匠権を認めると企業のイノベーションが阻害され、自社デザインの権利化も難しくなるので保護すべきでない」という意見がある一方、「AI自律デザインかどうかは区別できないため、認めざるを得ない」という現実論もありました。また、「現状の技術水準では、特にハードウェアについて、製造ノウハウの学習が不十分なため実製品に耐えるデザインをAIが自律的に創作するのは難しい」との指摘も出ています。

論点② 「創作者」:誰が創作者になるのか

AIを活用したデザインの創作者認定について、明確な考え方はまだ存在しません。ヒアリングでは、人同士の創作者認定で用いられている「意匠の創作に実質的に関与した者」という基準をAI活用デザインにもそのまま適用すべきだ、という意見が目立ちました。基準を変えると創作者の範囲が広がって手続が複雑になり、報奨金の寄与率も薄まる、という企業実務からの懸念も示されています。

裁判例が示す「創作者」の考え方

大阪高判平成6年5月27日(平成5年(ネ)第2339号)および東京地判令和3年9月1日(平成30年(ワ)第38585号ほか)は、創作者を「意匠の創作に実質的に関与した者」とし、具体的には「形態の創造、作出の過程にその意思を直接的に反映し、実質上その形態の形成に参画した者」と定義しています。主体的意思を欠く補助者や、単に課題を指示・示唆したにとどまる命令者は含まれません。生成AIへの指示が「単なる課題の指示」にとどまるのか、「形態の形成への参画」といえるのかが、今後の実務上の分かれ目になるでしょう。

対応の方法としては「法改正ではなく、創作者認定に関する公的な指針を整備するソフトランディングが望ましい」「AI技術の進展が速く、どの時点の技術水準に合わせて制度を作るか判断が難しいので様子見が必要」「他国との制度調和も重要」といった意見が寄せられています。

論点③ 「引用意匠適格性」:AI生成デザインは拒絶理由の根拠になるか

インターネット上に大量に公開されるAI生成画像が、他人の意匠出願に対する新規性・創作非容易性の引用例になるかという論点です。ヒアリングでは「生成AIによるものか判別できない以上、引用意匠に何らかの限定を課すのは現実的でない」「公開されている以上、引用例になるのは致し方ない」という意見が多数でした。一部には「実施を目的としない公開(ファンアート等)は引用意匠の適格性を欠くと扱うべき」という意見もありました。

資料は、現行の意匠法と意匠審査基準を前提とした整理も示しています。

  • AI生成デザインを画像のデザインとして捉えた場合:操作画像・表示画像でない限り通常は画像の「意匠」に該当せず、引用する「意匠」の根拠資料として採用し得ない。
  • AI生成デザインを画像に表された物品等のデザインとして捉えた場合:引用の根拠資料となり得るが、出願意匠と対比可能な程度に物品等の用途・機能が特定でき、形状等が具体的に表され、かつ出願前に公知となったことが確認できる必要がある。

この整理に対しては「妥当で納得できる」という肯定的な意見が多かったとのことです。出願人の側から見れば、AI生成画像であっても用途・機能と形状が具体的であれば先行意匠になり得るため、出願前の先行意匠調査でAI生成コンテンツを除外できない点に注意が必要です。

論点④ 「新規性喪失の例外」:第三者がAIで派生デザインを公開したら

出願人の既存デザインを第三者が生成AIに学習・入力して類似デザインを生成・公開した場合、それが出願人の後の出願を拒絶する根拠になってしまうのではないか、という論点です。現行の新規性喪失の例外(意匠法第4条)は「意に反して」または「行為に起因して」新規性を失った場合を救済しますが、有識者からは「AIが既存デザインを学習して類似の別デザインを生成した場合、現行類型への当てはめは困難」「拡張して対応するのは困難で、対応するなら立法」「『基づき』の立証が問題」といった意見が示されました。新規性喪失の例外の基本は意匠の新規性喪失の例外の解説記事をご参照ください。

こうしたデザインを拒絶理由の根拠から除外する取扱いについてユーザーにも尋ねたところ、特定の業界からは必要性を認める声があったものの、「AIの学習過程や生成過程を客観的に立証することが困難で、制度としての実現可能性に課題がある」との意見が大多数でした。

実務上の含意:第三者によるAI派生デザインの公開は、現時点では救済が期待しにくいリスクです。発表前に出願を済ませる「出願ファースト」の原則が、生成AI時代にはいっそう重要になります。

7. 諸外国の動向:米国の方針転換と韓国の新ガイド

資料は「これらの論点への対応について、国際的にも方向性が定まっていない」と総括しています。主要国の状況は次のとおりです。

国・地域 動向
米国(USPTO)2024年2月13日に「AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンス」を公表(共同発明者間のPannu基準をAI対人に適用、AIの重要な貢献の申告義務あり)。しかし2025年11月28日に撤回・全面改定し、AIは自然人が用いる単なるツールであると明示。従来の単独発明者の「着想基準」で判断し、申告義務も撤回。米国では意匠は意匠特許として保護されるため、このガイダンスが意匠にも及ぶ
韓国2026年7月9日に「AI活用デザイン出願ガイド」を公表。AIは創作者とできないと明記しつつ、AIを活用したデザインでも登録要件を満たし、創作者として記載された者の実質的な寄与が認められれば意匠登録を受けられると示す
英国2020年に創作者・権利者の論点について意見募集を実施し、2021年の政府応答文書で「デザイン分野については現時点で措置を講じる必要性は認められないが、引き続き状況を注視する」との見解

自然人の貢献に着目する国、AIを単なるツールとする国、特段の措置は不要と整理した国に分かれており、米国に至っては一度出したガイダンスを撤回しています。この状況で日本が先行して制度を固めるリスクは大きく、資料が「現在のAIの技術水準はどの程度か、AI自律デザインは将来的にどの程度あり得るのか、諸外国の最新の検討状況を注視しつつ、引き続き調査・検討が必要ではないか」という方向性(案)にとどめたのは自然な判断といえます。特許分野の生成AI論点は生成AIと特許の関係を解説した記事もあわせてご覧ください。

8. 今後のスケジュールと企業・クリエイターが取るべき対応

次回の意匠制度小委員会は2026年12月頃に開催予定で、今回の2議題について委員の指摘を踏まえて引き続き議論するとされています(議題は変更の可能性あり)。今後のウォッチポイントと、今からできる準備を整理します。

ウォッチポイント

  • 修正案が委員の支持を得るか:原案より権利の実効性が下がる点について、権利者側の委員からどのような意見が出るか。
  • ガイドの内容:「機器の機能に関連して一定の役割を果たす」の具体例、画像の用途の記載例、図面の表し方がどこまで示されるか。
  • 審査基準の改訂の有無:法改正なしで対応する場合、意匠審査基準や審査ハンドブックの改訂で運用が明確化される可能性がある。
  • 生成AI論点の次の一手:創作者認定の公的指針の整備に進むのか、調査継続にとどまるのか。

今からできる準備

立場 推奨アクション
仮想空間サービスを提供する事業者自社サービス内のオブジェクトが「機器の機能に関連する役割」をどう果たしているかを棚卸しし、主要なオブジェクトについて操作画像・表示画像としての出願可能性を検討する。公開前の出願を徹底する
現実の製品を仮想空間にも展開するメーカー物品の意匠権に加え、バーチャル試着・シミュレーション等で用いる画像の意匠権を組み合わせる。クロスリアリティの模倣には改正不正競争防止法も併用する
3Dモデル・アバターのクリエイターゲーム・アニメ用途や鑑賞目的のモデルは意匠法の対象外となる見込みのため、著作権・不正競争防止法・利用規約による保護を整える。今後公表されるガイドを確認する
生成AIをデザイン業務に使う企業誰がどのように形態の形成に関与したかを記録し、創作者認定の根拠を残す。AI生成画像も先行意匠になり得る前提で調査する。発表前出願を徹底する

まとめ

第23回意匠制度小委員会の資料は、メタバース上のデザイン保護について「新しい類型を法改正で作る」原案から、「現実空間の利用者に対して機器の機能に関連する役割を果たす仮想オブジェクトを、現行の操作画像・表示画像として保護する」修正案へと舵を切る内容でした。権利の実効性では原案に劣るものの、法改正なしで速やかに対応でき、クリアランス負担も軽いというバランスが評価されています。生成AIについては4論点でヒアリングと海外調査を重ねたうえで、国際的な方向性が定まらない中、引き続き調査・検討する姿勢が示されました。

実務の観点では、「仮想空間のデザインだから意匠登録は無理」と決めつける時代は終わりつつある一方、保護の可否は「画像の用途」をサービスの機能とどう結びつけて説明できるかにかかっています。12月の次回小委員会と、その後に公表されるガイドの内容を注視しつつ、今のうちに自社のデジタルデザインの棚卸しと出願戦略の検討を始めることをお勧めします。

メタバース・デジタルデザインの意匠出願のご相談

知的財産事務所エボリクスは、画像意匠・UI/UXデザイン・仮想空間向けデザインの意匠出願から、著作権・不正競争防止法を組み合わせたデジタルコンテンツの保護戦略まで、実務経験豊富な弁理士がサポートします。「このオブジェクトは画像意匠で守れるか」といった初期段階のご相談もお気軽にどうぞ。

お問い合わせフォームへ → ご相談の流れを見る

出典・参考文献

本記事は、以下の一次資料および公的機関の資料を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。

法令・公的機関の資料

  1. 特許庁「第23回意匠制度小委員会 議事次第・配布資料一覧」(2026年10月20日)/開催日時・議題・配布資料の構成(第1章)。
    https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/23-shiryou.html
  2. 特許庁 産業構造審議会 知的財産分科会 意匠制度小委員会「資料1 意匠制度に関する検討課題について」(2026年10月20日)/原案・修正案の内容、ヒアリング結果、原案と修正案の評価表、今後の対応の方向性(案)、生成AI4論点の調査結果、諸外国の動向、次回予定(第2〜8章の全般)。
    https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/document/23-shiryou/03_shiryo-1.pdf
  3. 特許庁「意匠制度小委員会」(過去の開催回の資料一覧)/第20回で示された原案、前回までの検討経緯(第2章)。
    https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/index.html
  4. 特許庁「意匠審査基準」/操作画像・表示画像の要件、画像の用途の記載、引用意匠の取扱い(第2章・第5章・第6章)。
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/shinsa_kijun/index.html
  5. 意匠法(昭和34年法律第125号)e-Gov法令検索/第2条(画像の実施の定義)、第4条(新規性喪失の例外)、第36条(特許法第69条の準用)、第39条・第40条(損害額の推定・過失の推定)(第3〜6章)。
    https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000125

実務ガイド・専門家による解説

  1. JETROニューヨーク事務所 知的財産部「USPTO、AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスを発行」(2024年2月)/米国の旧ガイダンスの内容(第7章)。
    https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240213.pdf
  2. JETROニューヨーク事務所 知的財産部「USPTO、AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスを改定」(2025年11月)/米国の新ガイダンス(着想基準・申告義務撤回)(第7章)。
    https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2025/20251128.pdf

判例・実務動向

  1. 大阪高判平成6年5月27日(平成5年(ネ)第2339号)/共同創作者該当性における「意匠の創作に実質的に関与した者」の基準(第6章)。資料1の33ページに引用。
  2. 東京地判令和3年9月1日(平成30年(ワ)第38585号・平成31年(ワ)第10171号)/冒認出願の事案における創作者の定義(第6章)。資料1の33ページに引用。
  3. 知財高裁 DABUS事件判決および最高裁の上告不受理決定(2026年3月)/AIを発明者とする出願の取扱い(第6章)。資料1の29ページの記述による。

※本記事は上記の資料を基に、2026年10月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。小委員会の資料は事務局の「案」であり、今後の審議やガイド・審査基準の改訂により内容が変わることがあります。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。