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キプロス商標制度の実務ガイド|商標法Cap.268(2020年EU指令対応改正)・登記局知的財産課は先行商標も職権審査+公告後3か月の異議・行政裁判所・電子出願129ユーロ・不使用取消は5年・EU域内消尽・北部は権利が及ばず、EUTMとマドプロとの使い分けを弁理士が徹底解説

キプロス商標制度の実務ガイド|商標法Cap.268(2020年EU指令対応改正)・登記局知的財産課は先行商標も職権審査+公告後3か月の異議・行政裁判所・電子出願129ユーロ・不使用取消は5年・EU域内消尽・北部は権利が及ばず、EUTMとマドプロとの使い分けを弁理士が徹底解説

キプロス共和国は東地中海に浮かぶ面積9,251平方キロメートル(四国の約半分)、人口約136万人の島国で、1960年に英国から独立、2004年にEUに加盟し、2008年にユーロを導入しました。GDPは約376億米ドル、1人当たりGDPは約3万8,700米ドル(2023年、世界銀行)で、観光業、金融業、海運業が主要産業です。法人税率の低さから国際企業の持株会社・知的財産保有会社が多く置かれ、ハルミチーズやキプロスワインなどの地理的表示産品も知られています。日本との関係では、2018年1月に在キプロス日本国大使館が開設され、2025年の日本からの輸出は約1,074億円(機械・輸送用機器等、船舶関連が中心)、キプロスからの輸入は約4.28億円(食品、化学製品等)、在留邦人は112人(2024年10月)です(外務省)。なお、島の北部は1974年以降トルコ系が事実上支配する地域で、日本政府もEUも「北キプロス」を国家承認しておらず、EU法の適用も停止されています。2026年1月から6月までキプロスはEU議長国を務めています。

キプロスの商標制度は、英国統治時代に遡る商標法(第268章、Ο περί Εμπορικών Σημάτων Νόμος、Cap. 268)を、EU商標指令(2015/2436)に合わせて全面改正した2020年改正法(法律63(I)/2020、2021年の法律107(I)/2021で追加改正)に基づき、ニコシアの会社・知的財産登記局(Department of the Registrar of Companies and Intellectual Property)知的財産課が審査・登録を行います。2020年改正で、現地弁護士(advocate)経由の出願義務の廃止、多区分出願、電子出願の割引料金、登記局ウェブサイトでの公告、異議期間の3か月への延長、存続期間の7年から10年への延長が実現しました。審査では絶対的理由に加えて先行登録商標との同一・類似(第7条1項)を職権審査する点がEU加盟国の中では少数派で、公告後3か月の異議、登記局の決定に対する行政裁判所への不服申立て、不使用取消・無効の登記局への請求(裁判所への提訴も可)という構成です。費用はユーロ建てで電子出願129ユーロ(1区分、追加区分94ユーロ)、更新73ユーロ+区分59ユーロ、異議・取消・無効は各348ユーロです。本記事では、商標法第268章の2021年改正までの公式英訳と2020年商標規則(K.Δ.Π. 259/2020)の料金表、登記局のガイダンス、WIPO統計を基に、日本企業が知っておくべきキプロス商標の実務を弁理士が整理します。

この記事のポイント

  • 根拠法は商標法第268章(2020年の法律63(I)/2020でEU指令対応に全面改正、2021年改正あり)と2020年商標規則(K.Δ.Π. 259/2020)、審査機関はニコシアの会社・知的財産登記局 知的財産課。方式審査(補正2か月)→絶対的理由(第6条)と先行商標との同一・類似(第7条1項)の職権審査→登記局サイトで公告→公告から3か月の異議(周知・名声商標、未登録標識、氏名権・著作権等は異議で)。拒絶・異議・取消・無効の決定は行政裁判所へ不服申立て(第32条)
  • 費用は電子出願129ユーロ(1区分、追加区分94ユーロ)=約2.3万円、3区分で317ユーロ(約5.6万円)、紙出願は141ユーロ+102ユーロ。出願前の予備意見99ユーロ(追加区分77ユーロ)、更新73ユーロ+区分59ユーロ(紙75+60)、異議・取消・無効は各348ユーロ、権利回復70ユーロ。EUTMは850ユーロ、マドプロ指定は個別手数料なし(補足手数料CHF 100)
  • 存続期間は出願日から10年(更新は満了前6か月、満了後6か月は50%増しで追納、未更新は抹消)。不使用取消は登録から5年で登記局または裁判所(第39条・第42条)、無効も同じ。登録5年超の先行商標は異議・無効で使用証明を求められ、使用を知って5年黙認すると無効請求できない(悪意を除く、第14条)。絶対的理由に基づく無効請求は登録から5年以内という独自の期間制限あり(悪意の出願を除く、第42条4項)
  • 2020年改正で現地弁護士を通じた出願義務と委任状の提出義務が廃止され、出願人自身または代理人が電子出願できる。ただし登記局との連絡用にEEA域内の公式住所が必要(第60条)で、手続言語はギリシャ語のため、日本企業は実務上キプロスの弁護士・商標代理人を通じて出願する
  • 侵害訴訟は地方裁判所(2022年法で設置された商事裁判所が知財事件を額にかかわらず管轄する予定)で、差止、損害賠償、流通経路の情報提供(第78条)、判決公表を請求でき、差止命令違反には5万9,800ユーロ以下の罰金または3年以下の拘禁(第82条)。消尽はEU域内消尽(第15条)で、自由流通に置かれない通過貨物にも権利が及ぶ(第9条4項)。税関はEU規則608/2013の税関差止申請(AFA)で対応し、2025年7月には観光地で約4,000点の模倣品が押収された
  • 国内出願は年間900〜1,000件前後(2022年951件、2023年924件)、登録は2023年1,191件、WIPO統計では2024年の出願3,421区分(外国出願人が50.5%)、有効登録2万9,817件。キプロスの出願人は国外への出願が多く(マドプロ274件、人口比で世界2位)、国際企業の知財保有会社が集まる国の特徴を示す。島の北部にはキプロス共和国の実効支配が及ばず、北部での権利行使は事実上できない

目次

  1. キプロス商標制度の全体像:商標法第268章・2020年改正・登記局知的財産課・行政裁判所
  2. 市場環境と統計:国内出願900件台、外国出願人が半数、知財保有会社の国
  3. 保護対象と拒絶理由:音・動き・位置の商標、絶対的理由、先行商標は職権審査
  4. 出願手続の流れ:予備意見・電子出願・方式審査2か月・公告・登録証
  5. 費用一覧(2020年商標規則の料金表・EUTM・マドプロ)
  6. 公告後3か月の異議:和解期間2か月・理由補充2か月・使用証明・行政裁判所
  7. 登録・存続期間・更新:出願日から10年、満了後6か月の50%増し追納、権利回復
  8. 不使用取消(5年)と無効:登記局か裁判所か、5年の黙認、絶対的理由の無効は5年以内
  9. 使用・譲渡・ライセンス・消尽:EU域内消尽と通過貨物への権利行使
  10. 侵害訴訟と救済:地方裁判所と商事裁判所、情報提供、差止違反の罰則
  11. 刑事罰:登録簿の虚偽記載、登録商標の虚偽表示、警察知財犯罪課
  12. 税関と模倣品対策:EU規則608/2013・AFA・北部からの物品とグリーンライン規則
  13. EUTM・マドプロ・国内出願の使い分けと日本企業の実務ポイント
  14. よくある質問(FAQ)
  15. まとめ
  16. 出典・参考文献

1. キプロス商標制度の全体像:商標法第268章・2020年改正・登記局知的財産課・行政裁判所

キプロスの商標制度の根拠法は、商標法第268章(The Trade Marks Law, Cap. 268)です。英国統治時代に制定された法律に由来し、独立後も英国型の登記官(Registrar)制度を引き継いできましたが、EU商標指令(指令(EU) 2015/2436)の国内法化のため、2020年の法律63(I)/2020で全面的に書き換えられ、2021年の法律107(I)/2021で定義規定などが追加改正されました。改正後の条文は、商標の定義と権利取得(第4〜5条)、絶対的・相対的理由(第6〜8条)、権利の内容と制限(第9〜17条)、財産権としての商標(第18〜20条)、出願・審査・異議・登録・更新(第21〜36条)、放棄・取消・無効(第37〜45条)、証明標章・団体商標(第46〜55条)、EUTMからの転換・期間延長・公告(第56〜58条)、登記官の権限・登録簿の更正・訴訟手続(第59〜80条)、罰則(第81〜83条)で構成されています。手続の細目と料金は2020年商標規則(Οι περί Εμπορικών Σημάτων Κανονισμοί του 2020、K.Δ.Π. 259/2020)が定めます。

審査・登録機関は、エネルギー・商業・産業省の下にある会社・知的財産登記局(Τμήμα Εφόρου Εταιρειών και Διανοητικής Ιδιοκτησίας、Department of the Registrar of Companies and Intellectual Property)の知的財産課(Intellectual Property Section)で、ニコシアに所在します。商標法の条文上は旧称の「会社登記官・公式管財人局」が「Office(登記局)」と定義されており、登記官(Registrar)が決定権者です。登記局の決定(出願の拒絶、異議・取消・無効の決定、方式上の拒絶)に対する不服は、通常の裁判所への提訴の権利を妨げない形で、行政裁判所(Διοικητικό Δικαστήριο、Administrative Court)への不服申立てとして行います(第32条)。侵害訴訟は「管轄裁判所」すなわち各地区の地方裁判所(Επαρχιακό Δικαστήριο)が第一審で、2022年の商事裁判所・海事裁判所設置法により、知的財産に関する紛争は訴額にかかわらず商事裁判所の管轄に入ることとされ、同裁判所では当事者の申立てにより英語での審理も認められます(稼働開始の時期は執筆時点で未確認です)。

島の北部とEU法の適用停止

キプロス共和国は法的には島全体を領域としますが、1974年以降、北部約37%はトルコ系が事実上支配しており、2003年加入条約の議定書10によりEU法(商標指令・EUTM規則・税関執行規則を含む)の適用は北部で停止されています。キプロス共和国の登録商標やEUTMを根拠に北部で差止や押収を実現することは事実上できず、北部で流通する物品はEUの「グリーンライン規則」(規則(EC) 866/2004)に基づく検査を経て南部に持ち込まれます。北部向けの事業を検討する場合は、法的保護が及ばない前提でブランド戦略を立てる必要があります。日本政府は「北キプロス・トルコ共和国」を承認していません。

キプロスは、パリ条約、TRIPS協定、商標法条約(TLT)、マドリッド協定およびマドリッド議定書(いずれも2003年11月4日発効)の加盟国で、EU加盟国としてEU商標(EUTM)の効力が及びます。ニース分類を採用し(第26条)、多区分出願が可能です。制度の骨格は次の表のとおりです。

項目 キプロスの制度(根拠条文)
根拠法商標法第268章(法律63(I)/2020による全面改正、法律107(I)/2021による改正)、2020年商標規則(K.Δ.Π. 259/2020)、EU商標規則(EU)2017/1001、EU税関執行規則(EU)608/2013
管轄機関会社・知的財産登記局 知的財産課(ニコシア)。決定権者は登記官。登記局の決定に対する不服は行政裁判所(第32条)
審査の範囲方式審査(第25条、補正期間2か月)、絶対的理由(第6条)と先行商標との同一・類似(第7条1項)の職権審査(第27条)。名声商標・未登録標識・氏名権等(第7条3〜4項)は異議・無効でのみ
公告・異議登記局ウェブサイトで公告(第58条)、公告から3か月以内に異議(第28条、348ユーロ)。相対的理由の異議は2か月の和解期間(最長6か月まで延長)、異議人は2か月以内に理由・証拠を補充(第30条)
存続期間・更新出願日から10年(第34条)。満了前6か月に更新、満了後6か月は50%増しで追納、登記局が6か月前に通知
不使用取消・無効登録から5年の不使用、普通名称化、誤認で取消(第39条)、絶対的・相対的理由で無効(第40条)。いずれも登記局に請求(第42条、各348ユーロ)、裁判所への提訴も可。絶対的理由の無効請求は登録から5年以内(悪意を除く)
代理・住所出願人自身または代理人が出願可(第21条、2020年改正で弁護士経由の義務と委任状の提出義務を廃止)。公式連絡先はEEA域内の住所(第60条)
消尽・通過貨物EU域内消尽(第15条)。自由流通に置かれていない第三国からの通過貨物にも権利行使可(第9条4項)
条約パリ条約、TRIPS、商標法条約、マドリッド協定・議定書(2003年11月4日発効、宣言なし・個別手数料なし)、EU加盟(2004年5月1日)

2. 市場環境と統計:国内出願900件台、外国出願人が半数、知財保有会社の国

キプロスの国内商標出願は年間900件台で推移しています。登記局がWIPOに提出した年次報告によると、2022年の出願は951件(前年比11%減)、登録976件、2023年の出願は924件(3%減)、登録1,191件(22%増)でした。WIPOの統計プロファイル(2024年)では、区分数ベースで出願3,421区分(前年比5.6%増)、うちキプロス居住者1,695区分(49.5%)、外国出願人1,726区分(50.5%)、登録3,302区分、有効登録2万9,817件(世界90位)、審査官1人当たりの出願488.7件、登録までの遅延30日と算定されています。登記局の統計ページによると、2026年1〜7月の国内商標出願は582件、国際登録(マドプロ)のキプロス指定は337件、2026年7月末時点の国内登録商標の累計は2万9,552件です。

年 国内出願 国内登録 備考
2022年951件(−11%)976件(−8%)登記局の年次報告(WIPO)
2023年924件(−3%)1,191件(+22%)登記局の年次報告(WIPO)
2024年3,421区分(+5.6%)3,302区分WIPO統計(区分数ベース)。外国出願人50.5%、有効登録2万9,817件
2026年1〜7月582件—登記局統計。マドプロのキプロス指定337件。7月末の累計登録2万9,552件

キプロスの特徴は、国内市場の小ささに比べてキプロスの出願人による国外への出願が多いことです。WIPO統計によると、2024年にキプロスの出願人が行った商標出願は合計1万8,653区分(前年比16.2%増、世界52位)で、うち国外への出願が1万3,577区分、EUIPOへのEUTM出願が3,381区分、マドプロ国際出願が274件(人口100万人当たりでは世界2位)に上ります。上位出願人にはAmdocs Development LimitedやBitdefender IPR Management Ltdなど国際企業のキプロス法人が並び、低い法人税率を背景に知的財産保有会社の所在地としてキプロスが使われている実態を反映しています。日本企業がキプロスに知財保有会社を置く例は多くありませんが、キプロス法人を相手方とする商標の譲渡・ライセンス契約や、キプロス法人名義の先行EUTMに遭遇する場面は珍しくありません。国内市場では観光(2023年の訪問者約600万人)、海運、金融、医薬品、食品(ハルミチーズ、ワイン、柑橘)が主要分野で、日本からの輸出は船舶関連を含む機械・輸送用機器が中心です。

3. 保護対象と拒絶理由:音・動き・位置の商標、絶対的理由、先行商標は職権審査

商標法第4条は、商標を「語(人名を含む)、図形、文字、数字、色彩、商品や包装の形状、音などあらゆる標識」で、(a) 自他商品・役務の識別力があり、(b) 保護対象を明確かつ正確に特定できる方法で登録簿に表示できるものと定義しています。EU指令に合わせて図形的表現の要件は撤廃され、2020年商標規則の出願様式には文字商標、図形商標、立体商標、音商標、動き商標、位置商標などの種別が設けられています。商標権は登録によって取得され(第5条)、未登録の使用標識は第7条4項の「先行権利」として後願の登録を妨げる形で保護されます。証明標章(第46〜47条)と団体商標(第48〜55条)も登録でき、使用規約の提出が必要です。

絶対的理由(第6条)は、第4条の要件を満たさない標識、識別力のない商標、記述的商標、慣用化した標識、商品の性質・技術的結果・実質的価値に由来する形状その他の特徴のみから成る標識、公序良俗違反、品質・産地等の誤認、パリ条約6条の3の国章・記章、宗教的シンボルなど公共的に重要な標識(第6条1項)、EU法・国内法で保護される原産地呼称・地理的表示、ワインの伝統的表現、伝統的特産品、植物品種名称(第6条2項)、悪意の出願(第6条3項)です。識別力・記述性・慣用性を理由とする拒絶は、出願日前の使用により識別力を獲得していれば回避でき(第6条4項)、出願後登録前に識別力を獲得した場合にも適用される点(第6条5項)はEU指令の任意規定を採用したものです。

相対的理由(第7条)は、(1) 先行商標と同一・類似で商品役務も同一・類似のため混同(連想を含む)のおそれがある場合、(2) 先行商標がキプロスで(EUTMならEUで)名声を有し不正な利益や損害が生じる場合、代理人・代表者による無断出願、先行する原産地呼称・地理的表示の出願、(3) 未登録商標その他の使用標識、氏名権、肖像権、著作権、産業財産権、外国で保護される商標との混同(出願人が悪意の場合)です。「先行商標」にはEUTM、キプロス国内登録商標、キプロスを指定する国際登録、それらの出願、パリ条約6条の2の周知商標が含まれ、EUTMのシニオリティも考慮されます(第7条2項)。先行権利者が書面で同意すれば、明らかに公衆を誤認させる場合を除き、登録を拒絶しないことができます(第7条5項、同意書の制度)。

先行商標との抵触は登記局が職権審査する

第27条1項は「第6条または第7条1項の拒絶理由がなければ出願を受理し公告する」と定めており、登記局は絶対的理由に加えて、先行登録商標(EUTM・国内・国際登録)との同一・類似による混同のおそれを職権で審査します。EU加盟国の多くが相対的理由を異議にのみ委ねる中、キプロスは英国型の職権審査を維持した少数派です(アイルランド、ポルトガルなどと同様)。一方、名声商標、未登録標識、氏名権・著作権などの先行権利(第7条3〜4項)は職権審査の対象外で、公告後3か月の異議または登録後の無効請求で争います。出願前には、EUTM・国際登録・キプロス国内登録を横断するTMviewなどでの先行調査に加え、登記局に予備意見(第21条2項、99ユーロ)を求めて拒絶リスクを事前に確認することができます。

4. 出願手続の流れ:予備意見・電子出願・方式審査2か月・公告・登録証

出願は、商標の所有者であると主張する者が自ら、または代理人を通じて登記局に行います(第21条1項)。2020年改正前はキプロスの弁護士(advocate)を通じてのみ出願でき、委任状の提出も必須でしたが、改正でいずれも廃止され、任意となりました。出願は紙または電子で行え(第23条2項)、登記局の電子出願システムを使うと料金が割り引かれます。ただし、登記局との公式な連絡先として欧州経済領域(EEA)域内の住所を届け出る必要があり(第60条)、様式と手続はギリシャ語で運用されるため、キプロスに拠点のない日本企業は、実務上はキプロスの弁護士事務所または商標代理人を通じて出願することになります(英語での書類提出の可否は現地代理人に確認が必要です)。出願前に、登記局に対して予備意見(preliminary opinion)を求め、第6条・第7条の要件を満たすかどうかの見解を得ることができます(第21条2項、99ユーロ、追加区分77ユーロ)。

出願日の認定(第22条)には、料金納付の証明と、(a) 登録の請求、(b) 第4条(b)の要件を満たす商標の表示、(c) 出願人の名称・営業所住所・電子メールアドレス(法人は名称と登記上の住所)、(d) 商品・役務のリスト、が必要です。出願には番号と出願の日時が付与され登録簿に記載されます(第24条)。商品・役務はニース分類に従い、十分に明確かつ正確に指定しなければならず、不明確な表示は規則の期間内に修正しないと拒絶されます(第26条)。多区分出願が可能で、2区分目以降は追加料金がかかります。パリ条約の優先権は6か月で、優先権主張書と先の出願の写し、先の出願がギリシャ語でない場合はギリシャ語訳を規則の期限内に提出します(第17条)。

段階 内容(根拠条文) 期間・費用
予備意見(任意)第6条・第7条の要件を満たすかの登記局の見解(第21条2項)99ユーロ+追加区分77ユーロ
出願紙または電子出願。出願日の要件は第22条。EEA域内の連絡先住所(第60条)電子129ユーロ+94ユーロ/追加区分、紙141+102ユーロ
方式審査出願日の要件(第22条)と第23条・第26条の要件を審査。不備は補正を命令(第25条)。出願日の要件の不備を補正すると補正日が出願日になる補正期間2か月。未補正は出願扱いせず(第22条関係)または拒絶(第23・26条関係)
第三者の情報提供登録前に誰でも、登録すべきでない理由を書面で登記官に提出できる。提出者は手続の当事者にならない(第26条5項)無料
実体審査絶対的理由(第6条)と先行商標との同一・類似(第7条1項)を審査(第27条)。拒絶理由への応答は規則の様式で提出審査期間の法定はなし
受理・公告拒絶理由がなければ受理し、登記局ウェブサイト(および官報第5付録)で公告(第27条・第58条)公告から3か月の異議期間(第28条)
登録異議がない、または異議が退けられると登録手続が完了し、登録証を発行(第33条)。保護は出願日に遡る登録料は出願料に含まれる
不服申立て拒絶決定・異議決定等に対して行政裁判所へ(第32条)行政訴訟手続法の期間(通常75日)による

登記局は、出願日の要件(第22条)と、その他の方式要件(第23条・第26条)を審査し、不備があれば2か月以内の補正を命じます(第25条)。出願日の要件に関する不備を期間内に補正した場合は、補正が完了した日が出願日となる点に注意が必要です(第25条3項)。補正しなければ、出願日の要件の不備は出願として扱われず記録にとどめられ、その他の要件の不備は拒絶されます。実体審査で拒絶理由がなければ出願は受理され、規則の定める方法で公告されます(第27条)。公告は登記局のウェブサイト上で行うことができ(第58条)、実務上は官報(Επίσημη Εφημερίδα)第5付録第II部にも掲載されています。公告から3か月の異議期間が経過すると登録手続が完了し、登録証が発行されます。登録日は登録手続完了日ですが、優先日は出願日に遡ります(第33条3項)。

審査期間の法定はなく、登記局も平均処理期間を公表していません。WIPO統計の「登録までの遅延30日」は受理後の登録処理に関する指標とみられ、出願から登録までの実際の所要期間は、拒絶理由がなければ公告までの審査期間に異議期間3か月を加えた期間になります(現地事務所の案内では概ね6〜12か月とされることが多く、これは目安です)。出願人は、出願または登録を2以上に分割でき(第35条)、分割後の出願は原出願の出願日を維持しますが、異議・取消・無効の対象となっている商品役務を分割する申請は、手続が確定するまで認められません。登記局は、必要に応じて手続を停止し、期間満了前に理由を付して請求された期間延長を認めることができます(第57条)。

5. 費用一覧(2020年商標規則の料金表・EUTM・マドプロ)

登記局の料金は2020年商標規則(K.Δ.Π. 259/2020)付属書第I部(規則51)に定められ、電子出願には割引料金が設定されています(第62条2項(b))。金額はユーロ建てで、円換算は1ユーロ≒176円(2026年10月下旬の欧州中央銀行参考レート)で計算した目安です。

手続(様式) 電子出願 紙出願 備考
予備意見(E.Σ.01)99ユーロ(1区分)+77ユーロ/追加区分出願前の任意手続(第21条2項)
出願(E.Σ.02)129ユーロ(約2.3万円)+94ユーロ/追加区分141ユーロ+102ユーロ/追加区分3区分の電子出願は317ユーロ(約5.6万円)。登録料・公告料は別途不要
団体商標・証明標章の出願415ユーロ+116ユーロ/追加区分443ユーロ+128ユーロ/追加区分使用規約の提出が必要
異議(E.Σ.14)348ユーロ(約6.1万円)公告から3か月以内(第28条)
取消請求(E.Σ.23)348ユーロ不使用・普通名称化・誤認(第39条)
無効請求(E.Σ.27)348ユーロ絶対的・相対的理由(第40条)
更新(E.Σ.07)73ユーロ(約1.3万円)+59ユーロ/追加区分75ユーロ+60ユーロ/追加区分満了後6か月の追納は50%増し。団体・証明標章は110/112ユーロ+59/60ユーロ
権利回復(E.Σ.12)70ユーロ期間徒過の回復(第36条)
放棄(E.Σ.22)49ユーロ第38条
名称・住所変更(E.Σ.08)51ユーロ+18ユーロ/追加区分出願人・権利者・ライセンシー・弁護士の変更
譲渡・ライセンス等の記録(E.Σ.10)118ユーロ+26ユーロ/追加区分(その他の変更は120ユーロ)第18〜20条
登録簿の調査・謄本(E.Σ.13)登録簿検索10ユーロ、認証謄本14ユーロ、異議・無効・取消用の写し38ユーロ、履歴証明87ユーロ第33条4項

比較のため、EUTMの出願料は電子出願で1区分850ユーロ、2区分目50ユーロ、3区分目以降は各150ユーロで、キプロスを含むEU27か国をカバーします。マドプロでキプロスを指定する場合、キプロスは個別手数料を宣言していないため、基本手数料(CHF 653、色彩付きはCHF 903)に補足手数料CHF 100と区分追加手数料(4区分目以降CHF 100)を加えた標準料金で済みます。日本の特許庁を本国官庁とするマドプロ出願では、日本の基礎出願・登録が必要です。キプロス単独で権利を取得する場合の公的費用は、1区分129ユーロ(約2.3万円)と安価ですが、これに現地代理人の費用(事務所により異なり、出願から登録までで数万円から十数万円程度が目安)が加わります。

料金表の確認について

上記は2020年商標規則(K.Δ.Π. 259/2020)の付属書に基づく金額で、登記局の更新ガイダンス(電子73ユーロ・紙75ユーロ、追加区分59/60ユーロ、追納50%増し)および現地法律事務所が2026年に公表した料金表(出願129/94ユーロ、更新73/59ユーロ、異議348ユーロ)と一致しています。規則の改正により変更される可能性があるため、出願前に登記局の「Forms & Fees」ページで最新の金額を確認してください。

6. 公告後3か月の異議:和解期間2か月・理由補充2か月・使用証明・行政裁判所

登記官の登録決定(受理)が公告されると、公告から3か月の除斥期間内に異議を申し立てることができます(第28条1項)。この期間は権利回復(第36条)の対象外で、延長もできません。異議理由は第6条の絶対的理由と第7条1項・3項・4項の相対的理由で、絶対的理由の異議は正当な利益を有する者が、相対的理由の異議は先行商標・先行権利の所有者および原産地呼称・地理的表示の権利者が申し立てます(第28条2〜3項)。異議は同一の権利者に属する複数の先行商標・権利を根拠にでき、先行商標の一部の商品役務に基づき、出願の一部の商品役務に対して行うこともできます(第28条4〜5項)。異議は書面で行い、異議料348ユーロの納付がなければ適法に提出されたとは扱われません(第29条)。

異議が受理可能と判断されると、異議書と証拠が出願人(被申立人)に送付されます。相対的理由に基づく異議では、登記局が両当事者に2か月の和解期間(cooling-off)を通知し、双方の請求で最長6か月まで延長できます(第30条2項)。和解が成立すれば異議手続は決定なしに終了し、期限までに結果の通知がなければ不成立とみなされます。その後、異議人は2か月以内に理由を展開し証拠を提出し(第30条4項)、出願人が意見と反証を提出、異議人が再反論でき、再反論は出願人に参考送付されて審理が終結します(第30条5〜6項)。手続は書面審理が原則で、事案の複雑さから正当化される例外的な場合に当事者の請求で口頭審理が認められます(第30条10項)。登記官は裁量権を出願人・権利者に不利に行使する前に聴聞の機会を与えなければならず(第67条)、証拠は原則として宣誓供述書で提出します(第76条)。

段階 期間 根拠条文
異議申立て公告から3か月(除斥期間、権利回復・延長不可)、348ユーロ第28条、第29条、第36条2項
和解期間2か月(双方の請求で最長6か月)。相対的理由の異議のみ第30条2〜3項
異議理由の補充異議人が2か月以内に理由と証拠を提出第30条4項
出願人の答弁・使用証明の請求答弁期間内に、登録5年超の先行商標について使用証明を請求可。答弁は使用証明の提出後に行える第30条5・7〜8項、第31条
再反論・審理終結異議人の再反論は出願人に参考送付。例外的に追加の意見・証拠や口頭審理を許可第30条6・9〜10項
決定全部または一部の商品役務について拒絶、または異議を棄却して受理。費用の負担を命令可第30条11項、第68条
不服申立て行政裁判所へ(憲法146条の行政訴訟、提訴期間75日)。裁判所への提訴の権利を妨げない第32条

使用証明(第31条)は、出願人の請求により、登録から5年以上経過した先行商標の所有者が、後願の出願日または優先日前5年間に先行商標を真正に使用していたこと、または不使用の正当な理由を証明する制度です。一部の商品役務についてのみ使用が証明された場合はその部分についてのみ登録されているものとみなされ、証明できなければ異議は本案を審理されずに棄却されます(第31条4項)。先行商標がEUTMの場合、真正使用はEU商標規則18条に従って判断されます。登記局の決定に対しては、行政裁判所への不服申立てが可能で、申立ては登記局にも通知します(第32条)。行政裁判所の判決に対してはさらに上級裁判所への上訴が可能ですが、登記局の決定から確定までには相応の期間を要するため、和解期間を活用した共存合意や指定商品の限定による解決が実務上は重要です。

7. 登録・存続期間・更新:出願日から10年、満了後6か月の50%増し追納、権利回復

商標の存続期間は出願日から10年で、権利者の請求と更新料の納付により10年ずつ無期限に更新できます(第34条1〜2項)。2020年改正前は7年(更新14年)でしたが、EU指令に合わせて10年に統一されました。更新の請求と納付は保護期間の最後の6か月に行い、満了後6か月の追納期間には規則で定める割増料金(更新料の50%増し)を支払って更新できます(第34条3項)。登記局は満了の6か月前に権利者に更新の可能性と未更新の帰結、追納の可能性を通知することとされていますが、通知を怠っても登記局は責任を負いません(第34条4項)。追納期間内にも更新されなければ商標は登録簿から抹消され(第34条5項)、一部の商品役務についてのみ更新料を納付した場合はその部分についてのみ更新されます(第34条6項)。登記局は要件を満たすと更新証明書を発行し、登録簿を更新して官報に公告します。

項目 内容
存続期間出願日から10年、10年ごとに更新(第34条)。EUTMからの転換商標は、EUIPOへの出願日(優先日・シニオリティ)が基準(第56条)
更新期間満了前6か月。満了後6か月は50%増しで追納。電子73ユーロ+59ユーロ/追加区分、紙75ユーロ+60ユーロ/追加区分
未更新追納期間の満了で抹消(第34条5項)。更新の失念は権利回復の対象になるが、6か月の追納期間は1年の上限から控除(第36条7項)
分割出願・登録を2以上に分割可、出願日は維持(第35条)。異議・取消・無効の対象部分は手続確定まで分割不可
権利回復相当な注意を払っても不可抗力等で期間を徒過した場合、障害の消滅から2か月以内かつ期間満了から1年以内に申請(第36条)、70ユーロ。異議期間と優先権には適用なし。善意の第三者の中間権利は保護
登録簿の更正権利者の請求による名称・住所の訂正、商品役務の削除、権利不要求の記載(第66条)。利害関係人は裁判所または登記官に登録簿の更正を請求可(第64〜65条、訴訟係属中は裁判所へ、第75条)

権利回復(restitutio in integrum、第36条)は、出願人・権利者・手続の当事者が、状況に応じた相当の注意を払ったにもかかわらず不可抗力、予見不能の事態その他本人の責任によらない重要な理由で期間を遵守できず、その結果として権利や救済手段を失った場合に、障害の消滅から2か月以内、かつ徒過した期間の満了から1年以内に申請できます。異議期間(第28条1項)と優先権に関する期間には適用されません(第36条2項)。回復が認められた場合でも、徒過から回復決定までの間に善意で権利を取得した第三者に対しては権利を主張できません(第36条6項)。更新の失念については、6か月の追納期間が1年の上限から差し引かれるため、実質的に満了後1年以内に申請する必要があります(第36条7項)。

8. 不使用取消(5年)と無効:登記局か裁判所か、5年の黙認、絶対的理由の無効は5年以内

登録商標は、権利者の放棄、取消、無効により登録簿から抹消されます(第37条)。放棄(第38条)は権利者の書面による宣言で、全部または一部の商品役務について行え、登録簿に記載されて初めて効力が生じます。ライセンスが登録されている場合は、ライセンシーに通知し同意を得たことを証明しなければ放棄は記録されません(第38条3項、49ユーロ)。取消(第39条)の理由は、(a) 登録から継続5年間の不使用または5年間の使用中断、(b) 権利者の作為・不作為により商品役務の普通名称になったこと、(c) 権利者またはその同意を得た使用により性質・品質・産地について公衆を誤認させるおそれが生じたこと、です。一部の商品役務についてのみ理由がある場合はその部分のみ取り消されます。

不使用の5年は登録手続の完了日から起算し(第16条1項・3項、起算日は登録簿に記載)、キプロスを指定する国際登録については拒絶・異議の対象でなくなった日(異議・拒絶があればその確定日)から起算します(第16条2項)。識別力を変えない形態での使用、輸出専用の商品・包装への付加、権利者の同意を得た使用も使用に当たります(第16条4〜5項)。取消請求前に使用を開始・再開していれば取り消されませんが、請求前3か月以内の開始・再開は、権利者が取消請求の可能性を知った後に準備した場合は考慮されません(第39条3項)。取消の効果は請求日から生じ、当事者の請求があり事情が正当化する場合は取消理由の発生日に遡らせることができます(第39条4項)。不使用取消では、権利者が使用を証明する責任を負います(第42条5項)。

項目 取消(第39条) 無効(第40条)
理由登録から5年の不使用、普通名称化、誤認を生じる使用第6条の絶対的理由(悪意を含む)、第7条の相対的理由(先行商標、名声商標、未登録標識、氏名権・著作権等)
申立人自然人・法人、製造業者・サービス提供者・商人・消費者を代表する団体(第42条2項(a))絶対的理由は上記と同じ。相対的理由は先行商標・先行権利の所有者、地理的表示の権利者(第42条2項(b)(c))
管轄登記局に請求(348ユーロ)。裁判所への提訴の権利は妨げられない(第42条1項)。手続は異議手続の第30条5〜10項を準用(第42条7項)。決定に対する不服は行政裁判所(第32条)
期間制限なし(不使用は登録から5年経過後)絶対的理由に基づく請求は登録から5年以内(悪意の出願は保護期間中いつでも、第42条4項)。相対的理由は5年の黙認で失権(第14条)
使用証明権利者が使用を証明(第42条5項)被請求人の請求により、登録5年超の先行商標の所有者が請求日前5年間の使用を証明。後願の出願日時点で5年経過していればその時点の使用も証明(第43条)
効果請求日から効力喪失(請求により理由発生日に遡及可、第39条4項)初めから効力がなかったものとみなす(第40条3項)

絶対的理由に基づく無効請求の5年制限

第42条4項は、第6条の絶対的理由に基づく無効請求を登録から5年以内に行うべきものとし、悪意の出願の場合のみ保護期間中いつでも請求できると定めています。EU商標指令やEUTM規則には絶対的理由の無効請求に期間制限はなく、キプロス独自の規定です。記述的・識別力のない商標が登録されてしまった場合、登録から5年を経過すると無効を争えなくなる可能性があるため、問題のある登録を発見したら早期に対応する必要があります。この規定とEU法との整合性については、執筆時点で裁判例や当局の見解を確認できていません。

無効(第40条)は、第6条・第7条に反して登録された商標を初めから無効とする制度です。先行商標に基づく無効請求は、後願の出願日・優先日の時点で先行商標がまだ識別力・名声を獲得していなかった場合には認められず(第41条、中間権利)、先行商標の所有者が後願商標の使用を知りながら5年間継続して黙認した場合は、後願が悪意で出願されたのでない限り無効を請求できません(第14条)。相対的理由に基づく無効請求を退けられた者は、最初の請求で主張できた理由に基づいて再度請求することはできません(第42条3項)。国内商標の放棄・失効後にそのシニオリティがEUTMに主張されている場合、放棄・失効時に無効・取消が可能であったことを事後的に確定でき、その場合シニオリティは効力を失います(第42条6項)。無効・取消の請求は登記局に対して行うのが原則ですが、侵害訴訟の係属中は裁判所に対して行います(第75条)。

9. 使用・譲渡・ライセンス・消尽:EU域内消尽と通過貨物への権利行使

登録商標の権利者は、同一標識を同一商品役務に使用する行為、同一・類似標識を同一・類似の商品役務に使用して混同(連想を含む)のおそれを生じさせる行為、キプロスで名声を有する商標について商品役務の類否を問わず不正な利益や損害を生じさせる使用を、第三者に対して差し止めることができます(第9条2項)。禁止できる行為には、商品・包装への付加、販売の申出・流通・在庫、輸入・輸出、商号・会社名としての使用、取引書類・広告での使用、指令2006/114/ECに反する比較広告が含まれます(第9条3項)。包装・ラベル・タグ・セキュリティ機能への付加や流通といった準備行為も禁止でき(第10条)、辞書・百科事典で普通名称のように掲載された場合は登録商標である旨の表示を求めることができます(第11条)。代理人・代表者・弁護士が無断で自己名義で登録・出願した商標については、使用の禁止と自己への譲渡を請求できます(第12条)。

通過貨物については、EU指令に従い、第三国からキプロスに持ち込まれ自由流通に置かれていない商品(包装を含む)が登録商標と同一または本質的に区別できない商標を無断で付している場合、権利者はその持込みを阻止できます(第9条4項)。ただし、EU規則608/2013と「知的財産権侵害物品の移動の規制に関する法律」に基づく手続の中で、申告者または所持者が最終仕向国で権利者がその商品の流通を禁止できないことを証明した場合、この権利は失われます(第9条5項)。消尽はEU域内消尽で、権利者自身またはその同意を得てEU域内で市場に置かれた商品については、商品の状態が変化・劣化したなど正当な理由がない限り権利を行使できません(第15条)。日本を含むEU域外で販売された正規品の並行輸入は、キプロスの登録商標またはEUTMで差し止めることができます。

商標権の効力は、第三者(自然人)の氏名・住所、記述的表示、用途(アクセサリー・部品など)を示すために必要な商標の使用には及ばず、いずれも商工業上の誠実な慣行に従った使用であることが条件です(第13条)。譲渡(第18条)は企業の移転とは独立に行え、企業全体の移転には別段の合意がない限り商標の移転が含まれ、譲渡証書を登記官に通知して登録簿に記録します。出願中の権利も譲渡できます。ライセンス(第19条)は独占・非独占、商品役務や地域の一部について設定でき、ライセンス契約は書面で行い、写しを登記官に通知して登録簿に記録します。ライセンシーは権利者の同意がなければ侵害訴訟を提起できませんが、独占的ライセンシーは権利者に催告しても相当期間内に提訴しない場合に自ら提訴でき、権利者が提起した訴訟に損害賠償のため参加できます。商標は企業とは独立に担保権・物権の対象、強制執行・倒産手続の対象となり、登記官に通知して記録します(第20条)。譲渡・ライセンスの記録料は118ユーロ(追加区分26ユーロ)です。

10. 侵害訴訟と救済:地方裁判所と商事裁判所、情報提供、差止違反の罰則

商標権侵害の民事訴訟は、商標法上の「管轄裁判所」である地方裁判所(Επαρχιακό Δικαστήριο)に提起します。2022年5月に成立した「商事裁判所および海事裁判所の設置・運営に関する法律」は、知的財産および関連する権利に関する紛争を、訴額(通常は200万ユーロ以上)にかかわらず商事裁判所の管轄とし、憲法3条の改正により、当事者の請求があれば裁判官の判断で英語による審理と書面の提出が認められます。商事裁判所の稼働開始時期は執筆時点で確認できていないため、提訴先は現地弁護士に確認が必要です。訴訟手続はギリシャ語が原則で、登記局の決定に対する不服は行政裁判所が審理します(第32条)。登録簿に権利者として記載されていることは、登録とその後の譲渡の有効性の一応の証拠となり(第70条)、登記官の認証謄本は原本なしに証拠として認められます(第79条)。

  • 差止命令:侵害を認定した裁判所は、将来の侵害の反復を禁止する命令を発し、命令に従わない場合は5万9,800ユーロ以下の罰金もしくは3年以下の拘禁またはその併科を科すことができます(第82条1項)。
  • 判決の公表:申立人の請求により、侵害者の費用で判決の全部または一部の公表その他の情報周知措置を命じることができます(第82条2項)。
  • 情報提供命令:商業的規模の侵害について、当事者の理由を付した申立てにより、侵害品を商業的規模で所持・使用・提供していた者や、それらの者から関与者として指名された者に対し、製造者・流通業者・供給者・卸売業者・小売業者の名称と住所、製造・納入・受領・注文の数量、価格の開示を命じることができます(第78条)。
  • 損害賠償・その他の救済:執行指令(2004/48/EC)を国内法化した法律に基づき、損害賠償、証拠保全、暫定的差止、侵害品の回収・廃棄を請求できます。登記官の決定に基づく手続では、登記官が合理的な費用の負担を命じることができ、地方裁判所判事の許可により判決と同様に執行できます(第68条)。
  • 不使用の抗弁・中間権利:被告の請求により、原告は提訴前5年間の真正使用または不使用の正当理由を証明しなければならず(第44条)、後願登録商標が無効とされない場合はその使用を差し止められません(第45条)。

登録簿の更正を求める訴訟では登記官が出廷して意見を述べる権利を持ち、裁判所の指示があれば出廷しなければなりません(第74条)。裁判所と登記官のいずれにも申請できる事項(登録簿の更正など)について、商標に関する訴訟が係属中の場合は裁判所に申請しなければならず、登記官は審理のどの段階でも事件を裁判所に移送できます(第75条)。商標に関する英国法系の判例法が参照されることも多く、キプロスの裁判所は英国の判例や、EU法の解釈についてはEU司法裁判所の判例を引用します。侵害訴訟は数年を要することがあり、暫定的差止命令(interim injunction)の活用と、税関差止・警察の知財犯罪課との連携が実務上の鍵になります。

11. 刑事罰:登録簿の虚偽記載、登録商標の虚偽表示、警察知財犯罪課

商標法第268章の罰則規定は、英国法系の伝統を引き継いだ内容です。登録簿への虚偽記載(第81条)は、登録簿に虚偽の記載をし、または虚偽の記載の写しと称する文書を作成・提出した者を、1年以下の拘禁もしくは1,708ユーロ以下の罰金またはその併科に処します。登録商標の虚偽表示(第83条)は、登録されていない標章を登録商標であると表示する、登録商標の一部を別途登録されているように表示する、登録されていない商品役務について登録されているように表示する、登録簿の制限にかかわらず排他権があるように表示する行為を犯罪とし、213ユーロ以下の罰金を科します。キプロスで標章に関して「registered」の語や登録を示唆する語を使用することは、この虚偽表示に当たり得るため、日本の登録商標に®を付した商品をそのままキプロスで販売する場合は注意が必要です(第83条2項)。差止命令への不服従は5万9,800ユーロ以下の罰金または3年以下の拘禁です(第82条)。

行為 法定刑 根拠条文
差止命令への不服従5万9,800ユーロ以下の罰金、3年以下の拘禁、または併科第82条1項
登録簿への虚偽記載・虚偽の写しの提出1年以下の拘禁、1,708ユーロ以下の罰金、または併科第81条
登録商標の虚偽表示(「registered」等の表示を含む)213ユーロ以下の罰金第83条

模倣品の製造・販売そのものに対する刑事訴追は、商標法ではなく刑法典その他の法律と、税関・警察の執行に委ねられています。キプロス警察には知的財産犯罪・違法賭博対策課(Intellectual Property Crime and Illegal Betting Unit)が置かれ、税関局と合同で観光地の小売店を摘発しており、2025年7月にはアヤナパとプロタラスの7店舗で約4,000点の模倣品(時計、サングラス、帽子、バッグ、財布など)が押収され、店舗側が廃棄費用を含む合計4,300ユーロを支払う示談で処理されました。模倣品の刑事罰の法定刑については、執筆時点で一次資料を確認できていないため、本記事では記載していません。

12. 税関と模倣品対策:EU規則608/2013・AFA・北部からの物品とグリーンライン規則

キプロスはEU加盟国として、EU規則(EU)608/2013(知的財産権の税関執行規則)と、これを補完する国内法「知的財産権侵害物品の移動の規制に関する法律」に基づき、財務省税関局(Τμήμα Τελωνείων、Customs Department)が国境での模倣品の差止を行います。権利者は税関差止申請(Application for Action、AFA)を提出し、キプロス国内のみの申請(国内申請)か、EUTMや国際登録のEU指定を根拠にEU全域で効力を持つ申請(EU申請)かを選びます。EU申請はEUIPOのIP Enforcement Portalから電子的に提出でき、1本の申請でキプロスを含む全加盟国の税関が対象になります。差止後は10営業日(生鮮品は3営業日)以内に侵害の有無を確認し、申告者が異議を述べなければ簡易手続で廃棄に同意させ、争われれば裁判所に提訴します。キプロスはレバノン、エジプト、イスラエル、湾岸諸国との物流が多く、リマソール港とラルナカ港を経由する中東向けの積替貨物に通過貨物の規定(第9条4項)を適用できる点が特徴です。

島の北部は、EU法の適用停止により税関執行規則が及ばず、北部から南部への物品の移動はグリーンライン規則(規則(EC) 866/2004)に基づく検問所での検査を経て行われます。北部で製造・流通する模倣品が南部に持ち込まれる場合は、検問所でのキプロス共和国当局による検査と、国内での税関・警察の執行が対応手段になります。北部に直接出荷される貨物については、キプロス共和国の登録商標やEUTMに基づく差止はできません。トルコ経由で北部に入る貨物についてはトルコの税関手続と商標登録が問題になるため、北部での模倣品対策を検討する場合はトルコでの権利取得も視野に入れる必要があります。

キプロス税関の差止統計について

キプロス税関局の年次差止件数は、執筆時点で一次資料を確認できていません。欧州委員会とEUIPOが毎年公表するEU全体の国境執行統計には加盟国別の内訳が含まれており、キプロスの差止はEU全体に占める割合は小さいものの、観光地向けの衣料品・アクセサリー類が中心とされています。本記事では、税関局が公表した2025年7月の合同摘発(約4,000点押収)を具体例として挙げるにとどめています。

13. EUTM・マドプロ・国内出願の使い分けと日本企業の実務ポイント

日本企業がキプロスで商標を保護する方法は、(1) EUTM(EUIPOへの出願、850ユーロで27か国)、(2) マドプロの国際登録でEUまたはキプロスを指定(キプロス指定の補足手数料CHF 100)、(3) キプロス国内出願(電子129ユーロ)の3通りです。キプロスは2003年11月4日にマドリッド協定・議定書の加盟国となり、拒絶通報期間や個別手数料に関する宣言を行っていないため、国際登録のキプロス指定は12か月以内の拒絶通報と標準の補足手数料で処理されます。EU全体で事業を行う企業にはEUTMが第一選択で、キプロスの国内出願が意味を持つのは、ギリシャ語表記のブランド、キプロス限定の事業(観光、飲食、不動産、海運サービスなど)、EUTMが他の加盟国の先行商標で拒絶・無効になった場合の国内出願への転換(第56条、EUIPOへの出願日・優先日・シニオリティを維持)、キプロス法人の知財保有会社への商標集約といった場面です。

項目 キプロス国内出願 EUTM マドプロ(キプロス指定)
公的費用(1区分)電子129ユーロ(追加区分94ユーロ)850ユーロ(2区分目50、3区分目以降150)基本CHF 653+補足CHF 100(4区分目以降CHF 100/区分)
審査絶対的理由+先行商標との同一・類似を職権審査絶対的理由のみ、相対的理由は異議キプロス登記局が国内出願と同じ基準で審査、拒絶通報12か月
異議公告から3か月、348ユーロ、和解期間2か月公告から3か月、320ユーロ、和解期間2か月(延長可)キプロスでの公告から3か月(国内手続)
不使用取消登録から5年、キプロス国内での使用が必要登録から5年、EU域内のいずれかでの真正使用で足りる拒絶・異議の対象でなくなった日から5年
代理・住所代理人は任意だがEEA域内の連絡先住所が必要、手続はギリシャ語EEA域外の出願人はEUIPO代理人が必要(出願自体は可)拒絶通報があれば現地代理人が必要
向いている場面ギリシャ語ブランド、キプロス限定の事業、EUTMからの転換、低コストでの先行権利確保EU全域での事業、税関差止をEU申請1本で日本の基礎出願・登録を軸に多国を一括管理

実務上のポイントは次のとおりです。第一に、登記局が先行商標との抵触を職権審査するため、出願前にTMviewと登記局の登録簿でEUTM・国際登録・国内登録を横断的に調査し、必要なら予備意見(99ユーロ)を利用して拒絶リスクを把握します。第二に、キプロスに拠点のない日本企業はEEA域内の連絡先住所(第60条)が必要で、手続はギリシャ語のため、現地の弁護士事務所または商標代理人を通じて出願します(委任状の公証は不要になりました)。第三に、異議期間3か月は権利回復の対象外で、登記局の公告(ウェブサイト・官報第5付録)の監視体制を整える必要があります。第四に、登録から5年の不使用取消と5年の黙認による失権、絶対的理由の無効請求の5年制限があるため、キプロスでの使用証拠(ギリシャ語・英語のカタログ、請求書、ウェブサイト)を継続的に保存し、問題のある他人の登録は早期に対応します。第五に、島の北部にはキプロス共和国の権利が事実上及ばないため、北部向けの事業ではトルコでの権利取得を併せて検討します。第六に、EU域内消尽のため日本からの正規品の並行輸入は差し止められる一方、他のEU加盟国で販売した商品のキプロスへの転売は止められません。

よくある質問(FAQ)

Q1. EUTMを持っていればキプロスの国内出願は不要ですか?

原則として不要です。EUTMはキプロスを含むEU27か国で効力を持ち、キプロスの登記局も先行商標としてEUTMを職権審査の対象にします(第7条2項)。国内出願が意味を持つのは、(1) ギリシャ語表記やキプロス限定のブランド、(2) EUTMが他の加盟国の先行商標で拒絶・無効になった場合の国内出願への転換(第56条)、(3) EUTM出願前にキプロスの先行権利を低コストで押さえたい場合、(4) キプロス法人の知財保有会社に商標を集約する場合です。ただし、EUTMもキプロス国内登録も島の北部では事実上行使できません。

Q2. 登記局は先行商標を調べてくれますか?

はい。第27条1項により、登記局は第6条の絶対的理由に加えて、第7条1項の先行商標(EUTM・国内登録・キプロスを指定する国際登録とその出願、周知商標)との同一・類似による混同のおそれを職権で審査し、該当すれば拒絶理由を通知します。EU加盟国の多くが相対的理由を異議にのみ委ねる中、キプロスは英国型の職権審査を維持しています。一方、名声商標の希釈化、未登録標識、氏名権・著作権などの先行権利(第7条3〜4項)は職権審査の対象外で、公告後3か月の異議または無効請求で争います。先行権利者の書面による同意(同意書)があれば、明らかな誤認のおそれがない限り登録が認められます(第7条5項)。

Q3. 現地代理人は必要ですか?委任状の公証は必要ですか?

2020年改正で、キプロスの弁護士(advocate)を通じて出願する義務と、出願時の委任状の提出義務は廃止され、出願人自身または任意の代理人が電子出願できるようになりました(第21条)。ただし、登記局との公式な連絡先としてEEA域内の住所を届け出る必要があり(第60条)、様式と手続はギリシャ語で運用されるため、キプロスに拠点のない日本企業は実務上、キプロスの弁護士事務所または商標代理人に依頼することになります。委任状が必要な場合も公証・認証は求められていません(事務所の方針により署名入りの委任状の提出を求められることはあります)。

Q4. 登録までどのくらいかかりますか?

審査期間の法定はなく、登記局も平均処理期間を公表していません。方式審査の補正期間は2か月(第25条)、受理後の公告から異議期間が3か月(第28条)あり、拒絶理由や異議がなければ出願から概ね6〜12か月で登録証が発行されるのが現地事務所の一般的な案内です(目安であり、審査の滞留状況により変動します)。WIPO統計では登記局の「登録までの遅延」が30日と算定されていますが、これは受理後の登録処理に関する指標とみられます。先行商標との抵触を職権審査するため、拒絶理由通知への応答や同意書の取得で期間が延びることがあります。保護は出願日に遡ります(第33条3項)。

Q5. 使っていない商標はいつ取り消されますか?

登録手続の完了から5年以内にキプロス国内で真正な使用を開始しないか、継続5年間使用を中断すると、利害関係人の請求により登記局(348ユーロ)または裁判所が登録を取り消します(第16条、第39条、第42条)。使用の証明責任は権利者にあります。取消請求前に使用を再開していれば取り消されませんが、請求を予期した後の請求前3か月以内の再開は考慮されません。識別力を変えない形態での使用や輸出専用の商品への付加も使用に当たります。マドプロの国際登録では5年の起算日が、キプロスで拒絶・異議の対象でなくなった日です(第16条2項)。登録5年超の先行商標は、異議・無効・侵害訴訟でも使用証明を求められます(第31条、第43〜44条)。

Q6. 模倣品が入ってきたら税関で止められますか?北部はどうなりますか?

キプロス共和国の港・空港については、EU規則608/2013に基づく税関差止申請(AFA)を提出すれば、税関局が第三国からの輸入・輸出・通過貨物を差し止めます。EUTMや国際登録のEU指定を根拠にすればEU全域に効力のある申請を1本で提出でき、EUIPOのIP Enforcement Portalから電子申請できます。差止後は10営業日以内に侵害を確認し、簡易手続で廃棄への同意を得るか、裁判所に提訴します。島の北部ではEU法の適用が停止されており、キプロス共和国の税関も警察も執行できません。北部から南部への物品はグリーンライン規則に基づく検問所での検査の対象になります。北部向けの事業ではトルコでの商標登録と税関登録を併せて検討してください。

Q7. 費用の総額はいくらですか?

国内出願の公的費用は電子出願で1区分129ユーロ(約2.3万円)、追加区分94ユーロで、3区分なら317ユーロ(約5.6万円)です。登録料・公告料は別途かかりません。これに現地代理人の費用(事務所により異なり、出願から登録までで数万円から十数万円程度が目安)が加わり、拒絶理由対応や異議は別途かかります。出願前の予備意見は99ユーロ、10年後の更新は電子73ユーロ+追加区分59ユーロ(満了後6か月の追納は50%増し)、異議・取消・無効は各348ユーロ、権利回復は70ユーロです。EUTMは1区分850ユーロで27か国、マドプロのキプロス指定は補足手数料CHF 100です。円換算は1ユーロ≒176円(2026年10月下旬)で計算した目安です。

まとめ

キプロスの商標制度は、英国法系の商標法第268章を2020年にEU商標指令に合わせて全面改正したもので、ニコシアの会社・知的財産登記局知的財産課が絶対的理由と先行商標との抵触を職権審査し、公告後3か月の異議(和解期間2か月、理由補充2か月、使用証明)を経て登録され、登記局の決定は行政裁判所で争う仕組みです。費用は電子出願1区分129ユーロ、3区分317ユーロと手頃で、2020年改正により弁護士経由の出願義務と委任状の提出義務が廃止されましたが、EEA域内の連絡先住所とギリシャ語の手続が必要なため、日本企業は現地代理人を通じて出願します。存続期間は出願日から10年、不使用取消は登録から5年、絶対的理由の無効請求は登録から5年以内という独自の制限があり、消尽はEU域内消尽で通過貨物にも権利が及びます。EU全域の事業にはEUTMが第一選択ですが、ギリシャ語ブランドやキプロス限定の事業、EUTMからの転換、知財保有会社への集約では国内出願が有効です。島の北部には権利が事実上及ばない点は、キプロスに特有の注意点です。

各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。

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出典・参考文献

本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。商標法の条文は、国際機関WIPOのデータベース「WIPO Lex」に掲載された2021年改正までの公式英訳と、キプロス法律情報サイトCyLawのギリシャ語統合版を照合しました。

法令(WIPO Lex・CyLaw・EUR-Lex)

  1. キプロス商標法第268章(The Trade Marks Law, Cap. 268、法律63(I)/2020および107(I)/2021による改正までの統合版・公式英訳)/商標の定義(第4条)、絶対的・相対的理由と同意書(第6〜8条)、権利の内容・準備行為・通過貨物(第9〜10条)、代理人商標(第12条)、制限・黙認・消尽・使用・優先権(第13〜17条)、譲渡・ライセンス・担保(第18〜20条)、出願・予備意見・出願日・方式審査・分類・情報提供・実体審査(第21〜27条)、異議・使用証明・行政裁判所(第28〜32条)、登録簿・存続期間・更新・分割・権利回復(第33〜36条)、放棄・取消・無効・使用証明・中間権利(第37〜45条)、証明標章・団体商標(第46〜55条)、転換・期間延長・公告・EEA住所(第56〜60条)、規則・更正・登記官の権限・費用(第62〜68条)、一応の証拠・情報提供命令・証拠(第70〜80条)、罰則(第81〜83条)の根拠。
    https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/22794
  2. Ο περί Εμπορικών Σημάτων Νόμος (ΚΕΦ.268)(商標法第268章・ギリシャ語統合版、CyLaw)/英訳の条文番号・用語の照合、改正法(63(I)/2020、107(I)/2021)の確認。
    https://www.cylaw.org/nomoi/enop/non-ind/0_268/full.html
  3. Οι περί Εμπορικών Σημάτων Κανονισμοί του 2020(2020年商標規則、K.Δ.Π. 259/2020、CyLaw)/付属書第I部(規則51)の料金表:予備意見99/77、出願(紙)141/102、出願(電子)129/94、団体・証明標章443/128・415/116、異議348、取消348、無効348、更新(紙)75/60・(電子)73/59、権利回復70、放棄49、名称・住所変更51/18、譲渡・ライセンス記録118/26、調査・謄本の各料金と、出願様式の商標種別(文字・図形・立体・音・動き・位置)の根拠。
    https://www.cylaw.org/KDP/data/2020_1_259.pdf
  4. EU商標指令(指令(EU) 2015/2436、EUR-Lex)/2020年改正法が国内法化した指令。絶対的・相対的理由、使用証明、不使用取消、通過貨物、異議・取消・無効の行政手続の根拠。
    https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2015/2436/oj/eng
  5. EU商標規則(規則(EU) 2017/1001、EUR-Lex)/EUTMのキプロスでの効力、先行商標としてのEUTM、シニオリティ、転換(第139〜141条)、真正使用(第18条)の根拠。
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1001/oj/eng
  6. EU規則(EU)608/2013(知的財産権の税関執行規則、EUR-Lex)/税関差止申請(国内申請・EU申請)、差止後10営業日(生鮮品3営業日)、簡易廃棄手続、通過貨物の立証(商標法第9条5項)の根拠。
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2013/608/oj/eng
  7. 欧州委員会「Green Line Regulation」(グリーンライン規則、規則(EC) 866/2004の解説ページ)/加入条約議定書10による北部でのEU法適用停止、北部と南部の間の物品・人の移動の規律の根拠。
    https://commission.europa.eu/about/departments-and-executive-agencies/regional-and-urban-policy/green-line-regulation_en

会社・知的財産登記局 知的財産課(intellectualproperty.gov.cy)

  1. 登記局「Registering a National Trademark」(国内商標登録のガイダンス)/出願前の検討、調査、出願、審査、公告と異議、登録証の発行、登録後の管理という手続の流れ、国内商標・国際商標・電子サービスの担当窓口の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-registering-a-trademark/1-guidance/registering-a-national-trademark
  2. 登記局「Renewing a Trademark」(更新のガイダンス)/出願日から10年、満了前6か月の更新、満了後6か月の50%増しの追納、未更新時の抹消、電子73ユーロ・紙75ユーロ、追加区分59/60ユーロ、団体・証明標章110/112ユーロ、一部の商品役務のみの更新、更新証明書の発行と官報公告の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-managing-a-trademark/6-guidance/renewing-a-trademark
  3. 登記局「Registering an International Trademark (Madrid System)」(マドプロのガイダンス)/キプロスを本国官庁とするマドプロ出願の手続と、120か国以上での保護の案内の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-registering-a-trademark/1-guidance/registering-an-international-trademark-madrid-system
  4. 登記局「Converting European trademark into national」(EUTMの国内出願への転換のガイダンス)/EUTMの出願・登録を国内出願・登録に転換する手続の根拠(第56条)。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-registering-a-trademark/1-guidance/conversion-of-european-trademark-into-national
  5. 登記局「Declaration of revocation of a Trademark」(取消のガイダンス)/登記局に対する取消請求の手続の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-terminating-a-trademark/11-guidance/declaration-of-revocation-of-a-trademark
  6. 登記局「Declaration of trademark invalidity」(無効のガイダンス)/登記局に対する無効請求の手続の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/intellectual-property-rights/trademark/1-lifecycle/1-terminating-a-trademark/11-guidance/declaration-of-trademark-invalidity
  7. 登記局「e-Filing Services」(商標電子出願サービス)/電子出願システムの提供と割引料金の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/21-eservices/efiling-services/e-filing-services
  8. 登記局統計「Registration of Intellectual Property Rights until 31/7/2026」/2026年1〜7月の国内商標出願582件、国際商標(マドプロ指定)337件の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/knowledgebase/statistics/registration-of-intellectual-property-rights-until-31-7-2026
  9. 登記局統計「Total registered intellectual property rights as at 31/7/2026」/2026年7月末時点の国内登録商標2万9,552件の根拠。
    https://www.intellectualproperty.gov.cy/en/knowledgebase/statistics/total-registered-intellectual-property-rights-as-at-31-7-2026

WIPO・EUIPO

  1. WIPO「Statistical Country Profiles: Cyprus」(2024年)/区分数ベースの出願3,421(居住者1,695・非居住者1,726)、登録3,302、有効登録2万9,817件(世界90位)、審査官1人当たり488.7件、登録までの遅延30日、キプロスの出願人の出願1万8,653区分(国外1万3,577、EUIPO 3,381)、マドプロ国際出願274件(人口比世界2位)、上位出願人の根拠。
    https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/cy.pdf
  2. WIPO「Annual Technical Report on Trademark Information Activities 2023 – Cyprus」(登記局の年次技術報告)/2023年の出願924件(3%減)、登録1,191件(22%増)、登記局ウェブサイトでの公告の根拠。
    https://confluence.wipo.int/confluence/x/rgIYXQ
  3. WIPO「Annual Technical Report on Trademark Information Activities 2022 – Cyprus」/2022年の出願951件(11%減)、登録976件(8%減)、TMviewと登録簿検索ツールの提供の根拠。
    https://confluence.wipo.int/confluence/x/KQD6U
  4. WIPO Lex「Madrid Protocol – Cyprus: Remarks」(マドリッド議定書のキプロスの加入・宣言)/2003年8月4日加入・2003年11月4日発効、宣言なし(拒絶通報12か月、個別手数料なし)の根拠。
    https://www.wipo.int/wipolex/en/treaties/parties/remarks/CY/8
  5. WIPO「Individual Fees under the Madrid Protocol」(個別手数料一覧)/キプロスが個別手数料を宣言しておらず、補足手数料CHF 100が適用されることの根拠。
    https://www.wipo.int/en/web/madrid-system/fees/ind_taxes
  6. EUIPO「Fees payable directly to EUIPO」/EUTMの出願料850ユーロ(2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ)、異議320ユーロの根拠。
    https://www.euipo.europa.eu/en/trade-marks/before-applying/fees-payable-direct-to-euipo

解説・報道・基礎データ

  1. Antoniou McCollum & Co.「Overhaul Of The Cyprus Trademark Legislation」(Mondaq、2020年10月6日)/2020年改正の要点:弁護士経由の出願義務と委任状提出義務の廃止、紙・電子出願と電子出願の割引、ウェブサイト公告、多区分出願、異議期間3か月、和解期間2か月(最長6か月)、異議人の理由補充2か月、不使用の抗弁、存続期間7年から10年への延長の根拠。
    https://www.mondaq.com/cyprus/trademark/991514/overhaul-of-the-cyprus-trademark-legislation
  2. Michael Kyprianou & Co. LLC「IP – Trademarks: Schedule of Fees – Cyprus 2026」(現地法律事務所の料金表)/国内出願129/94ユーロ、更新73/59ユーロ、異議348ユーロ、EUTM 850/50/150ユーロの現行料金の照合。
    https://www.kyprianou.com/wp-content/uploads/2026/06/IPTrademarks_Schedule-of-Fees_CY_2026for-website.pdf
  3. Michael Kyprianou & Co. LLC「A new Commercial Court is finally established in Cyprus, where English can be used」/2022年の商事裁判所・海事裁判所設置法、知的財産紛争が訴額にかかわらず商事裁判所の管轄となること、憲法3条改正による英語での審理の根拠。
    https://www.kyprianou.com/a-new-commercial-court-is-finally-established-in-cyprus-where-english-can-be-used/
  4. Cyprus Mail「Thousands of fake goods seized in crackdown」(2025年7月30日)/税関局と警察知的財産犯罪・違法賭博対策課の合同摘発、アヤナパ・プロタラスの7店舗で約4,000点の模倣品押収、示談金4,300ユーロの根拠。
    https://cyprus-mail.com/2025/07/30/thousands-of-fake-goods-seized-in-crackdown
  5. 外務省「キプロス共和国 基礎データ」(令和8年2月4日)/面積・人口(北部約40万人を含む)、GDP・1人当たりGDP、主要産業、EU加盟・ユーロ導入、キプロス問題と北部の不承認、EU法の適用停止、EU議長国(2026年1〜6月)、在キプロス日本国大使館の開設(2018年1月)、日本との貿易(2025年輸出1,074億円・輸入4.28億円、機械・輸送用機器、食品・化学製品)、在留邦人112人の根拠。
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cyprus/data.html
  6. 欧州中央銀行「Euro foreign exchange reference rates – Japanese yen」/円換算レート(1ユーロ≒176円、2026年10月下旬)の根拠。
    https://www.ecb.europa.eu/stats/policy_and_exchange_rates/euro_reference_exchange_rates/html/eurofxref-graph-jpy.en.html