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フィンランド商標制度の実務ガイド|PRHは先行商標・商号も審査・約2か月で登録・登録後2か月の異議・出願日から10年・不使用5年・EEA代理人必須・EUTMとの使い分けを弁理士が徹底解説

フィンランド商標制度の実務ガイド|PRHは先行商標・商号も審査・約2か月で登録・登録後2か月の異議・出願日から10年・不使用5年・EEA代理人必須・EUTMとの使い分けを弁理士が徹底解説

フィンランドは人口約556万人、1人当たりGDPが約5万4,000米ドルの北欧の工業国で、ノキア、コネ、ヴァルチラ、マリメッコ、フィスカルス、ムーミンといった世界的なブランドを生み、紙・パルプ、金属・機械、電気・電子、情報通信を主要産業としています。日本との関係では、2023年の日本からの輸出は約618億円(自動車が46%)、輸入は約2,240億円(木材、機械、ニッケル・コバルトなど)で、約160社の日本企業が拠点を置き、ヘルシンキは日本と欧州を結ぶ直行便の玄関口でもあります。2023年のNATO加盟や北極圏開発への関心も相まって、フィンランドでの商標保護の相談が増えています。

フィンランドの商標制度は、2019年5月に全面施行された新商標法(544/2019)に基づき特許登録庁(PRH)が登録する国内商標と、EU全域をカバーするEU商標(EUTM)、そしてマドリッド協定議定書(マドプロ)によるフィンランド指定の3つのルートで構成されます。PRHは隣国スウェーデンと同じく先行商標・先行商号との抵触を職権で審査し、登録後に2か月の異議期間があり、不使用取消は5年で、2019年からはPRHの行政取消・無効手続も使えます。民事は市場裁判所、刑事はヘルシンキ地方裁判所に集中し、EU商標の侵害も刑事罰の対象になりました。本記事では、商標法の条文(英訳)、PRHの公式手数料表と処理期間、市場裁判所の判決、税関の案内、外務省のデータを一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・EUTMとの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。

この記事のポイント

  • 根拠法は2019年5月1日施行の商標法(544/2019)、管轄は特許登録庁(PRH)。PRHは識別力などの絶対的理由に加えて先行商標(国内・国際登録・EU商標)と先行商号との抵触も職権で審査する
  • 庁費用はオンライン出願250ユーロ(1区分・約4.4万円)+1区分追加ごとに100ユーロ(2026年1月改定)。審査は平均約44営業日、拒絶理由がなければ登録・公告され、公告から2か月が異議期間。出願は電子のみで、EEA域外の出願人はEEA域内の代理人が必須
  • 存続期間は出願日から10年、更新は満了1年前から満了後6か月まで(遅延は320ユーロ)。不使用取消は異議期間満了から5年。相手が使用を立証できなければPRHの行政取消(440ユーロ・平均約6か月)で抹消できる
  • 民事は市場裁判所の専属管轄(EU商標裁判所を兼ねる)、刑事はヘルシンキ地方裁判所。産業財産権侵害罪は2年以下の拘禁刑で、2019年の改正でEU商標の侵害も処罰対象に。敗訴者が勝訴者の訴訟費用を負担
  • マドプロでフィンランドを指定する個別手数料はCHF 233(1区分)+追加区分CHF 93。2024年の国内出願は2,388件と少なく、フィンランド企業の国外出願の75%はマドプロ経由。EUTM(850ユーロ)との使い分けが設計のポイント

目次

  1. フィンランド商標制度の全体像:2019年商標法とPRH
  2. 国内出願は年2,400件前後:市場環境と統計
  3. 保護対象と拒絶理由:先行商標・商号も職権審査
  4. 出願手続の流れと審査期間:約2か月で登録・登録後2か月の異議
  5. 費用一覧(PRH公式手数料・EUTM・マドプロ個別手数料)
  6. 異議申立:公告後2か月・310ユーロ・使用証明の要求
  7. 不使用取消(5年)と無効:PRHの行政手続と市場裁判所
  8. 使用義務と更新:出願日起算の10年
  9. 権利行使:市場裁判所・刑事罰・税関
  10. 最近の動向:2025〜2026年の判例
  11. フィンランド国内商標・EUTM・マドプロの使い分け
  12. 日本の商標制度との比較
  13. 日本企業がフィンランド出願で押さえるべき実務ポイント
  14. よくある質問(FAQ)
  15. 出典・参考文献

フィンランド商標制度の全体像:2019年商標法とPRH

フィンランドの商標の根拠法は商標法(Tavaramerkkilaki 544/2019)です。EU商標指令2015/2436を実施するために1964年法を全面的に書き換えたもので、2019年5月1日に施行されました。図で表せない商標の登録、悪意の出願の拒絶、PRHでの行政取消・無効手続、異議や無効での使用証明の要求、通過貨物に対する権利(7条)などが導入され、同時に刑法49章2条が改正されてEU商標の侵害も産業財産権侵害罪の対象になりました。

登録官庁は特許登録庁(Patentti- ja rekisterihallitus、PRH)で、ヘルシンキに本部があります。商標権は登録(3条)のほか、使用による周知(vakiintuminen)によっても発生し(4条)、国内の需要者に広く認識された標識は未登録でも保護されます。パリ条約の優先権はEU商標出願や外国出願から6か月です(18条)。

フィンランドはEU加盟国ですから、EU商標(EUTM)もフィンランドで効力を持ちます。商標に関する民事事件は市場裁判所(markkinaoikeus)が専属管轄で、EU商標裁判所も兼ねています(75条)。PRHの決定に対する不服も市場裁判所が審理し、そこからは最高行政裁判所へ、民事事件は最高裁判所へ(上告許可制)という二系統の上訴になります。刑事事件はヘルシンキ地方裁判所に集中しています(76条)。日本企業にとって重要なのは、PRHが先行商標と先行商号を職権で審査する登録主義の国であること、EEA域外の出願人にはEEA域内の代理人が必須であること(28条)、そして安価な行政取消手続があることです。

国内出願は年2,400件前後:市場環境と統計

PRHが2024年に受理した国内商標出願は2,388件で、前年より229件減少しました。地域別では首都圏のウーシマー県が1,187件と約半分を占めます。フィンランド企業はEUTMとマドプロを積極的に使う傾向が強く、国内出願の件数自体は人口規模の割に少なく、北欧ではスウェーデン(約6,900件)の3分の1程度です。PRHはこの出願数に対して約44営業日という速い処理を実現しており、新商標法で導入された行政取消手続も、施行から1年半で22件と当初の予想を下回る利用にとどまったと報告されています。

WIPOの統計プロファイルによれば、2024年のフィンランド出願人による商標出願は区分数ベースで15,812区分(世界55位)で、うち国外出願が7,188区分、国外出願の75.5%がマドプロ経由です。日本との貿易は日本の輸入超過が続いており、2023年は輸出618億円に対し輸入2,240億円でした。

指標 数値 出所
国内商標出願(2024年)2,388件(前年比−229件)。ウーシマー県1,187件PRH(2025年1月)
フィンランド出願人の商標出願(2024年)15,812区分(世界55位)。国内8,624・国外7,188。マドプロ国際出願339件(世界26位)、国外出願のマドプロ利用率75.5%WIPO統計プロファイル
有効な登録(2018年末)国内登録約7万件、フィンランドを指定する国際登録約3.5万件IPRinfo(PRH)
人口/GDP/1人当たりGDP約556万人/約3,005億米ドル/約54,008米ドル(2023年)外務省(IMF)
対日貿易(2023年)日本→フィンランド618億円(輸送用機器46.2%・一般機械20.0%)/フィンランド→日本2,240億円(木材・一般機械・金属鉱・非鉄金属)外務省(財務省貿易統計)
日系企業/在留邦人160社(2023年)/2,257人(2023年10月)外務省
通貨ユーロ(北欧で唯一のユーロ圏)。1ユーロ≒175円の概算外務省

保護対象と拒絶理由:先行商標・商号も職権審査

商標法11条は、自他商品識別力があり、登録簿上で明確かつ正確に表示できるあらゆる標識を商標として認めています。文字、図形、色彩、音、形状、動き、ホログラムなどが対象で、音や動きの商標は音声・動画ファイルで出願します。個別商標のほか、団体商標と証明商標(80条以下)があり、これらは手数料が高く、使用規程の提出が必要です。

PRHは出願を受けると、方式要件のほか12条の絶対的理由と13条の相対的理由を職権で審査します。絶対的理由は、識別力の欠如、記述性、法令・公序良俗違反、誤認、国章や公的標章の無断使用、地理的表示との抵触、悪意の出願などです。相対的理由では、PRHは出願商標を国内登録商標、フィンランドとEUを指定する国際登録、EU商標、出願中の商標と比較し、さらにフィンランド商業登記簿の商号との抵触も調べます。同一・類似の商標が同一・類似の商品役務に登録されていれば拒絶理由となり、PRHは2か月の期間を定めて応答を求めます(21条)。先行権利者の同意があれば登録できます。

先行商標の職権審査は、スウェーデンと同じ北欧型の運用です。EUIPOやベネルクスのBOIPは先行商標を審査しませんが、フィンランドのPRHは日本の特許庁と同じく先行する類似商標や商号を理由に拒絶します。日本企業にとっては、出願前の調査がより直接的に結果に反映される一方、EU商標の方が先行商標の審査を受けないため「フィンランドでは拒絶されたがEUTMでは登録できた」という場面も起こりえます。PRHは出願前に無料データベース(PRHの商標データベース、TMview、商業登記簿)で先行商標と商号を調べるよう推奨しています。

商標権の効力(5条)は、同一商品での同一商標の使用、類似範囲での混同のおそれがある使用、そしてフィンランドで名声を持つ商標について正当な理由なく識別力や名声を利用・毀損する使用に及びます。2019年法では、フィンランドを通過するだけの貨物(自由流通に置かれない貨物)にも登録商標と同一の標識が付されていれば差し止められる権利(7条)が明文化されました。

出願手続の流れと審査期間:約2か月で登録・登録後2か月の異議

出願はPRHのオンラインサービスで電子的に行うのが原則で、紙の出願は特別な理由がある場合に限られます(16条)。出願には出願人の情報、商品・役務のリスト、商標の明確な表示が必要で、手数料の納付をもって係属します。多区分出願が可能です。EEA(欧州経済領域)に住所も営業所もない出願人は、EEA域内に住所を持つ代理人を選任しなければなりません(28条)。日本企業がフィンランドに直接出願する場合、フィンランドまたは他のEEA加盟国の代理人が必須で、日本の特許事務所が現地代理人と連携して進めるのが通常です。言語はフィンランド語またはスウェーデン語で、商品役務のリストもこれらの言語で作成します。

段階 内容 期間の目安
方式審査・実体審査分類と出願人情報を確認した後、識別力、先行商標・商号との抵触などを職権で審査。拒絶理由があれば中間決定(välipäätös)で2か月の応答期間(21条)平均約44営業日(2026年9月時点のPRH公表値)
応答補正・反論・同意書の提出。無応答なら出願は取下げ扱い。拒絶理由が残れば該当部分を拒絶し、市場裁判所に不服申立可2か月(延長は70ユーロ)
登録・公告拒絶理由がなければ登録し、商標公報(Tavaramerkkilehti)で公告、登録証を送付(24条)審査完了後すぐ
異議期間公告日から2か月(32条)。延長不可。異議がなければ登録が確定2か月

拒絶理由がなければ出願から2〜3か月程度で登録され、その後2か月の異議期間を経て確定します。出願日から後願に対する優先的地位が認められるため、使用開始前に出願しておくことが重要です。

費用一覧(PRH公式手数料・EUTM・マドプロ個別手数料)

PRHの手数料は2026年1月1日に改定され、オンライン出願の基本料金が240ユーロから250ユーロになりました。以下はPRH公式手数料表の主な項目で、円換算は1ユーロ≒175円の概算です。手数料は出願が拒絶されても返還されません。

項目 庁費用(ユーロ) 円換算の目安
出願(オンライン、1区分を含む)250。追加1区分ごとに100(紙出願は300)約4.4万円(3区分で約7.9万円)
団体商標・証明商標の出願340。追加1区分ごとに100約6.0万円
更新(オンライン、1区分を含む)250。追加1区分ごとに100。満了後6か月以内の遅延更新は320約4.4万円(遅延は約5.6万円)
異議申立310(紙360)約5.4万円
行政取消・無効申請(PRH)440(紙490)約7.7万円
期間延長70約1.2万円
マドプロ国際出願の受付(PRH経由)170約3.0万円

比較対象として、EUTMのオンライン出願料は1区分850ユーロ(約14.9万円)、2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ/区分です。マドプロでフィンランドを指定する個別手数料は1区分CHF 233、追加1区分ごとにCHF 93(更新も同額)で、1CHF≒185円とすると1区分約4.3万円と直接出願とほぼ同水準です。直接出願ではEEA域内代理人の費用が加わるため、日本の特許事務所を通じた場合、庁費用と合わせて1区分あたりおおむね25〜40万円が相場です。

中小企業にはINPITの外国出願補助金が利用でき、フィンランド出願やマドプロ指定の費用の2分の1が補助対象になります。

異議申立:公告後2か月・310ユーロ・使用証明の要求

フィンランドの異議申立は登録後の制度です。PRHが登録を公告した日から2か月以内に、申立人の情報、対象の登録と商品役務、理由を書面でPRHに提出し、異議料(310ユーロ)を納付します(32条)。期間の延長はありません。異議の理由は登録要件を満たさないことすべてで、絶対的理由は誰でも主張できますが、先行権利を根拠とする場合はその権利者でなければなりません。EEA域外の申立人にはEEA域内の代理人が必要です。

PRHは異議を商標権者に通知して意見を求め、両当事者の共同申請があれば2か月間手続を停止して和解交渉の時間を設けます(33条)。先行する登録商標やEU商標、商号を根拠とする場合、後行商標の出願日の時点でその登録から5年を超えていれば、商標権者は申立人に過去5年の真正な使用の証明を求めることができ(34条・49条)、証明がなければ異議は退けられます。異議が認められると登録は全部または一部が取り消され、決定への不服は市場裁判所に申し立て、さらに最高行政裁判所へ上訴できます。

2026年6月の市場裁判所判決(MAO:332/2026)では、見本市会社の商標「SÄHKÖ ELECTRICITY」(図形)に対し、電気業界向けサービスで先行するEU商標「SÄHKÖ…」の権利者が異議を申し立て、PRHが退けた決定を市場裁判所が覆しました。「sähkö(電気)」という記述的な語を含み双方の識別力が弱くても、全体の視覚的印象が似ていれば専門家の需要者であっても混同のおそれがあるとして、登録の取消を命じています。弱い商標同士でも異議が通りうることを示す事例です。

不使用取消(5年)と無効:PRHの行政手続と市場裁判所

登録商標は、異議期間の満了(異議があれば決定の確定)から5年以内にフィンランドで真正な使用を開始しないか、5年間継続して使用を中断すると、正当な理由がない限り取消の対象になります(46条)。登録と識別力を変えない範囲での変形使用や、輸出専用に国内で商標を付す行為も使用に当たります。無効理由は12条・13条の拒絶理由と同じで、普通名称化や誤認を生じる使用による取消(47条)もあります。先行商標の権利者が後行商標の使用を知りながら5年間放置すると、後行商標が善意で出願されていれば共存を認めなければなりません(15条)。

取消・無効の手続は2つあります(53条)。1つは市場裁判所への訴え、もう1つは2019年に導入されたPRHの行政手続です。行政手続は440ユーロの申請料で始まり、PRHは申請と商標権者の答弁に基づいて書面で判断します。不使用を理由とする申請で商標権者が使用を証明できなければ、申請が明らかに根拠を欠く場合を除き、PRHは請求どおり登録を取り消します(57条)。同じ当事者間で同じ商標について訴訟が係属していれば行政手続は受理されません。PRHの決定への不服は市場裁判所に申し立てます。

運用状況について、PRHは施行から1年半の2020年10月時点で22件の申請(うち14件が取消)を受け、すべての取消申請が不使用を理由とし、処理期間は平均約6か月と報告しています。市場裁判所の訴訟より速く安価で、放置された先取り登録や使われていない登録を整理する手段として日本企業にも有用です。一方、無効申請では悪意と先行権利の両方が主張されることが多く、争いの大きい案件は裁判所に向かいます。

使用義務と更新:出願日起算の10年

登録の存続期間は出願日から10年で(30条)、10年ごとに何度でも更新できます。更新は満了の1年前から満了後6か月までにオンラインで申請し、満了後の申請には割増料金(320ユーロ)がかかります。満了後6か月を過ぎると更新はできません。PRHは満了の6か月前までに権利者へ通知しますが、通知が届かなくても失効は免れません。2019年5月1日より前に出願された登録は従来どおり登録日から10年で計算されるため、古い登録の期限管理には注意が必要です。

登録後に使用宣誓や使用証拠を提出する義務はなく、更新時にも使用の証明は不要です。使用が問題になるのは、第三者が取消を請求したとき、異議や無効の相手方が使用証明を求めたとき、そして侵害訴訟で被告が不使用を主張したとき(67条)です。各国の登録後の維持義務は主要国の商標維持義務の比較記事で整理しています。

権利行使:市場裁判所・刑事罰・税関

民事:市場裁判所の専属管轄

商標法に基づく民事事件は市場裁判所が専属管轄で、EU商標規則上のEU商標裁判所も兼ねます(75条)。市場裁判所は2002年に設立された競争法・公共調達・知的財産・マーケティング法の専門裁判所で、2013年の市場裁判所手続法により知財事件が集中されました。法律家の裁判官3名を基本とし、必要に応じて技術系裁判官や専門委員が加わります。判決への上訴は最高裁判所で、上告許可が必要です。

救済としては、違反時に制裁金を伴う差止命令(62条)、サーバー運営者など仲介者に対する差止(64条)、使用の対価に相当する合理的な補償と損害賠償(69条。無過失でも合理的な補償)、侵害標章の除去・侵害品の廃棄や権利者への引渡し(71条)、判決の公表(72条)が認められています。訴訟費用は敗訴者負担が原則で、2025年11月の市場裁判所判決では敗訴側に相手方の費用1万ユーロの支払いが命じられました。

刑事:産業財産権侵害罪とヘルシンキ地方裁判所

商標法に違反し、権利者に相当な経済的損失を生じさせうる態様で商標権を侵害した者は、刑法49章2条の産業財産権侵害罪として罰金または2年以下の拘禁刑に処されます。軽微な侵害は商標法74条の商標違反(罰金)です。刑事事件はヘルシンキ地方裁判所に集中しています(76条)。2018年の最高裁判決(KKO:2018:36)は、EU商標と共同体意匠の侵害は国内法の違反ではないため刑法49章2条で処罰できないと判示しましたが、2019年の改正法(547/2019)でEU商標の侵害も処罰対象に加えられ、商標法と同じ2019年5月1日に施行されました。日本の商標法78条(10年以下の懲役)より上限は低く、実務では民事と税関が中心です。

税関:EU規則608/2013と通過貨物

フィンランド税関(Tulli)は、EU規則608/2013に基づき、フィンランドに入る貨物、出る貨物、通過する貨物が知的財産権を侵害していないかを管理し、疑わしい貨物を差し止めて権利者に通知します。権利者はEUIPOの知財執行ポータル(IPEP)から税関申立(AFA)を提出でき、フィンランドのみ、EU全域、特定の加盟国を対象に選べます。税関は、個人が商業目的で模倣品を持ち込むことを禁じ、個人がネットで注文した模倣品も輸入が差し止められうると案内しています。2019年商標法7条により、ロシア方面への通過貨物など自由流通に置かれない貨物に対しても、登録商標と同一の標識が付されていれば権利を行使できます。

最近の動向:2025〜2026年の判例

周知性の立証が退けられた事例(MAO:639/2025、2025年11月17日)

イタリアワイン「GIACOMO FENOCCHIO」の輸入者が、後から登録された商標「FENOCCHIO」の無効をPRHに申請し、PRHは「GIACOMO FENOCCHIO」が周知(vakiintunut)商標として先行すると認めて登録を取り消しました。市場裁判所はこれを覆し、2006〜2023年の小売業者への出荷が年0〜4,800本と少量で、広告は雑誌記事1本とブログ1本にとどまり、市場調査も提出されていないとして、周知性は立証されていないと判断しました。未登録の周知商標に頼ることのリスクと、使用証拠の質が問われることを示す事例で、敗訴側に1万ユーロの訴訟費用が命じられています。

弱い商標同士の混同のおそれ(MAO:332/2026、2026年6月26日)

前述のとおり、「SÄHKÖ ELECTRICITY」の登録に対する異議をPRHが退けた決定を市場裁判所が覆し、先行EU商標との混同のおそれを認めて登録の取消を命じました。記述的な語を共通にする商標でも、図形を含めた全体の印象が近ければ異議が認められることを示しています。

PRHの運用

PRHは2026年1月に商標手数料を改定し、処理期間は国内出願で平均約44営業日、国際登録の指定で約37営業日、登録商標に関する申請で約5日と公表しています。2024年の国内出願は2,388件と減少傾向にあり、PRHは地方での出願増加や無料データベースの活用を広報しています。

フィンランド国内商標・EUTM・マドプロの使い分け

フィンランドで商標を守る手段は3つあります。フィンランドはマドプロの加盟国で、国際登録で直接指定できます。

項目 国内商標(PRH直接出願) マドプロでフィンランド指定 EU商標(EUTM)
効力の範囲フィンランドフィンランドEU27か国
庁費用(1区分)250ユーロ(約4.4万円)+EEA代理人費用CHF 233(約4.3万円)+基本手数料。代理人不要850ユーロ(約14.9万円)
登録までの期間約2〜3か月+異議2か月拒絶通報期限まで最長18か月約4〜6か月
先行商標の影響PRHが職権審査(商号も)。同意書で解消可同左(PRHが審査)職権審査なし。ただし27か国のどこか1か国の先行商標で全体が拒絶されうる
異議登録後2か月、310ユーロ同左公告後3か月、320ユーロ
向いている場面フィンランドが主市場、速く確実に登録したい、EUTMが先行商標で難しい北欧数か国など他国とまとめて管理したい、代理人費用を抑えたい欧州全域で展開、税関対策を重視

欧州全域を対象にする場合はEUTMが基本です。フィンランド単独なら、EEA代理人が不要なマドプロ指定は費用面で有利ですが、拒絶時の対応や期限管理の面では現地代理人を置く直接出願に安心感があります。北欧全体では、スウェーデンとフィンランドはEUTMでカバーし、EU非加盟のノルウェーとアイスランドはマドプロで指定する組み合わせが一般的です。

日本の商標制度との比較

項目 フィンランド 日本
根拠法・官庁商標法544/2019・特許登録庁(PRH)商標法・特許庁
先行商標の審査職権で審査(商号も対象。同意書で解消可)職権で審査(2024年からコンセント制度)
代理人EEA域外の出願人はEEA域内代理人が必須在外者は日本の代理人(商標管理人)が必要
登録までの期間約2〜3か月約6〜10か月(早期審査あり)
異議申立登録後、公告から2か月、310ユーロ登録後、公報から2か月
存続期間出願日から10年(2019年5月以降の出願)登録日から10年
不使用取消5年。PRHの行政手続(440ユーロ)または市場裁判所3年。特許庁の審判
侵害訴訟市場裁判所の専属管轄。敗訴者が費用負担東京・大阪地裁など。弁護士費用の回収は限定的
刑事罰罰金または2年以下(刑法49章2条。EU商標も対象)10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(78条)
使用による権利周知により未登録でも商標権が発生(4条)登録主義。周知商標は不正競争防止法で保護

日本企業がフィンランド出願で押さえるべき実務ポイント

  1. EEA域内の代理人を手配する。日本企業が直接出願するには、フィンランドまたは他のEEA加盟国に住所を持つ代理人が必須です。マドプロ指定なら代理人なしで出願できますが、拒絶通報が来た段階で現地代理人が必要になります。
  2. 先行商標と商号の調査を出願前に。PRHは国内商標・国際登録・EU商標に加えて商業登記簿の商号も職権で審査します。PRHの商標データベース、TMview、商業登記簿を調べ、懸念があれば同意書の取得を検討してください。
  3. 速さを活かす。平均44営業日の審査で、拒絶理由がなければ2〜3か月で登録されます。輸出開始や展示会に合わせて権利を確保したい場合、EUTMより早く確定します。
  4. 異議は登録後2か月、310ユーロ。商標公報の監視と2か月の期限管理が必要です。先行権利を根拠にできるのは権利者だけで、相手の登録が5年を超えていれば使用証明を要求できます。
  5. 行政取消を活用する。障害になる登録が放置されている場合、440ユーロの行政取消で、相手が使用を立証できなければ約6か月で抹消できます。
  6. 使用証拠はフィンランド向けのものを保存。不使用取消の5年は異議期間満了から起算され、フィンランド国内での使用が必要です。フィンランド語・スウェーデン語の価格表・請求書・ウェブサイトのアーカイブを年単位で残してください。2025年の市場裁判所判決は、出荷量と広告の少なさから周知性を否定しており、証拠の質が問われます。
  7. 訴訟は「専門裁判所・費用は敗訴者負担」。市場裁判所が一元的に扱い、勝訴すれば代理人費用を回収できますが、敗訴すれば相手方の費用も負担します。刑事はヘルシンキ地方裁判所で、EU商標の侵害も処罰対象です。
  8. 北欧全体の設計を。EUTMはフィンランドとスウェーデンをカバーしますが、ノルウェーとアイスランドはカバーしないため、北欧4〜5か国を対象にするならEUTM+マドプロ指定の組み合わせを検討します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本企業が直接出願するのに代理人は必要ですか?

必要です。商標法28条により、EEA(欧州経済領域)に住所も営業所もない出願人・権利者は、EEA域内に住所を持つ代理人を選任しなければなりません。出願自体もPRHのオンラインサービスでの電子出願が原則です。マドプロでフィンランドを指定する場合は代理人なしで出願できますが、PRHから拒絶通報が来た場合の応答には現地代理人が必要になります。

Q2. 登録までどのくらいかかりますか?

PRHは国内出願を平均約44営業日で処理しており、拒絶理由がなければ出願から2〜3か月程度で登録・公告されます。公告から2か月の異議期間があり、異議がなければ登録が確定します。マドプロでフィンランドを指定した場合は、拒絶通報の期限が18か月なので、権利が確定するまでの期間は直接出願より長くなります。

Q3. PRHは先行商標を調べてくれますか?

調べます。PRHは識別力などの絶対的理由に加えて、先行する国内商標・フィンランドとEUを指定する国際登録・EU商標・出願中の商標、さらに商業登記簿の商号との抵触を職権で審査し、抵触があれば拒絶します。先行権利者の同意書を提出すれば拒絶は解消されます。EUIPOが先行商標を審査しないのとは対照的で、日本の特許庁に近い運用です。

Q4. EUTMを持っていればフィンランド国内商標は不要ですか?

EUTMはフィンランドを含むEU全域で効力を持つので、通常はEUTMだけで足ります。ただし、EUTMが他国の先行商標を理由に拒絶や無効のリスクを抱えている場合や、フィンランドで速く確実な権利が必要な場合は、国内出願を併用する価値があります。北欧全体を対象にするなら、EUTMでカバーできないノルウェーとアイスランドをマドプロで指定する設計も必要です。

Q5. 他社の放置された登録が障害になっています。どうすればよいですか?

異議期間の満了から5年を経過して使用されていなければ、PRHに行政取消を申請できます。手数料は440ユーロで、商標権者が真正な使用を立証できなければ、PRHは申請どおり登録を取り消します。処理期間は平均約6か月です。同じ当事者間で同じ商標の訴訟が係属している場合は市場裁判所で争うことになります。相手が同意する見込みがあれば、同意書を取得して自社の出願を進める方法もあります。

Q6. 模倣品が見つかった場合、まず何をすべきですか?

EUIPOの知財執行ポータル(IPEP)からEU規則608/2013に基づく税関申立を提出し、輸入・通過段階で差し止める体制を作るのが第一です。フィンランド税関は通過貨物も管理対象にしています。国内で流通している模倣品には、警告状の後、市場裁判所に差止と損害賠償を求めます。組織的な取引には刑法49章2条の産業財産権侵害罪(2年以下)による刑事告発も選択肢で、2019年からはEU商標の侵害も処罰対象です。

まとめ

フィンランドの商標制度は、2019年施行の商標法に基づきPRHが先行商標・商号まで職権で審査する登録主義で、審査は平均約44営業日、登録後2か月の異議、出願日起算の10年、異議期間満了から5年の不使用取消が骨格です。EEA域外の出願人には現地代理人が必須である一方、440ユーロの行政取消や市場裁判所への集中など、手続は速く費用も読みやすい国です。刑事では2019年の改正でEU商標の侵害も処罰対象になり、税関は通過貨物にも対応します。日本企業には、国内出願の速さと確実さ、EUTMの広さ、マドプロの手軽さを比べ、EU非加盟のノルウェー・アイスランドを含めた北欧全体の設計をおすすめします。

各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。

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出典・参考文献

本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。

法令・公的機関の資料

  1. 商標法(Trade Marks Act 544/2019)英訳(WIPO Lex)/登録・周知による権利(3・4条)、権利の内容(5条)、通過貨物(7条)、標識(11条)、絶対的・相対的拒絶理由(12・13条)、5年の黙認(15条)、電子出願(16条)、優先権6か月(18条)、応答期間2か月(21条)、登録と公告(24条)、EEA域外出願人の代理人義務(28条)、出願日から10年・更新は満了1年前〜6か月後(30条)、異議の理由と2か月・手数料・先行権利者(31〜33条)、使用証明(34・49条)、不使用取消5年と起算(46条)、無効(47・48条)、行政手続と訴訟(53〜58条)、差止・仲介者への差止・補償と損害賠償・廃棄・判決公表(62・64・69・71・72条)、市場裁判所とヘルシンキ地裁の管轄(75・76条)の根拠。
    https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/22376
  2. 商標法(Tavaramerkkilaki 544/2019)現行条文(Finlex)/フィンランド語原文。
    https://www.finlex.fi/fi/lainsaadanto/2019/544
  3. 刑法49章2条改正法(547/2019)(Finlex)/EU商標の侵害を産業財産権侵害罪の対象に加えた2019年改正の根拠。
    https://www.finlex.fi/fi/laki/alkup/2019/20190547
  4. PRH「Fees for trademark applications and registrations」(公式手数料表)/出願250/紙300・追加区分100、団体・証明商標340、更新250・遅延320、期間延長、マドプロ受付170の根拠。
    https://www.prh.fi/en/price-lists/trademark_fees/fees_for_trademark_applications.html
  5. PRH「Changes to trademark fees from 1 January 2026」/2026年1月1日の改定内容(出願240→250、異議290→310、行政取消420→440、期間延長60→70など)の根拠。
    https://www.prh.fi/en/presentation_and_duties/uutislistaus/announcements/2026/trademarks-fees-changes-1.1.2026.html
  6. PRH「Quick guide for trademark applicants」/先行商標(国内・EU・国際登録)と商号との混同のおそれの審査、無料データベースでの事前調査、EEA域外出願人の代理人義務、オンライン出願の根拠。
    https://www.prh.fi/en/intellectualpropertyrights/trademarks/ennen_tavaramerkin_hakemista/quickguide_for_trademarks_applicants.html
  7. PRH「Hakemuksen käsittely PRH:ssa」/方式審査と実体審査、先行商標・商号の職権審査、中間決定、登録・公告・登録証、公告から2か月の異議期間、市場裁判所と最高行政裁判所への不服申立、出願日起算10年の根拠。
    https://www.prh.fi/fi/aineettomatoikeudet/tavaramerkit/hakemuksen_tekeminen/hakemuksen_kasittely_prhssa.html
  8. PRH「Tavaramerkkihakemusten käsittelyajat」(2026年9月23日更新)/国内出願平均44営業日、国際登録の指定37営業日、登録商標に関する申請5日の根拠。
    https://www.prh.fi/fi/kasittelyajat/tavaramerkit.html
  9. PRH「Väite tavaramerkkiä vastaan」/公告から2か月(延長不可)、商標公報、EEA域外申立人の代理人義務、異議の記載事項と手数料の根拠。
    https://www.prh.fi/fi/aineettomatoikeudet/tavaramerkit/tavaramerkkikiistat/vaite_tavaramerkkia_vastaan.html
  10. PRH「Tilasto tavaramerkeistä 2024: hakemuksissa kasvua kuudessa maakunnassa」(2025年)/2024年の国内商標出願2,388件(前年比−229件)、ウーシマー県1,187件の根拠。
    https://www.prh.fi/fi/tietoa_prhsta/uutislistaus/uutiset/2025/tilastotavaramerkeista2024hakemuksissakasvuakuudessamaakunnassa.html
  11. 市場裁判所(Markkinaoikeus)公式サイト/2002年3月1日の設立、競争・調達・知財・市場法の専門裁判所、裁判官3名の合議と技術系裁判官・専門委員の根拠。
    https://www.markkinaoikeus.fi/en/index.html
  12. フィンランド税関「Counterfeit products」/輸入・輸出・通過貨物の管理、個人の商業目的の持込禁止、個人のネット注文品の差止、産業財産権侵害罪の最高刑2年の根拠。
    https://tulli.fi/en/restrictions/counterfeit-products
  13. WIPO「Statistical Country Profile: Finland」(2024年)/フィンランド出願人の商標出願15,812区分(世界55位)、国内8,624・国外7,188、マドプロ国際出願339件、国外出願のマドプロ利用率75.5%の根拠。
    https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/fi.pdf
  14. WIPO「Individual Fees under the Madrid Protocol」/フィンランド指定の個別手数料CHF 233/追加区分93(更新同額)の根拠。
    https://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html
  15. EU商標規則(Regulation (EU) 2017/1001)附属書I(EUR-Lex)/EUTMの出願料850/50/150ユーロと異議申立料320ユーロの根拠。
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1001/oj
  16. 外務省「フィンランド共和国 基礎データ」(2024年12月18日)/人口約556万人、GDP約3,005億米ドル、1人当たり54,008米ドル、対日貿易(2023年)と品目、日系企業160社、在留邦人2,257人、ユーロ導入、NATO加盟の根拠。
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/finland/data.html

専門家による解説

  1. IPRinfo「Tavaramerkkien menettämis- ja mitätöintimenettely: puolitoistavuotiskatsaus」/行政取消・無効手続の施行後1年半の運用(2020年10月時点で申請22件、取消はすべて不使用、平均処理約6か月)、2018年末の有効登録約7万件と国際登録約3.5万件の根拠。
    https://iprinfo.fi/artikkeli/tavaramerkkien-menettamis-ja-mitatointimenettely-puolitoistavuotiskatsaus/
  2. Roschier「Precedent from the Finnish Supreme Court: violation of a Union trademark or design right is not punishable as an intellectual property offence in Finland」(2018年6月26日)/最高裁判決KKO:2018:36(2018年4月26日)と、その後の刑法改正の経緯の根拠。
    https://www.roschier.com/newsroom/precedent-from-the-finnish-supreme-court-violation-of-a-union-trademark-or-design-right-is-not-punishable-as-an-intellectual-property-offence-in-finland/

判例

  1. 市場裁判所 MAO:332/2026(2026年6月26日)/「SÄHKÖ ELECTRICITY」の登録に対する異議をPRHが退けた決定を覆し、先行EU商標との混同のおそれを認めて登録の取消を命じた判決の根拠。
    https://www.markkinaoikeus.fi/ratkaisut/ratkaisujen-arkisto/mao332-2026/
  2. 市場裁判所 MAO:639/2025(2025年11月17日)/「GIACOMO FENOCCHIO」の周知性を否定し、PRHの無効決定を覆して訴訟費用1万ユーロを命じた判決の根拠。
    https://www.markkinaoikeus.fi/ratkaisut/ratkaisujen-arkisto/mao639-2025/

※本記事は上記の資料を基に、2026年10月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(円換算額)・運用・判例は変更されることがあります。フィンランド語・スウェーデン語の法令原文と英訳の間に差異がある場合は原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。