意匠登録の要件 バングラデシュ – バングラデシュでは2023年に新たな工業意匠法(Industrial Design Act, 2023)が制定されており、意匠登録の主な要件として...
【弁理士監修】香港知財の「2025年最新戦略」:中国とは違う特許・商標の落とし穴と、導入された「税率5%」優遇制度について
はじめに:その「中国特許」、香港では紙切れかもしれません
アジア市場へのゲートウェイ、香港。
金融、物流のハブとして、あるいは中国本土(グレーターベイエリア)への進出拠点として、多くの日本企業がビジネスを展開しています。しかし、知的財産権(知財)の取り扱いにおいて、致命的な「勘違い」をされているケースが後を絶ちません。
最も多い誤解、それは「中国で特許や商標を取れば、香港でも保護される」というものです。
結論から申し上げます。
中国本土(中華人民共和国)で取得した特許権、商標権、意匠権は、香港特別行政区では一切効力を持ちません。
香港は「一国二制度」の下、中国本土とは完全に独立した法制度(コモン・ロー)と知的財産権制度を維持しています。したがって、香港で自社製品やブランドを守るためには、香港独自のルートで権利化を行う必要があります。
さらに、2024年には香港で「パテントボックス税制(特許優遇税制)」が導入され、知財戦略は単なる「守り」から「利益を生むツール」へと大きく変化しました。
本記事では、香港における特許・商標・意匠の制度概要、中国本土との違い、そして日本企業が今すぐ検討すべき「税制メリットを活かした出願戦略」について、弁理士の視点から徹底解説します。
1. 【2024年開始】香港知財の目玉「パテントボックス税制」とは?
制度解説に入る前に、経営者様や財務担当者様にとって最もインパクトのある最新情報をお伝えします。
2024年7月、香港で「パテントボックス税制(Patent Box Tax Incentive)」が施行されました。
これは、対象となる知的財産(特許など)から生じる所得(ライセンス料や製品販売に含まれる知財相当分など)に対して、法人税率を従来の16.5%から「5%」に大幅減税する制度です。
対象となる知財
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特許(標準特許、短期特許)
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植物品種権
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著作権保護されたソフトウェア
ここが戦略の分かれ目!「2026年問題」
この税制優遇を受けるためには、重要な条件があります。
施行から2年間の経過措置期間(2026年7月4日まで)は、海外(中国や英国など)の特許登録を利用した「再登録」でも税制優遇の対象となりますが、2026年7月5日以降は、「香港での現地登録(OGP)」が必須となります。
つまり、これまでの「中国のついでに香港も登録しておく」という受動的な方法では、将来的にこの税制優遇を受けられなくなる可能性があるのです。「香港で税制メリットを受けたければ、香港で独自に審査を受ける(OGPルート)」という戦略転換が、今まさに求められています。
2. 香港の特許制度(Patents):複雑な「3つのルート」を完全理解する
香港の特許制度は、世界でも類を見ないユニークな仕組みです。自社の目的(コスト重視か、税制メリット重視か、スピード重視か)に合わせて、以下の3つのルートを使い分ける必要があります。
① 標準特許(Standard Patent):再登録ルート(Rルート)
これまで日本企業が最も利用してきた方法です。香港独自の審査を行わず、以下の3つの「指定特許庁」での審査結果を利用して登録する制度です。
【指定特許庁】
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中国国家知識産権局(CNIPA)
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英国知的財産庁(UKIPO)
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欧州特許庁(EPO) ※英国を指定したもの
【手続きと厳格な期限】
このルートの最大のリスクは「期限管理」です。以下の2段階の手続きを、1日でも遅れることなく行う必要があります。
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第1段階(記録請求): 指定特許庁(中国等)での出願公開から6ヶ月以内に、香港へ請求。
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第2段階(登録・付与請求): 指定特許庁で特許が登録(公告)されてから6ヶ月以内に、香港へ請求。
この「6ヶ月」は非常にシビアです。中国で特許が取れて安心していたら、香港への手続き期限が過ぎていた、という相談は残念ながら少なくありません。再登録ルートを選ぶ場合は、中国出願の時点から香港移行を見据えたスケジュール管理が不可欠です。
② 標準特許(Standard Patent):独自審査ルート(OGPルート)
2019年に新設され、現在注目されているのがこの**「原授特許(Original Grant Patent:OGP)」**です。
中国や英国の結果を待たず、香港知的財産局(HKIPD)に対して直接出願し、実体審査を受けるルートです。
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メリット: 他国の審査状況に左右されず、早期権利化が可能。そして前述の通り、将来のパテントボックス税制の適用対象として最も確実なルートです。
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デメリット: 実体審査費用がかかるため、再登録ルートよりコストは割高になる傾向があります。
しかし、香港市場での利益が大きい企業にとっては、税制メリット(16.5%→5%)を考えれば、コストをかけてでもOGPルートを選ぶ価値は十分にあります。2024年末時点で累計1,000件以上の出願があり、利用が急増しています。
③ 短期特許(Short-term Patent)
ライフサイクルの短い製品向けの制度です。
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保護期間: 最大8年(4年+更新4年)。
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審査: 方式審査のみ(無審査登録)。
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特徴: 出願時に、国際調査機関などが作成した「調査報告書(Search Report)」の提出が必要です。日本の実用新案と似ていますが、方法の発明や化学物質も保護対象となる点が異なります。
3. 香港の商標制度(Trademarks):マドプロが使えない「盲点」
ブランド保護の要となる商標ですが、香港は国際的な商標システムにおいて「陸の孤島」のような側面を持っています。
マドリッドプロトコル(マドプロ)非加盟
これが最大の注意点です。
日本企業が海外商標を取得する際、WIPO(世界知的所有権機関)を通じた「マドリッドプロトコル出願」が一般的です。中国はマドプロ加盟国ですが、香港は加盟していません。
つまり、マドプロ出願で「中国」を指定しても、その効力は香港には及びません。香港で商標権を取得するには、香港知的財産局に対して個別に直接出願(パリルート)を行う以外に方法がないのです。
多くの企業が、マドプロの指定国に中国を含めたことで安心してしまい、香港での権利取得が漏れています。模倣品業者はこうした「権利の空白地帯」を狙います。
コストを抑える「シリーズ商標」
香港には、日本や中国にはないユニークな制度として「シリーズ商標(Series Trade Marks)」があります。
これは、重要でない部分(色、書体、句読点など)のみが異なり、実質的に同一である複数の商標を、1つの出願としてまとめて申請できる制度です。
例えば、同じロゴの「カラー版」と「モノクロ版」、あるいは「横書き」と「縦書き」などをセットで出願する場合、1件分の出願料(+わずかな追加料金)で済むため、コストを抑えながらバリエーションを保護することができます。
言語戦略と区分
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言語: 香港は「繁体字」と「英語」の世界です。中国本土(簡体字)の商標をそのまま使うのではなく、繁体字版や、現地の広東語の発音に合わせた当て字での出願を検討すべきです。
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小売役務(第35類): 香港は小売の街です。製品そのものだけでなく、店舗やオンラインストアの屋号を守る第35類の取得が極めて重要です。
4. 香港の意匠制度(Registered Designs):世界的な新規性が命
製品デザインを保護する「登録意匠(Registered Design)」についても触れておきます。
審査制度の特徴
香港の意匠登録は、方式審査のみで登録されます。新規性(新しいデザインであること)などの実体審査は行われません。そのため、出願から2〜3ヶ月程度でスピーディに登録されます。
このスピード感を活かし、香港で開催される「エレクトロニクスフェア」や「ギフトフェア」などの大規模展示会に合わせ、**「展示会直前に出願して登録証を持参し、会場で模倣業者に警告する」**というアグレッシブな使い方が可能です。
落とし穴:世界公知による無効リスク
審査がないからといって、どんなデザインでも有効な権利になるわけではありません。香港の意匠法では、「世界公知」が新規性喪失の理由となります。
日本ですでに販売開始していたり、Webサイトで公開していたりするデザインは、香港で登録証が発行されたとしても、いざ権利行使(模倣品排除)をしようとした際に「新規性がない」として無効にされるリスクが高いのです。
(※日本出願から6ヶ月以内の優先権主張出願であれば問題ありません)
現在、香港政府は意匠制度の見直し(実体審査の導入検討など)を進めており、2025年以降に法改正の議論が活発化する見込みです。常に最新情報をキャッチアップする必要があります。
5. 知財戦略:なぜ「香港」で権利を取るのか?
「香港は市場が小さいから後回し」
そう考える経営者の方もいらっしゃいます。しかし、以下の3つの理由から、香港での権利化は必須と言えます。
理由1:物流の「関所」を押さえる(水際対策)
香港は世界最大級の物流ハブです。中国本土(深センや東莞など)で製造された模倣品が、香港を経由して欧米や中東へ輸出されるルートが多用されます。
香港で特許や商標を持っていれば、香港税関(Customs)に対して侵害品の差止め申し立てを行うことが可能です。中国本土内での摘発は難易度が高い場合でも、物流のボトルネックである香港で差し止めることができれば、世界中への拡散を防ぐことができます。
理由2:パテントボックスによる節税(利益最大化)
冒頭で述べた通り、香港で発生する知財関連利益に対する税率が5%になります。香港に地域統括会社や販売拠点を置く日本企業にとって、適切な特許ポートフォリオを構築することは、そのまま「利益率の向上」に直結します。知財部は「コストセンター」から「プロフィットセンター」へと変わるのです。
理由3:信頼性の高い法制度(コモン・ロー)
香港の司法制度は、英国法(コモン・ロー)を基盤としており、中国本土と比較して透明性が高く、予測可能です。万が一の紛争時にも、公正な判断が期待できるため、ビジネスの法的安定性を確保する上で重要です。
6. 弁理士に依頼するメリット:複雑化する手続きと戦略
香港の知財制度は、2019年のOGP導入、2024年のパテントボックス導入、そして2025年以降の新システム(電子出願の刷新や代理人の居住要件厳格化など)と、過渡期にあります。
もはや「中国のついで」で処理できる単純なものではありません。
弊所にご依頼いただくメリット
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「税務×知財」の複合戦略:
単に特許を取るだけでなく、「どのルートで出願すればパテントボックスの恩恵を受けられるか」という経営視点でのアドバイスが可能です。
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厳格な期限管理(ドッキング):
再登録ルートの「6ヶ月期限」や、優先権期限などを専用システムで管理し、うっかり失効を防ぎます。特に中国出願との連動はミスが許されません。
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現地代理人との強固なネットワーク:
2025年の規則改正により、香港の代理人は「香港に居住・物理的拠点があること」が厳格に求められるようになります。弊所は、信頼できる現地の正規代理人と提携しており、手続きが滞る心配がありません。
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シリーズ商標などの独自提案:
コストを抑えるための香港独自の制度活用など、きめ細かな提案を行います。
「中国には出願しているが、香港はノーマークだった」
「香港経由の模倣品に悩んでいる」
「パテントボックス税制について詳しく知りたい」
このようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ一度、弊所までご相談ください。貴社のビジネスを守り、利益を最大化するための最適な知財プランをご提案いたします。