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マルタ商標制度の実務ガイド|2019年商標法(Cap.597)・工業所有権登録局は先行商標を職権調査して通知+公告後90日の異議・1区分115ユーロで登録料なし・不使用取消は5年・2023年から庁への取消無効請求・税関は国境措置法で価額2倍の罰金、マドプロ非加盟でEUTMとの使い分けを弁理士が徹底解説
マルタ共和国は地中海の中央、シチリア島の南に位置する面積316平方キロメートル(淡路島の半分)、人口約55万人の島国で、1964年に英国から独立、2004年にEUに加盟し、2008年にユーロを導入しました。GDPは約243億米ドル、1人当たりGDPは約4万4,000米ドル(2024年、IMF)で、半導体・繊維・造船などの製造業、観光業、オンラインゲーム産業、金融サービスが主要産業です。マルタ語と英語がともに公用語で、法律・行政手続は英語で完結します。日本との関係では、2020年に在日マルタ大使館、2024年に在マルタ兼勤駐在官事務所が開設され、2025年の日本からの輸出は約260億円(機械類、船舶、乗用車等)、マルタからの輸入は約187億円(食料品、魚介類等。日本のクロマグロ輸入元として第1位)、在留邦人は332人です(外務省)。マルタの輸出先では日本が第5位に入ります。
マルタの商標制度は、EU商標指令(2015/2436)を国内法化した2019年商標法(Trademarks Act、法律集第597章、Cap. 597、2023年の法律XXXV号で改正)と、手続と料金を定める2021年商標規則(Trademark Rules、S.L. 597.04、法律告示50/2021、2023年告示69号・2024年告示152号で改正)に基づき、バレッタの商務省 工業所有権登録局(Industrial Property Registrations Directorate、IPRD)が審査・登録を行います。決定権者は工業所有権長官(Comptroller of Industrial Property)で、長官の決定には送達から15日以内に控訴裁判所へ不服申立てをします(第100条)。審査は方式と絶対的理由が中心で、先行商標は庁が職権で調査して出願人と先行権利者の双方に通知したうえで、週刊のIPオンライン・ジャーナルでの公告から90日の異議で争う仕組みです。費用は1区分115ユーロ(約2.0万円)で、区分ごとに別出願として扱われ、登録・公告料はかかりません。マルタはEU加盟国で唯一マドリッド議定書に加盟しておらず、マドプロでマルタを指定することはできません。本記事では、商標法第597章と2021年商標規則の現行条文、IPRDのFAQ・料金表、税関法(第414章)と知的財産権行使法(第488章)、WIPO統計を基に、日本企業が知っておくべきマルタ商標の実務を弁理士が整理します。
この記事のポイント
- 根拠法は2019年商標法(第597章、EU指令2015/2436を国内法化、2023年改正)と2021年商標規則(S.L. 597.04)、審査機関はバレッタの商務省 工業所有権登録局(IPRD)、決定権者は工業所有権長官。方式審査と絶対的理由(第5条)を審査し、先行商標は職権で調査して出願人と先行権利者に通知するが拒絶はせず、IPオンライン・ジャーナルでの公告から90日の異議(100ユーロ)で争う。長官の決定は15日以内に控訴裁判所へ
- 費用は1区分115ユーロ(約2.0万円)、区分ごとに別出願(3区分で345ユーロ、約6.1万円)、登録料・公告料なし。更新90ユーロ、満了後6か月の追納は+35ユーロ、権利回復70ユーロ、異議100ユーロ(維持時に+100ユーロ)、取消・無効の請求100ユーロ、譲渡・ライセンス・担保の記録55ユーロ。EUTMは850ユーロ(約15万円)。IPRDのFAQでは登録まで3〜5か月、現地事務所の目安は6〜8か月
- マルタはマドリッド議定書に加盟していない(2026年10月時点、WIPOの加盟国一覧117メンバーに含まれず)。マドプロでEUを指定すればEUTMとしてマルタにも効力が及ぶが、マルタ単独の指定はできない。商標法と規則にはマドプロ発効時に適用される条文が「将来の加盟を見越して」置かれているだけで、国内出願かEUTMの二択
- 存続期間は出願日から10年(第57条)、更新は満了前6か月、満了後6か月は追納、未更新で抹消後6か月以内なら権利回復請求可。不使用取消は登録公告から5年(第26条・第29条)、取消・無効は2023年1月14日から長官(庁)にも請求可(第52条、各100ユーロ)で、裁判所(民事裁判所第一法廷)への提訴も可。5年の黙認で無効請求権を失う(第11条)
- 外国企業も代理人の選任は義務ではない(IPRD FAQ)が、庁との連絡用にEEA域内の送達先住所が必要(第55条、規則32)で、代理人を立てる場合は委任状を提出(規則31)。出願はIPポータル(ips.gov.mt)から英語で電子出願でき、商品・役務はTMclassに準拠した用語で指定する。登録日は出願日(第56条3項)
- 侵害訴訟は民事裁判所第一法廷に宣誓申立書で提起(第19条)、EUTM裁判所も同法廷と控訴裁判所。知的財産権行使法(第488章)により証拠保全・情報提供・仮差止(一方的申立て可、31日以内に本案提起)・損害賠償(逸失利益・侵害者利益・精神的損害、またはロイヤルティ相当額)を請求でき、民事の時効は5年(第124条)。刑事罰は無断使用が3年以下の拘禁または2万3,295ユーロ(約410万円)以下の罰金(第108条)、未登録商標に「registered」等と表示するだけで1万1,650ユーロ以下の罰金(第110条)
- 税関はEU規則608/2013の税関差止申請(AFA)に加えて、国内法の知的財産権(国境措置)法(第414章)で税関長官への申請、職権差止(5営業日)、通関停止後10営業日(+10営業日)以内の民事提訴、侵害品の輸入に物品価額の2倍の罰金を定める。WIPO統計では2024年の出願2,110区分(居住者85%)、登録789区分、有効登録2万5,906件、登録までの遅延60日。マルタの出願人はEUIPOへ3,214区分を出願し、GDP比の商標出願数はEUトップ(欧州イノベーション・スコアボード2025)
目次
- マルタ商標制度の全体像:商標法第597章・2021年商標規則・工業所有権登録局・控訴裁判所
- 市場環境と統計:年間2,000区分前後、居住者が85%、EUIPOへの出願はGDP比でEU首位
- 保護対象と拒絶理由:10種類の商標タイプ、大統領・大司教の紋章と国旗、先行商標は職権調査のみ
- 出願手続の流れ:IPポータルで電子出願・区分ごとに別出願・拒絶理由通知90日・週刊ジャーナルで公告
- 費用一覧(2021年商標規則の料金表・EUTM・円換算)
- 公告後90日の異議:答弁90日・和解期間90営業日・維持の再手数料・使用証明・控訴裁判所
- 登録・存続期間・更新:出願日から10年、満了後6か月の追納、抹消後6か月の権利回復
- 不使用取消(5年)と無効:2023年から長官にも請求可、裁判所との択一、5年の黙認
- 使用・譲渡・ライセンス・消尽:記録の効果、6か月ルール、EU域内消尽と通過貨物、未登録商標の不正競争
- 侵害訴訟と救済:民事裁判所第一法廷、知的財産権行使法の仮処分・情報提供・損害賠償、控訴30日
- 刑事罰:無断使用は3年以下の拘禁・2万3,295ユーロ、未登録なのに「登録済み」表示の罰金、治安判事の捜索令状
- 税関と模倣品対策:EU規則608/2013のAFAと国境措置法(第414章)、10営業日の提訴、価額2倍の罰金
- EUTM・国内出願の使い分け(マドプロ非加盟)と日本企業の実務ポイント
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 出典・参考文献
1. マルタ商標制度の全体像:商標法第597章・2021年商標規則・工業所有権登録局・控訴裁判所
マルタの商標制度の根拠法は、2019年商標法(Trademarks Act、Cap. 597、2019年法律XII号、2019年5月14日施行)です。英国法系の2000年商標法(第416章)を廃止し、EU商標指令(指令(EU) 2015/2436)を国内法化するために制定されたもので、2023年の法律XXXV号で排他的経済水域への適用(第2A条)などが追加されました。条文は、総則(第1〜3条)、商標の定義・絶対的理由・相対的理由・黙認(第4〜11条)、権利の内容・準備行為・辞書への掲載・代理人商標・制限・消尽・放棄(第12〜18条)、侵害訴訟と救済・根拠のない警告(第19〜25条)、使用義務・不使用の抗弁・取消事由(第26〜31条)、財産権としての商標・共有・譲渡・記録・担保・ライセンス(第32〜42条)、出願・出願日・分類・優先権・審査・補正・異議・使用証明・取消と無効の手続・登録・存続期間・更新(第43〜60条)、証明標章・団体商標(第61〜90条)、登録簿・更正・情報・不服申立て・規則・代理人(第91〜107条)、刑事罰(第108〜122条)、民事訴訟の立証責任と時効(第123〜124条)、パリ条約とマドリッド議定書(第125〜132条)、経過規定(第133〜143条)で構成されます。手続の細目と料金は2021年商標規則(Trademark Rules、S.L. 597.04、法律告示50/2021、2021年2月12日施行)が定め、2023年の告示69号で拒絶理由通知への応答期間の90日化と長官への取消・無効請求の手続(規則83〜90)が追加され、2024年の告示152号で連絡先の規定が改められました。旧「商標(規定及び手数料)規則」(S.L. 597.01)と「商標調査及び異議規則」(S.L. 597.03)は2021年規則に統合されています。
審査・登録機関は、経済・技術・戦略プロジェクト省の商務省(Commerce Department)工業所有権登録局(Industrial Property Registrations Directorate、IPRD)で、バレッタのラスカリス稜堡(Lascaris Bastions)に所在します。商標法上の決定権者は、特許・意匠法(第417章)第3条で設置された工業所有権長官(Comptroller of Industrial Property)です。長官の決定(拒絶、異議・取消・無効の決定、記録の拒否など)に対しては、民事訴訟法典(第12章)第41条9項の構成による控訴裁判所(Court of Appeal)に、決定の送達から15日以内に申立てで不服を申し立てます(第100条)。侵害訴訟は民事裁判所第一法廷(First Hall of the Civil Court)に宣誓申立書(sworn application)で提起し(第19条)、その判決は控訴裁判所(上級管轄)に30日以内に控訴できます。EU商標規則第123条のEUTM裁判所も、民事裁判所第一法廷と控訴裁判所が指定されています(規則79)。
マルタはマドリッド議定書に加盟していない
マルタはパリ条約(1967年)、WTO・TRIPS協定(1995年)、WIPO著作権条約・実演レコード条約(2010年)の加盟国で、EU加盟国としてEU商標(EUTM)の効力が及びますが、マドリッド協定にもマドリッド議定書にも加盟していません。WIPOの「マドリッド制度加盟国」一覧(117メンバー、133か国)にマルタは含まれず、現地事務所の2026年版ガイドも「執筆時点で正式な締約国ではなく、EU加盟を通じてマドリッド制度の利点を享受している」と説明しています。商標法第131〜132条と2021年商標規則第III部(規則42〜72)には「議定書がマルタについて発効した時に適用される」国際登録の手続(本国官庁としての認証、指定の審査、18か月以内の暫定拒絶、国際登録の公告から60日の異議、転換など)があらかじめ規定され、料金表にも取扱手数料50ユーロ等が置かれていますが、現時点では休眠条文です。商標法条約(TLT)は1994年に署名のみで批准しておらず、ニース協定にも加盟していませんが、分類はニース分類を採用しています(第45条)。したがってマルタで商標を保護する方法は、マルタ国内出願か、EUTM(EUIPOへの直接出願またはマドプロでのEU指定)の二択です。
マルタの制度の特徴は、(1) 審査が方式と絶対的理由に絞られ、先行商標は庁が職権で調査して通知するにとどまり拒絶事由としては扱わないこと、(2) 公告が週刊の「IPオンライン・ジャーナル」で行われ、公告から90日の異議期間があること、(3) 区分ごとに別出願として扱われ1区分115ユーロで登録料・公告料がかからないこと、(4) 2023年1月14日から長官に対する取消・無効請求が可能になったこと、(5) 手続言語が英語で、代理人の選任が義務ではないこと(EEA域内の送達先住所は必要)、(6) 税関法が国境措置に独自の手続と刑事罰を置くことです。制度の骨格は次の表のとおりです。
| 項目 | マルタの制度(根拠条文) |
|---|---|
| 根拠法 | 商標法(第597章、2019年法律XII号、2023年法律XXXV号で改正)、2021年商標規則(S.L. 597.04、告示50/2021、69/2023、152/2024で改正)、EU商標規則(EU)2017/1001、EU税関執行規則(EU)608/2013、知的財産権(国境措置)法(第414章)、知的財産権行使(規制)法(第488章)、商法典(第13章)第32〜37条(不正競争) |
| 管轄機関 | 商務省 工業所有権登録局(IPRD、バレッタ)。決定権者は工業所有権長官。長官の決定は送達から15日以内に控訴裁判所へ(第100条) |
| 審査の範囲 | 方式(規則4〜7)、絶対的理由(第5条)。先行商標は国内登録簿(FAQではEUTMも)を職権調査し、結果を出願人に通知、30日以内に取下げがなければ先行権利者にも通知して公告(規則35)。拒絶理由通知への応答は90日(規則8) |
| 公告・異議 | IPオンライン・ジャーナル(毎週月曜更新)で公告(規則36)、公告から90日以内に異議(規則37、100ユーロ)。相対的理由(第6条1項・3項・4項)が対象。答弁90日、和解期間は共同申請で最長90営業日(第50条2項)、異議維持時に+100ユーロ |
| 存続期間・更新 | 出願日から10年、10年ごとに更新(第57条)。満了前6か月に更新90ユーロ、満了後6か月は追納35ユーロ、抹消後6か月以内の権利回復70ユーロ(第58条、規則21) |
| 不使用取消・無効 | 登録手続完了(登録公告)から5年の不使用で取消(第26条・第29条)、普通名称化・誤認(第30条)、絶対的・相対的理由で無効(第5〜6条)。2023年1月14日から長官に請求可(第52条、規則83〜90、各100ユーロ)、民事裁判所第一法廷への提訴も可(同一事由の併用不可)。5年の黙認で無効請求権喪失(第11条) |
| 代理・住所 | 代理人の選任は任意(第104条、IPRD FAQ)。当事者または代理人はEEA域内の送達先住所を指定(第55条、規則32)。代理人を立てる場合は委任状を提出(規則31)。手続言語はマルタ語または英語(規則4) |
| 消尽・通過貨物 | EU域内消尽(第17条)。自由流通に置かれていない第三国からの通過貨物にも権利行使可、仕向国で禁止できないことを申告者が証明すれば失効(第12条7項) |
| 条約 | パリ条約(1967年)、WTO・TRIPS(1995年)、EU加盟(2004年5月1日)。マドリッド協定・議定書は未加盟、TLTは署名のみ、ニース協定は未加盟(分類は採用) |
2. 市場環境と統計:年間2,000区分前後、居住者が85%、EUIPOへの出願はGDP比でEU首位
マルタの国内商標出願は、WIPOの統計(区分数ベース。マルタでは区分ごとに別出願として扱われるため、区分数が実質的な出願件数に近い値です)で2021年1,572、2022年1,763、2023年1,757、2024年2,110(前年比20.1%増)と増加傾向にあります。2024年の内訳はマルタ居住者1,793(85%)、非居住者317(15%)で、登録は789(前年比7.6%減)、有効登録は2万5,906件(世界95位)、審査官1人当たりの出願は527.5件、登録までの遅延は60日と算定されています。日本からの出願は2021年6件、2022年1件、2024年1件とごく少数です。非居住者出願(国内庁への直接出願とEUIPO経由を合算した出所別)はドイツ16.1%、中国9.1%、イタリア8.1%、米国7.6%、スペイン6.3%の順です。IPRDは年次統計を公表しておらず、上記はWIPOと特許庁(JPO)の国別資料によります。
| 年 | 出願(区分数) | うち外国出願人 | うち日本から | 登録(区分数) |
|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 1,572 | 327 | 6 | 420 |
| 2022年 | 1,763 | 366 | 1 | 1,104 |
| 2023年 | 1,757 | 381 | 0 | 854 |
| 2024年 | 2,110 | 317 | 1 | 789 |
マルタの特徴は、国内市場の小ささに比してEU全体を狙う出願が多いことです。WIPO統計では、マルタの出願人による2024年の商標出願は合計8,878区分で、うち国内庁1,793、EUIPO 3,214、国外3,871(マドプロ経由1,051)となっており、GDP比の居住者出願数は世界4位です。欧州委員会の「欧州イノベーション・スコアボード2025」では、GDP10億ユーロ当たりのEUIPOへの商標出願数がEU平均の233%でキプロスと並びEU首位と評価されました。居住者出願の上位区分は教育(第41類)21.7%、科学・研究(第42類)17.4%、広告・事業管理(第35類)9.1%で、上位出願人にはオンラインゲーム事業者(Kaizen Gaming、Yggdrasil、Evolution)や製薬・医療機器企業(Lykos Pharma、Teleflex)が並びます。マルタに事業拠点を置く国際企業がブランドをEU全域で確保する「ゲートウェイ」としての性格が強く、日本企業にとっては、マルタ法人を通じたEUTM出願や、マルタのオンラインゲーム・金融事業者との取引におけるブランド管理が主な接点になります。
3. 保護対象と拒絶理由:10種類の商標タイプ、大統領・大司教の紋章と国旗、先行商標は職権調査のみ
商標は、文字(個人名を含む)、図形、文字、数字、色彩、商品や包装の形状、音などあらゆる標識で構成でき、(a) 自他商品・役務の識別力があり、(b) 保護対象を明確かつ正確に特定できる形で登録簿に表示できることが要件です(第4条2項)。「図示」要件は廃止されており、2021年商標規則第6条は、文字商標、図形商標、形状商標、位置商標、パターン商標、色彩商標(単色・組合せ)、音商標(音声ファイルまたは楽譜)、動き商標(動画または連続静止画)、マルチメディア商標(音声付き動画)、ホログラム商標の10タイプと、それぞれの表示方法(ファイル形式、最大300dpi、RGB、5cm×5cm〜8.5cm×8.5cmでの再現性など)を定めます。IPポータルの電子出願画面にも立体・音・パターン・ホログラムの選択肢があり、現地事務所によれば香り・味は表示要件を満たしにくいとされます。証明標章(第61〜76条)と団体標章(第77〜90条)も登録でき、使用規程を出願から60日以内に提出します(規則23、手数料50ユーロ)。地理的原産地を示す標章は団体標章・証明標章として登録できますが、正当に地名を使う第三者には対抗できません(第64条2項・第79条2項)。
絶対的理由(第5条)は、EU指令に沿った識別力の欠如、記述的標章、普通名称、商品の性質・技術的成果・実質的価値に由来する形状その他の特性、公序良俗違反、誤認を生じる標章、パリ条約6条の3の国家紋章等、EU法・マルタ法で保護される原産地名称・地理的表示・ぶどう酒の伝統的表現・伝統的特産品保証・植物品種名称に加えて、マルタ独自の事由として、(1) 使用が商標法以外の法律で禁止される標章、(2) 宗教的シンボルなど高い象徴的価値を持つ標識を含む標章、(3) 公共の利益に関わる記章・紋章(第5条3項)、(4) 大統領またはローマ・カトリックのマルタ大司教の紋章・旗・肖像、大統領・大司教の後援を示唆する語(第5条4項、同意があれば可)、(5) マルタ国旗のみからなる標章(第5条5項、国旗を含む標章は誤認・侮辱的な場合に拒絶、第5条6項)を列挙します。識別力の欠如・記述性・普通名称は、出願日前のマルタでの使用による獲得識別力で克服できます(第5条8項)。悪意の出願は無効理由です(第5条2項)。
相対的理由(第6条)は、先行商標(EUTM、マルタ国内登録、マルタに効力を有する国際登録、それらの出願、シニオリティを主張するEUTM、パリ条約6条の2の周知商標)との同一・類似による混同のおそれ(第6条1〜2項)、マルタ(EUTMならEU)で名声を有する先行商標の希釈化・不当利用(第6条3項a)、代理人による無断出願(同b)、原産地名称・地理的表示(同c)、取引上使用される未登録商標その他の標識(第6条4項a)、著作権・登録意匠その他大臣が定める先行権利(同b)です。先行権利者の同意があれば登録されます(第6条5項)。審査について商標法第48条1項は「大臣が規則で職権による相対的理由の審査の有無を定める」としており、2021年商標規則第35条は、庁が各出願について国内商標データベースを職権で調査し、同一・類似の登録・出願があれば結果を出願人に通知すると定めます。出願人が通知から30日以内に取下げ(手数料10ユーロ)を請求しなければ、庁は先行権利者にも調査結果を通知したうえで公告し、先行権利者は異議を申し立てることになります。IPRDのFAQは「マルタとEUで類似・同一の商標が登録・出願されていないか調査する」と説明しますが、現地事務所の解説では、審査は方式と絶対的理由に限られ、先行権利との抵触は異議でのみ争われ、異議制度の再導入後は同意書(letter of consent)の実務は使われなくなったとされています。拒絶を受けた出願人は90日以内に意見書または補正を提出でき(規則8)、拒絶が維持されれば控訴裁判所へ不服を申し立てます。
先行商標の「通知」と出願前調査
マルタの職権調査は、出願人に警告し、先行権利者に異議の機会を知らせる「通知型」で、庁が先行商標を理由に拒絶する「審査型」(キプロスなど)とは異なります。先行権利者が通知を受けて異議を出す確率は高く、出願料は不受理でも返還されないため、IPRDも出願前に国内商標登録簿(ips.gov.mt/NR)とTMviewで調査するよう勧めています。庁による調査サービスもあり、料金表では商標ごとに3語または3つのウィーン分類コード単位で1区分10ユーロ、登録簿の抄本は非認証1ユーロ・認証2ユーロです(IPRDの「調査」ページには1区分11.65ユーロという旧記載も残っており、依頼時に確認が必要です)。
4. 出願手続の流れ:IPポータルで電子出願・区分ごとに別出願・拒絶理由通知90日・週刊ジャーナルで公告
出願は、商務省のIPポータル(ips.gov.mt、EUIPOの協力基金で構築)の5ステップの電子出願フォームから行うのが標準で、マルタ語または英語で、(a) 登録の請求、(b) 出願人の名称・住所、(c) 第45条に従った商品・役務のリスト、(d) 規則6に従った商標の表示、(e) 代理人を選任した場合はその名称・住所、(f) 優先権主張、(g) 所定手数料を記載・納付します(規則4)。出願日は(a)〜(d)がそろった日で、欠けていれば出願は受理されず返戻されます(規則5)。その他の要素は出願日から30日以内に補完し、優先権を主張する場合は先の出願の番号・国・日付を記載して出願日から30日以内に写し(マルタ語・英語以外なら翻訳)を提出します(規則7)。優先権はWTO加盟国・パリ条約締約国の最初の出願から6か月です(第46条)。商品・役務はニース分類に従い、庁が受け入れる用語をIPポータルの「商品・役務ビルダー」とEUIPOのTMclassで検証したうえで指定するのが実務で、不明確な用語は補正を求められ、応じなければ拒絶されます(第45条4項)。多区分で出願しても区分ごとに別の出願番号が付与され、それぞれ115ユーロを納付して別々に審査されます(現地事務所の解説。料金表も「1区分につき」の料金のみを定めます)。
庁は出願が完全で表示が適切か、絶対的理由に該当しないかを審査し、国内データベースの職権調査を行います(第48条、規則35)。要件を満たさないと判断すれば出願人に通知し、出願人は通知から90日以内に意見書または補正を提出します。期間内に提出がなければ拒絶され、提出後に庁が追加説明を求めた場合は30日以内に回答します(規則8、2023年改正)。長官が権利不要求(ディスクレーマー)や限定を付す場合、出願人は60日以内に不服を述べることができ、述べなければ受け入れたものとして公告されます(規則10)。受理された出願は、IPRDが毎週月曜(週の最初の営業日)に発行する「IPオンライン・ジャーナル」に、出願人、商標の表示、商品・役務、出願日・番号、優先権、ディスクレーマーとともに公告され(規則11・36)、公告から90日の異議期間に入ります。異議がなければ、またはすべての異議が却下されれば、長官は商標を登録し、登録を公告して登録証を発行します(第56条)。登録日は出願日です(第56条3項)が、不使用取消の5年の起算点となる「登録手続の完了」は登録の公告日とされ(規則12)、登録簿に記載されます。
| 段階 | 内容・期間(根拠) |
|---|---|
| 出願前 | 国内商標登録簿(ips.gov.mt/NR)とTMviewで先行調査。商品・役務ビルダー/TMclassで用語を検証。庁への調査依頼は1区分10ユーロ(規則26) |
| 出願 | IPポータルから英語で電子出願、1区分115ユーロ。出願日は請求・出願人・商品役務・表示がそろった日(規則5)。その他の要素と優先権書類は30日以内(規則5・7)。EEA域内の送達先住所(第55条、規則32)、代理人を立てる場合は委任状(規則31) |
| 審査 | 方式・絶対的理由の審査と先行商標の職権調査。調査結果の通知から30日以内に取下げ可、取下げなければ先行権利者に通知(規則35)。拒絶理由への応答90日、追加説明30日(規則8)、ディスクレーマーへの不服60日(規則10) |
| 公告・異議 | IPオンライン・ジャーナル(毎週月曜)に公告(規則36)。公告から90日以内に異議(規則37) |
| 登録 | 異議がなければ登録・公告・登録証発行(第56条)。登録料・公告料なし。登録日=出願日、5年の使用猶予は登録公告日から(規則12) |
| 所要期間 | IPRD FAQ「出願から登録まで3〜5か月」。現地事務所の目安は拒絶理由・異議がない場合で6〜8か月。WIPO統計の登録遅延は60日(2024年) |
| 不服申立て | 長官の決定の送達から15日以内に控訴裁判所へ申立て(第100条) |
代理については、商標法上、出願人が書面で授権した代理人が手続を行うことができ(第104条)、大臣は登録商標代理人の名簿を設ける権限を持ちますが(第105条)、IPRDのFAQは「代理人の選任は必要ない」と明言し、現地事務所も「外国出願人に現地弁護士・代理人の選任を義務付ける規定はない」と説明しています。ただし、当事者または代理人はEEA域内に所在する公式の送達先住所を指定しなければならず(第55条、規則32、2024年改正)、代理人を立てる場合は代理人の権限を記載した委任状を提出します(規則31、2023年改正)。公証・認証は法令上要求されていませんが、現地事務所は真正性確保のため推奨しています。期限の計算は暦日で、末日が祝日・庁の閉庁日なら翌営業日に延びます(規則2)。期限は通信手段の障害や自然災害を理由に延長でき、期限前の請求が必要です(規則81〜82)。
5. 費用一覧(2021年商標規則の料金表・EUTM・円換算)
庁の手数料は2021年商標規則の料金表(Schedule of Fees、2023年告示69号で改正)が定めます。すべてユーロ建てで、円換算は1ユーロ≒176円(欧州中央銀行の2026年10月27日の参考レート175.97円)で行っています。最大の特徴は、1区分115ユーロ(約2.0万円)に出願・審査・登録・公告のすべてが含まれ、別途の登録料・公告料がないことです。区分は別出願扱いのため、3区分なら345ユーロ(約6.1万円)、5区分なら575ユーロ(約10.1万円)です。
| 手続(料金表の項目) | ユーロ | 円換算(概算) |
|---|---|---|
| 商標登録出願(1区分、規則4) | 115 | 約2.0万円 |
| 団体標章・証明標章の出願(1区分)+使用規程の提出 | 115+50 | 約2.9万円 |
| 異議申立て(規則38)/限定後の異議維持/答弁後の異議維持 | 100/100/100 | 各約1.8万円 |
| 取消請求・無効請求(長官へ、規則83〜87)/維持時の追加 | 100/100 | 各約1.8万円 |
| 更新(規則21) | 90 | 約1.6万円 |
| 満了後6か月以内の更新の追加料金 | 35 | 約6,200円 |
| 抹消後の権利回復の追加料金(更新料と別) | 70 | 約1.2万円 |
| 譲渡・合併の記録(最初の商標)/同一当事者の追加商標ごと | 55/10 | 約9,700円/1,800円 |
| ライセンスの記録、分割の申告 | 55 | 約9,700円 |
| 担保権(right in rem)・強制執行の記録・取消・変更/追加ごと | 55/10 | 約9,700円/1,800円 |
| 放棄の記録 | 90 | 約1.6万円 |
| 送達先の記録、取下げ・限定・補正、代理人の追加・変更 | 10 | 約1,800円 |
| 商標に含まれる名称・住所の変更/その変更への異議 | 10/70 | 約1,800円/1.2万円 |
| 庁による調査(1区分)/抄本(非認証/認証) | 10/1/2 | 約1,800円/180円/350円 |
| 登録簿からの削除・再分類への異議 | 35 | 約6,200円 |
| (参考)EUTM出願(EUIPO、1区分/2区分目/3区分目以降) | 850/+50/+150 | 約15.0万円/8,800円/2.6万円 |
| (参考)EUTMへの異議(EUIPO) | 320 | 約5.6万円 |
料金表には、マドリッド議定書発効後に適用される国際出願の取扱手数料50ユーロ、指定160ユーロ、国際登録の記録30ユーロ、転換50ユーロも掲げられていますが、前述のとおり現時点では適用されません。長官は、情状により手数料の免除や期限徒過の追加料金の減免を個別に決定でき、国家的・業種的な緊急事態や工業所有権の振興を目的として官報告示で手数料を減免・払戻しできます(規則33)。現地代理人を通じて出願する場合、庁費用に加えて代理人手数料(出願・審査対応・登録証の受領を含めて1区分数百ユーロ台からが一般的)がかかります。EU全域をカバーするEUTM(850ユーロ)とマルタ国内出願(115ユーロ)の価格差は大きく、マルタのみでの保護が目的なら国内出願が圧倒的に安価ですが、EUの他の加盟国でも事業を行うならEUTMの方が合理的です。
6. 公告後90日の異議:答弁90日・和解期間90営業日・維持の再手数料・使用証明・控訴裁判所
マルタの異議制度は、2019年商標法(第50条)と2021年商標規則第II部(規則34〜41)が定めます。IPオンライン・ジャーナルでの公告から90日以内(暦日。末日が閉庁日なら翌営業日)に、先行商標の権利者、原産地名称・地理的表示の権利者、および第6条4項の未登録標識・著作権・意匠の権利者が、第6条1項・3項・4項の相対的理由を根拠に異議を申し立てることができます(規則37〜38)。異議は同一権利者の複数の先行権利を根拠にでき、出願の商品・役務の一部または全部に向けることができます。異議申立書には、対象出願の番号と出願人、先行権利の特定(登録番号、周知商標・未登録標識なら表示、名声商標なら番号と登録・出願の別、原産地名称なら保護の根拠)、先行商標の出願日・登録日・優先日、表示(色彩があれば色彩で)、根拠とする商品・役務、異議人の名称・住所・所在国、代理人、ライセンシー等の場合はその権限、対象とする商品・役務を記載し、理由・事実・主張と証拠を添え、異議手数料100ユーロを納付します(規則38)。期間内に手数料が納付されなければ異議は提起されなかったものとされ、期間後の異議は却下されます(規則39)。記載の不備は30日以内に補正できます。
異議が受理されると、庁は出願人に通知し、出願人は通知から90日以内に、(a) 出願の取下げ、(b) 異議の対象となった商品・役務の削除による限定、(c) 答弁書(反論と証拠)の提出のいずれかを行います(規則40第1項)。期間内に何もしなければ出願は放棄されたものとみなされます(規則40第8項)。出願人が限定した場合、異議人は30日以内に残りの商品・役務について異議を維持するか表明し(維持には再度100ユーロ)、出願人は30日以内に取下げまたは答弁します。答弁書が提出されると、異議人は90日以内に異議を維持するか撤回するかを表明し、維持する場合は追加の手数料100ユーロと追加の証拠・主張を提出します。期間内に表明がなければ異議は撤回されたものとみなされ、登録に進みます(規則40第6項)。異議が維持されると出願人に最終の90日が与えられ、庁は双方の書面と証拠に基づいて決定します(規則41)。手続は書面で行われ、口頭審理は通常なく、決定は電子メールで通知されます。決定には送達から15日以内に控訴裁判所へ不服申立てができ(第100条)、控訴した当事者は庁にもその旨を通知します。
和解期間(クーリングオフ)は、両当事者の共同申請により、異議の通知から最長90営業日与えられます(第50条2項)。共同申請は出願人の答弁期間90日の経過前に行い、和解が成立した場合は期間満了から20日以内に、出願と異議の帰結(商品・役務の補正など)を明記した共同声明を提出します。共同声明がない場合や一方が不成立を通知した場合は異議が維持されたものとみなされ、出願人は20日の期間の終了から90日以内に答弁書を提出します(規則40第7項)。使用証明については、後願の出願日・優先日の時点で先行商標の登録手続完了から5年が経過していれば、出願人の請求により、異議人は先の5年間の真正な使用または不使用の正当理由を立証しなければならず、立証できなければ異議は却下されます(第51条)。一部の商品・役務についてのみ使用があれば、その部分についてのみ登録されているものとして判断されます。先行商標がEUTMの場合の真正な使用はEU商標規則第18条で判断されます。
| 段階 | 期間・手数料(根拠) |
|---|---|
| 異議申立て | 公告から90日以内、100ユーロ(規則37〜38)。不備の補正30日(規則39) |
| 出願人の対応 | 通知から90日以内に取下げ・限定・答弁。無対応なら放棄とみなす(規則40第1項・第8項) |
| 和解期間 | 共同申請で最長90営業日(第50条2項)、満了後20日以内に共同声明(規則40第7項) |
| 限定後 | 異議人は30日以内に維持を表明(+100ユーロ)、出願人は30日以内に答弁(規則40第4〜5項) |
| 答弁後 | 異議人は90日以内に維持・撤回を表明、維持には+100ユーロと追加証拠。無表明なら撤回とみなす(規則40第6項) |
| 最終答弁・決定 | 出願人に90日、書面審理で長官が決定(規則41)。不服は15日以内に控訴裁判所(第100条) |
| 使用証明 | 先行商標が登録公告から5年超なら、出願人の請求で異議人が真正な使用を立証(第51条) |
7. 登録・存続期間・更新:出願日から10年、満了後6か月の追納、抹消後6か月の権利回復
商標権の存続期間は出願日から10年で、10年ごとに更新できます(第57条)。更新は、権利者または法律・契約で授権された者が、満了日に終わる6か月の期間内に所定の様式で請求し、更新料90ユーロを納付します(第58条、規則21)。長官は満了の6か月前から1か月前までの間に、登録名義人(または出願時に指定した電子メールの送達先)と代理人に満了の接近を通知しますが、通知がなかったことについて責任を負いません(第58条2項)。満了までに更新しなかった場合は、満了後6か月以内に追加料金35ユーロを加えて更新でき、この期間も経過すると長官は商標を登録簿から抹消します。抹消後は、抹消の日から6か月以内に更新料と権利回復料70ユーロを添えて請求すれば、長官が事情を考慮して「回復が正当」と認める場合に登録が回復されます(規則21第5項)。更新・回復はIPオンライン・ジャーナルに公告されます。IPポータルには更新・回復用の2ステップの電子フォームが用意されています。更新時に使用証明は不要ですが、不使用の商標は第三者からの取消請求に晒されます。
登録商標は、存続期間中も更新時も変更できず、例外として商標に含まれる権利者の名称・住所の変更で同一性を実質的に損なわない場合にのみ、長官の許可で変更が認められます(第59条、規則13、10ユーロ)。変更の公告から30日以内に第三者は異議を述べることができます(規則14、70ユーロ)。権利者は商品・役務の一部または全部について放棄でき、担保権者など登録簿に記録された第三者がいる場合はその同意を添えます(第60条、規則22、90ユーロ)。出願・登録の分割は、分割後の各出願・登録に含める商品・役務を指定した申告で行い、新しい番号が付与されます(第92条6項、規則20、55ユーロ)。名称・住所の変更の記録、商品・役務の限定、登録簿の誤記の更正は規則15により請求します。登録簿はオンラインで公開され、誰でも直接検索できます(規則26)。
| 項目 | 内容(根拠) |
|---|---|
| 存続期間 | 出願日から10年、10年ごとに更新(第57条)。登録日=出願日(第56条3項) |
| 更新期間 | 満了日に終わる6か月間、90ユーロ(第58条、規則21第1項)。長官が6〜1か月前に電子メールで通知(規則21第2項) |
| 追納 | 満了後6か月以内、90+35ユーロ(第58条3項、規則21第3項) |
| 抹消と回復 | 追納期間経過で抹消。抹消から6か月以内に更新料+回復料70ユーロで請求、長官が正当と認めれば回復(規則21第4〜5項) |
| 変更・放棄・分割 | 名称・住所部分の変更のみ可(第59条、10ユーロ)、放棄90ユーロ(第60条)、分割55ユーロ(第92条6項) |
8. 不使用取消(5年)と無効:2023年から長官にも請求可、裁判所との択一、5年の黙認
登録商標は、登録手続の完了(登録の公告)から5年以内にマルタで指定商品・役務について真正な使用を開始しないか、使用を継続5年間中断した場合、正当な理由がない限り、取消のほか、侵害訴訟・異議・無効手続での不使用の抗弁の対象になります(第26条・第29条)。5年の起算日は登録簿に記載されます。登録時と異なる形態での使用(識別力を変えない範囲)や、輸出専用の商品・包装への付与も使用に当たり、権利者の同意を得た使用は権利者の使用とみなされます(第26条4〜5項)。5年経過後でも取消請求前に使用を開始・再開すれば取消されませんが、請求される可能性を知った後に準備を始めた場合、請求前3か月以内の使用開始・再開は考慮されません(第29条2項)。このほか、権利者の作為・不作為による普通名称化と、権利者の使用による品質・原産地等の誤認も取消事由です(第30条)。民事手続で使用の有無が争われた場合の立証責任は権利者が負います(第123条)。
取消・無効の請求は、民事裁判所第一法廷への宣誓申立書のほか、2023年1月14日以降は長官(庁)にも申し立てることができます(第52条1項、規則83〜90)。長官に請求できるのは、取消(第29〜30条)と絶対的理由(第5条)に基づく無効は誰でも(事業者・消費者団体を含む)、相対的理由に基づく無効は第6条1〜3項を根拠とする先行商標・原産地名称の権利者に限られ、未登録標識・著作権・意匠など第6条4項の先行権利に基づく無効は裁判所でのみ請求できます(第52条3〜4項)。長官に請求した場合、同じ事由で裁判所に提訴することは手続終了後はできませんが、手続中にはいつでも裁判所に提訴して長官の手続を終了させることができ、逆に裁判所に提訴済みの事由を長官に請求することはできません(第52条7項)。長官への請求は、登録番号と権利者、請求人、不使用の期間(取消の場合)、対象の商品・役務、理由と証拠を記載し、各100ユーロを納付します(規則83〜87)。不備は20日以内に補正し、受理されると権利者に通知され、権利者は90日以内に放棄・限定・反論のいずれかを行います。限定があれば請求人は20日以内に維持を表明(+100ユーロ)し、反論があれば請求人は90日以内に維持・撤回を表明し、維持には追加の手数料100ユーロと証拠を提出します(規則90)。権利者が期限内に反論しなければ、庁は手元の証拠に基づいて取消・無効を決定します。現地事務所によれば、取消・無効請求には出訴期限がなく、侵害訴訟の反訴として提起することもできます。
無効手続にも使用証明の制度があり、先行商標の登録手続完了から5年が経過していれば、後願権利者の請求により、先行権利者は無効請求前の5年間と、後願の出願日・優先日前の5年間(当時既に5年を経過していた場合)の真正な使用を立証しなければなりません(第53条)。先行商標が後願の出願日時点で識別力や名声を獲得していなかった場合も無効請求は認められません(第10条)。黙認(acquiescence)については、先行商標の権利者がマルタで登録された後願商標の使用を知りながら5年間継続して黙認した場合、後願が悪意で出願されたのでない限り、使用された商品・役務について無効を請求できず、後願権利者も先行権利の使用を妨げられません(第11条)。侵害訴訟でも、後願登録商標が第10条・第11条・第53条3項により無効にならない場合、先行権利者はその使用を禁止できません(第28条)。取消の効果は請求の日(または当事者の請求により取消事由発生日)から、無効の効果は当初に遡ります(第54条)。
| 項目 | 内容(根拠) |
|---|---|
| 不使用取消 | 登録公告から5年、または継続5年の中断(第26条・第29条、規則12)。請求前3か月の駆け込み使用は不考慮。立証責任は権利者(第123条) |
| その他の取消 | 普通名称化、誤認(第30条)。一部の商品・役務のみの取消可(第31条) |
| 無効 | 絶対的理由(第5条、悪意を含む)、相対的理由(第6条)。効果は遡及(第54条2項) |
| 請求先 | 長官(2023年1月14日から。第6条4項の先行権利は不可)または民事裁判所第一法廷。同一事由の併用不可(第52条) |
| 長官への手続 | 請求100ユーロ、権利者の反論90日、請求人の維持90日(+100ユーロ)、書面で決定(規則83〜90)。不服は15日以内に控訴裁判所 |
| 使用証明・黙認 | 先行商標が5年超なら使用証明(第53条)。5年の黙認で無効請求権喪失、悪意を除く(第11条) |
9. 使用・譲渡・ライセンス・消尽:記録の効果、6か月ルール、EU域内消尽と通過貨物、未登録商標の不正競争
登録商標は権利者の動産であり(第32条)、譲渡、遺言、法律の作用により他の動産と同様に移転できます。事業の全部または一部と切り離して、商品・役務の一部または全部について譲渡でき、事業全体の譲渡には反対の合意がない限り商標も含まれます(第34条)。譲渡は譲渡人が署名した書面でなければ効力を生じません(第34条4項)。譲渡、ライセンス、遺言による移転、裁判所等の命令による移転は「記録可能な取引」で、記録を申請するまでは善意で抵触する利益を取得した第三者に対抗できず、ライセンシーは第41〜42条の保護を受けられません(第35条3項)。さらに、取引後に記録前に生じた侵害について、新権利者・ライセンシーは取引の日から6か月以内に記録を申請しない限り、損害賠償・利益の返還を請求できません(第35条4項、6か月ルール)。記録の申請には商標番号、新権利者の名称・住所、一部譲渡なら対象の商品・役務、譲渡を証する書面(双方の署名、または一方の同意の宣言)を添え、最初の商標55ユーロ、同一当事者の追加商標は10ユーロです(規則16)。
ライセンスは、商品・役務の一部または全部、マルタの全部または一部について、独占または非独占で許諾でき、反対の定めがなければ許諾者の承継人を拘束し、許諾があればサブライセンスも可能です(第39条)。権利者は、期間、登録された形態、商品・役務の範囲、地域、品質に関するライセンス契約の条項に違反したライセンシーに商標権を行使できます(第39条4項)。ライセンシーは原則として権利者の同意がなければ侵害訴訟を提起できませんが、独占的ライセンシーは権利者に催告しても相当期間内に提訴しない場合に自ら提訴でき(第39条5項)、一般のライセンシーも権利者が催告後2か月以内に提訴しなければ自己の名で提訴できます(第41条)。独占的ライセンスは、ライセンシーに譲受人と同じ権利・救済を与える旨を定めることができ、その場合は権利者以外の誰に対しても自己の名で提訴できます(第42条)。ライセンスの記録は55ユーロで、ライセンスの独占・非独占の別、限定、期間、ライセンスを証する書面を添えます(規則19)。商標は事業と独立に担保(質権)や物権の対象にでき、強制執行の対象にもなります(第37〜38条、規則17〜18、各55ユーロ)。共有商標は反対の合意がなければ均等の持分で、各共有者は他の共有者の同意なく自ら使用できますが、ライセンスの許諾や持分の譲渡には他の共有者の同意が必要です(第33条)。
消尽はEU域内消尽で、権利者またはその同意を得てEU域内で市場に置かれた商品については、商品の状態が変更・劣化したなどの正当な理由がない限り商標権を行使できません(第17条)。EU域外(日本を含む)で販売された真正品のマルタへの輸入は、権利者の同意なく行えば侵害になり得ます。一方、自由流通に置かれていない第三国からの通過貨物(包装を含む)が、登録商標と同一または本質的部分で区別できない商標を無断で付している場合、権利者はその持込みを差し止めることができ、EU規則608/2013の手続の中で申告者・所持者が「仕向国で販売を禁止できない」ことを立証した場合にのみこの権利は消滅します(第12条7項)。包装・ラベル・タグ・認証用のセキュリティ機能等への標識の付与や、それらの流通・輸出入といった準備行為も差止の対象です(第13条)。辞書・百科事典(電子版を含む)で商標が普通名称のように掲載された場合、権利者は登録商標である旨の表示を求めることができます(第14条)。代理人・代表者が権利者の同意なく自己名義で登録した商標については、使用の差止と譲渡の請求ができ(第15条)、パリ条約6条の7に基づく無効・名義の更正は登録を知ってから3年以内に民事裁判所第一法廷に求めます(第130条)。商標権は、自然人の氏名・住所、記述的表示、用途(付属品・部品)を示すための使用には及ばず(第16条1項)、登録前から継続使用されていた先使用の標識にも及びません(第16条3項)。
未登録商標は商法典の不正競争で保護される
商法典(第13章)第32条は、商人が「商標法で登録されていなくても、他人が適法に使用する名称・標章・識別標識と混同を生じさせる名称・標章・識別標識」を使用することを禁じ、虚偽の原産地表示(第33条)、競争目的での他の商人を害する情報の流布(第34条)なども禁止します。被害を受けた商人は、損害賠償と利息、または裁判所が定める465.87〜4,658.75ユーロ(約8万〜82万円)の違約金のいずれかを選択して請求でき、侵害物の廃棄その他の是正措置も求められます(第37条)。先使用の未登録商標は、商標法第6条4項の先行権利として後願への異議・無効(裁判所)の根拠にもなります。ただし、現地事務所は、未登録商標に基づく請求は混同のおそれに限られ、登録商標に認められる知的財産権行使法上の救済や税関への登録は使えないため、登録を強く推奨しています。
10. 侵害訴訟と救済:民事裁判所第一法廷、知的財産権行使法の仮処分・情報提供・損害賠償、控訴30日
登録商標の侵害は、権利者(および第41〜42条のライセンシー)が民事裁判所第一法廷(First Hall of the Civil Court)に宣誓申立書を提出して争います(第19条)。侵害訴訟は登録が実際に完了する前には提起できません(第12条3項)。マルタには商標・著作権の専門裁判所はなく、特許のみ専門の特許審判所がありますが、現地事務所によれば事件配分の運用により知財に経験のある裁判官が大半の事件を担当し、裁判所は専門家や司法補助官を任命できます。当事者はマルタで資格を持つ弁護士(advocate)の補佐を受ける必要があり、外国の権利者は訴訟中の代理のため特別受任者(special mandatory)を選任するのが通例です。訴額5,000ユーロ以下の少額裁判所の管轄はなく、商標侵害は常に第一法廷です。救済は他の財産権の侵害と同じで(第19条2項)、商標法独自の救済として、侵害物からの標識の抹消・除去、不可能なら侵害物の廃棄(第20条)、業務上所持する侵害商品・資材・器具の引渡し(第21条、標識の付与等から6年以内、第23条)、引き渡された物の廃棄・没収(第24条)があります。民事訴訟の時効は5年で(第124条)、一般の不法行為の2年より長く設定されています。
EU知的財産権行使指令(2004/48/EC)を国内法化した知的財産権行使(規制)法(第488章、2006年)により、権利者、ライセンシー、集中管理団体、職業的防衛団体は、(1) 相手方の支配下にある証拠の提出命令、商業的規模の侵害では銀行・財務・商業文書の開示(第5条)、(2) 本案提起前の証拠保全措置(侵害品・資材・文書の詳細な記述、サンプル採取、物理的差押え。遅延が回復不能な損害を生じる場合は一方的申立て可、担保の提供、31日以内に本案を提起しなければ取消し、第6条)、(3) 侵害品・役務の出所と流通経路に関する情報提供命令(製造者・流通業者・卸売・小売の名称と住所、数量と価格。侵害者のほか商業的規模で侵害品を所持・使用した者、サービス提供者にも、第7条)、(4) 仮差止(差し迫った侵害の防止、継続の暫定禁止、反復金の設定、担保を条件とする継続、仲介者への差止命令)、侵害品の差押え・引渡し、商業的規模の侵害で損害賠償の回収が危ぶまれる場合の動産・不動産の保全差押えと銀行口座の凍結(第8条。一方的申立て可、31日以内に本案提起、不当な場合の補償)を請求できます。本案判決後は、侵害品と製造資材の回収・流通からの排除・廃棄(侵害者の費用、第9条)、継続の差止命令(違反は法廷侮辱、仲介者にも、第10条)、損害賠償(第12条)、訴訟費用の敗訴者負担(第13条)、判決の公表(侵害者の費用、第14条)が命じられます。
損害賠償は、侵害を知りまたは知り得た侵害者に対し、権利者が被った実際の損害に相当する額を命じるもので、逸失利益を含む負の経済的結果、侵害者の不当な利益、適切な場合には精神的損害を考慮し、裁判所が適切と判断すれば、代替として許諾があれば支払われたはずのロイヤルティ・料金の額を少なくとも含む一括額を定めることができます(第488章第12条)。現地事務所によれば、知財事件で精神的損害が認められた裁判例もあります。仮差止は略式で一応の証明に基づいて審理され、一方的申立てでの発令も可能ですが、マルタの裁判例は「回復不能な損害(irremediable prejudice)」の要件を厳格に解し、本案判決で侵害を除去できる場合や金銭的損害にとどまる場合は認めない傾向があり、実務上は例外的措置と位置付けられています。登録証は権利の有効性と帰属の一応の証拠となり(第97条)、仮処分では登録証の提出で足りるのが通例です。侵害の警告についても、商品への使用・輸入・役務提供以外の行為を理由に提訴を脅した場合、被警告者は根拠のない警告として民事裁判所第一法廷に不当の宣言・差止・損害賠償を求めることができます(第25条)。判決への控訴は控訴裁判所(上級管轄)に判決から30日以内で、延長はできず、控訴審の判決までは現在1年半〜2年を要するとされています。
| 項目 | 内容(根拠) |
|---|---|
| 管轄 | 民事裁判所第一法廷(第19条)。EUTM裁判所も同法廷と控訴裁判所(規則79)。専門裁判所なし。控訴は30日以内(延長不可) |
| 証拠・情報 | 証拠提出命令、証拠保全(一方的申立て可、31日以内に本案)、流通経路の情報提供命令(第488章第5〜7条) |
| 仮処分 | 仮差止、差押え・引渡し、保全差押え・口座凍結(第488章第8条)。回復不能な損害の要件が厳格 |
| 本案の救済 | 抹消・廃棄・引渡し(第20〜24条)、回収・排除・廃棄(第488章第9条)、差止(第10条、違反は法廷侮辱)、損害賠償(第12条)、費用(第13条)、判決公表(第14条) |
| 損害賠償の算定 | 逸失利益・侵害者利益・精神的損害、または合理的ロイヤルティを含む一括額(第488章第12条) |
| 時効・立証 | 民事5年(第124条)、使用の立証責任は権利者(第123条)、登録は一応の証拠(第97条) |
| 抗弁 | 非商標的使用、非類似・混同なし、名声なし・正当理由、氏名・記述的・用途表示(第16条)、不使用の抗弁(第27条)、中間権利(第28条)、黙認(第11条)、消尽(第17条)、反訴での取消・無効 |
11. 刑事罰:無断使用は3年以下の拘禁・2万3,295ユーロ、未登録なのに「登録済み」表示の罰金、治安判事の捜索令状
商標法第IV部(第108〜122条)は刑事罰を定めます。中心となる第108条は、自己または他人の利得目的または他人に損失を与える意図で、権利者の同意なく、(a) 登録商標と同一または誤認されやすい標識を商品・包装に付し、(b) そのような商品を販売・賃貸・販売の申出・陳列・頒布し、(c) 業として販売等の目的で所持し、(d) ラベル・包装・取引書類・広告用の資材に付し、(e) 業としてそのような資材を使用し、(f) 使用目的で所持し、(g) 標識を複製するための器具を製造・所持した者を、3年以下の拘禁もしくは2万3,295ユーロ(約410万円)以下の罰金またはその併科に処します。犯罪が成立するのは、商標が登録された商品に関する場合、または商標がマルタで名声を有し標識の使用がその識別力・名声を不当に利用し害する場合に限られ、使用が侵害に当たらないと信じる合理的な理由があったことは抗弁になります(第108条2〜3項)。
このほか、登録簿への虚偽記載、記載の虚偽の写しの作成・証拠提出は2年以下の拘禁または1万1,650ユーロ(約205万円)以下の罰金(第109条)、商標を登録商標と偽って表示し、または登録された商品・役務について虚偽の表示をした者は1万1,650ユーロ以下の罰金(第110条)です。第110条は、マルタで商標に「registered」の語や登録を示唆する語・記号(®など)を用いることを、外国での登録を示すものでその商品・役務について実際に登録されていることを証明しない限り、マルタでの登録の表示とみなします。日本やEUでの登録のみを根拠にマルタ国内で®を表示する場合は、外国登録である旨を示せる状態にしておく必要があります。大統領の許可なく大統領の御用達と信じさせる記章等を業務に使う行為は6,990ユーロ以下の罰金(第111条)、登録商標代理人を僭称する行為は1,165ユーロ以下の罰金(第120条)です。登録簿の虚偽記載に関する事件では、裁判所は検察の求めにより、侵害に使われた機械・器具、侵害物、製造装置を没収して権利者に引き渡すことができます(第112条)。
手続面では、刑事手続の係属中、治安判事は宣誓した情報により、被告人の住居・施設や支配下の場所に犯罪に関わる物品があると疑う合理的理由があれば、警察官に捜索・押収・搬出を命じる令状を発することができ(第113条)、所有者が不明の場合も同様です(第114条)。押収物は刑事裁判所として開廷する治安判事裁判所で没収の可否が判断され(第115条)、所有者不明の場合は官報と裁判所に8日以上の間隔で2回公示し、出頭して理由を示さなければ没収されます(第116条)。没収物は商標等を抹消した後に廃棄・処分され、善意で損害を受けた者には処分代金から補償が与えられます(第117条)。刑事訴追の時効は、被害者が行為を知らなかった場合は行為から3年、知った場合は知った日から1年です(第118条)。刑事罰は損害賠償請求を妨げず(第121条)、雇用主の指示に善意で従い警察に雇用主と事実を完全に申告した従業員は訴追されません(第122条)。これらの刑事規定は、規則78によりEUTMにも適用されます。現地事務所によれば、刑事訴追は犯罪の性質により職権または被害者の告訴で行われ、刑法典(第9章)にも商標の使用・除去に関する詐欺や著作物の複製に関する犯罪規定があり、刑事裁判所の判決は刑事控訴裁判所に控訴されます。税関法(第414章)第11条は、侵害品を輸入した者に物品価額の2倍の罰金を科し、治安判事裁判所で審理されます(第12章参照)。
| 行為 | 法定刑(根拠) |
|---|---|
| 登録商標の無断使用(付与・販売・所持・資材・複製器具) | 3年以下の拘禁、2万3,295ユーロ(約410万円)以下の罰金、または併科(第108条) |
| 登録簿の虚偽記載・虚偽の写し | 2年以下の拘禁、1万1,650ユーロ(約205万円)以下の罰金、または併科(第109条) |
| 未登録商標を登録済みと表示(「registered」・®) | 1万1,650ユーロ以下の罰金(第110条) |
| 大統領御用達の僭称 | 6,990ユーロ(約123万円)以下の罰金(第111条) |
| 登録商標代理人の僭称 | 1,165ユーロ(約20万円)以下の罰金(第120条) |
| 侵害品の輸入 | 物品価額の2倍の罰金、治安判事裁判所(第414章第11条) |
| 捜索・没収・時効 | 治安判事の令状で捜索・押収(第113〜114条)、没収・廃棄(第115〜117条)、時効3年/1年(第118条) |
12. 税関と模倣品対策:EU規則608/2013のAFAと国境措置法(第414章)、10営業日の提訴、価額2倍の罰金
マルタはEU加盟国として、EU規則(EU)608/2013(知的財産権の税関執行規則)と実施規則(EU)1352/2013が直接適用され、権利者はマルタ税関に国内申請(マルタのみ)またはEU全域のEU申請(EUTMを根拠とする場合)として税関差止申請(AFA、Application for Action)を提出し、申請は1年間有効で延長できます。税関が侵害の疑いのある物品を発見すると、権利者と申告者に通知し、権利者は通知から10営業日(生鮮品は3営業日)以内に侵害を確認して手続を開始し、申告者が異議を述べなければ簡易手続で廃棄されます。これに加えて、マルタには2000年の知的財産権(国境措置)法(Intellectual Property Rights (Cross-Border Measures) Act、第414章)という国内法があり、EU規則と並行して適用されています。同法は「知的財産権を侵害する物品」を、登録商標と同一または本質的部分で区別できない商標を無断で付した模倣品(商標、ロゴ・ラベル・説明書等の商標シンボル、包装を含む)、著作権・隣接権・意匠を侵害する海賊版、特許侵害品と定義し(第2条)、これらのマルタへの持込み、輸出・再輸出、自由流通への解放、一時輸入、自由地域(フリーゾーン)・保税倉庫への搬入を禁止します(第4条)。権利者の同意を得て製造・商標を付した真正品(並行輸入品)と、旅行者の手荷物中の非商業的物品は対象外です(第3条)。
権利者(ライセンシー、代理人を含む)は、税関長官(Comptroller of Customs)に書面で措置を申請し、物品を識別できる詳細な説明、権利者であることと一応の侵害の証明(登録証明等。代理人は授権の証明)、物品の所在・仕向地・貨物の特定・到着予定日・輸送手段・輸出入者等の情報(可能な範囲で)、措置を求める期間を記載します。申請人は申請処理と決定の実施に伴う行政費用を負担し(第5条7項)、長官は申請を認めるとき、民事訴訟の提起まで物品の解放を留保・留置する期間を定め、権利者に担保の提供を求めることができます(第5条9〜12項)。申請の拒否には3営業日以内に税関担当大臣に不服を申し立てます(第5条10項)。申請がなくても、税関手続の検査で侵害が一応明らかな場合、長官は権利者に通知し、職権で5営業日解放を停止して申請の機会を与えます(第6条)。物品が申請の説明に該当すると認めた場合、長官は解放を停止または留置し、申告者と申請人に直ちに通知し、権利者の求めに応じて申告者・荷受人の名称・住所を開示し、双方に検査とサンプル採取の機会を与えます(第7条1〜3項)。申請人が停止の通知を受けてから10営業日以内に本案の民事訴訟を提起した証明を提出しなければ物品は解放され、長官はさらに10営業日延長できます(第7条4項)。特許・意匠の疑いの場合、輸入者等は担保を提供して解放を受けられます(第7条5項)。侵害が確定した物品は、裁判所が流通経路外での処分または廃棄を命じ、輸入者等の費用負担で補償はなく、単なる商標の除去は原則として十分な措置とは認められません(第8条)。権利者は、税関が物品を発見できなかった場合の補償を請求できず(第9条)、手続を濫用した場合は相手方への補償を命じられます(第10条)。侵害品を輸入した者は物品価額の2倍の罰金を科され、治安判事裁判所で審理されます(第11条)。
| 項目 | 内容(EU規則608/2013・第414章) |
|---|---|
| 申請 | EU規則のAFA(国内申請/EU申請、1年、延長可)。第414章では税関長官への書面申請:物品の説明、権利と一応の侵害の証明、貨物情報、期間、行政費用の負担、担保(第5条) |
| 対象 | 模倣品・海賊版・特許侵害品の持込み、輸出・再輸出、自由流通、一時輸入、フリーゾーン・保税倉庫への搬入(第4条)。並行輸入品と旅行者の手荷物は対象外(第3条) |
| 職権差止 | 一応明らかな侵害で権利者に通知し5営業日停止(第6条)。EU規則でも職権差止あり |
| 停止後の手続 | 申告者・申請人に通知、名称・住所の開示、検査・サンプル(第7条1〜3項)。通知から10営業日(+10営業日)以内に民事訴訟を提起しなければ解放(第7条4項)。EU規則では10営業日(生鮮品3営業日)、簡易廃棄手続 |
| 処分 | 流通経路外での処分または廃棄、輸入者等の費用、補償なし。商標の除去のみは不十分(第8条) |
| 罰則・責任 | 侵害品の輸入は価額の2倍の罰金(第11条)。手続濫用は補償(第10条)、税関の見落としに補償なし(第9条) |
| 商標法上の措置 | 通過貨物への権利行使と仕向国での立証による失効(第12条7項)、準備行為の差止(第13条) |
積替え拠点マルタでの税関対策の実務
マルタは地中海の積替え拠点で自由港(フリーポート)を持ち、第414章がフリーゾーン・保税倉庫への搬入や再輸出を対象に含めているのはそのためです。現地事務所によれば、権利者は根拠とする権利、物品の説明と識別上の特徴、登録証明、EORI番号を添えてAFAを提出し、税関は申請または職権で差し止め、権利者が侵害を確認して10営業日(延長10営業日)以内に民事訴訟を提起します。模倣品事件は被告が不出頭のことが多く比較的迅速に進みますが、原告が侵害品の保管・廃棄費用と不在被告のための管財人(curator)の費用を立て替える必要があり、費用の回収には実務上の困難が伴います。EUTMを根拠に通過貨物を差し止める場合は仕向国での権利が必要ですが、マルタ国内登録を根拠とする第414章の手続ではその要件が明記されておらず、マルタ国内登録を持つ意義の一つとされています。なお、マルタ税関のウェブサイト(customs.gov.mt)は執筆時点で接続できず、AFAの様式・提出方法は税関または現地代理人に確認が必要です。
13. EUTM・国内出願の使い分け(マドプロ非加盟)と日本企業の実務ポイント
マルタで商標を保護するルートは、(1) マルタ国内出願(IPRD、1区分115ユーロ)と(2) EUTM(EUIPOへの直接出願850ユーロ、またはマドプロでEUを指定)の2つです。マルタはマドリッド議定書に加盟していないため、日本の基礎出願・登録からマドプロでマルタ単独を指定することはできず、マドプロを使うならEUを指定してEUTMとして保護を得ることになります。EUTMはマルタを含むEU27か国で単一の権利として効力を持ち、マルタの先行商標としても扱われます(第6条2項)。EUの他の加盟国の先行権利によってEUTMが拒絶・取消・無効になった場合は、EUTMをマルタ国内出願に転換し(EU商標規則第139条、規則80)、EUTMの出願日・優先権を維持できます。逆に、マルタ国内登録を持つ者がEUTMを出願する際はシニオリティを主張でき、国内登録を放棄・失効させてもEUTMがその地位を引き継ぎます(第6条2項b・第8条)。
マルタ国内出願が有効な場面は、(a) マルタ限定の事業(観光・飲食・不動産・現地向けサービスなど)で費用を抑えたい場合、(b) EUTMが他の加盟国の先行商標と抵触するリスクが高く、まずマルタだけ確保したい場合、(c) EUTMからの転換、(d) マルタ法人(オンラインゲーム・金融・知財保有会社)にブランドを集約する場合、(e) 国内登録を根拠に第414章の税関手続を使う場合です。手続は英語で完結し、代理人の選任は義務ではありませんが、EEA域内の送達先住所が必要なため、日本企業は実務上マルタの弁護士・商標代理人を通じて出願します。登録までの期間はIPRDの案内で3〜5か月、現地事務所の目安で6〜8か月と、EU加盟国の中でも短い部類です。EU全域で事業を行う場合はEUTMが第一選択で、マルタ国内出願は補完的に位置付けるのが合理的です。
| 比較項目 | マルタ国内出願 | EUTM(直接出願・マドプロEU指定) |
|---|---|---|
| 効力範囲 | マルタのみ | EU27か国(マルタを含む) |
| 庁費用 | 1区分115ユーロ、区分ごとに別出願(3区分345ユーロ) | 850ユーロ(2区分目+50、3区分目以降+150)。マドプロEU指定は個別手数料 |
| 審査 | 方式・絶対的理由。先行商標は職権調査で通知のみ、異議90日 | 方式・絶対的理由。先行商標は調査報告で通知のみ、異議3か月 |
| 期間 | 3〜5か月(IPRD)〜6〜8か月(現地事務所) | 異議がなければ4〜6か月程度 |
| マドプロ | 指定不可(非加盟)、本国官庁にもなれない | EU指定で取得可。マルタの出願人はEUTMを基礎にマドプロ出願(EUIPOが本国官庁) |
| 不使用取消 | 登録公告から5年、マルタでの使用 | 登録から5年、EU域内のいずれかでの真正な使用 |
| 取消・無効 | 長官(100ユーロ)または民事裁判所第一法廷 | EUIPO取消部または反訴 |
| 税関 | EU規則の国内申請、第414章の申請(仕向国の権利不要) | EU申請で全加盟国の税関に一括。通過貨物は仕向国の権利が必要 |
| 転換・シニオリティ | EUTMのシニオリティの基礎になる | 拒絶・失効時にマルタ国内出願へ転換可(第139条) |
日本企業の実務ポイントをまとめます。第一に出願前調査です。マルタの職権調査は先行権利者への「通知」を伴うため、抵触する先行商標があると高い確率で異議を受け、出願料は返還されません。国内商標登録簿、TMview、EUIPOのeSearchで国内登録・EUTM・EU指定の国際登録を横断的に調査してから出願します。第二に区分と用語です。区分ごとに別出願・別料金なので、必要な区分に絞り、用語はTMclassで検証済みのものを使って補正指令を避けます。第三に公告監視です。IPオンライン・ジャーナルは毎週月曜に更新され、異議期間は90日で、答弁に応じないと放棄とみなされるため、自社商標への異議対応と他社出願の監視を体制化します。第四に使用証拠です。登録公告から5年の猶予後は、マルタでの請求書、広告、価格表などの証拠がなければ取消・異議・無効のいずれでも不利になります。第五に®表示です。マルタで未登録の商標に登録表示を付す行為は第110条の犯罪で、日本やEUでの登録を根拠とする場合はその旨を示せるようにしておきます。第六に税関です。EUTMを持つならEU申請のAFAでマルタ税関を含む全加盟国に一括で登録し、積替え貨物も視野に入れます。第七に契約です。ライセンス・譲渡は書面で行い、6か月以内に記録して第三者対抗と損害賠償請求権を確保します。
本記事で確認できなかった点・注意点
(1) マドリッド議定書への非加盟は2026年10月時点のWIPO加盟国一覧と2026年版の現地ガイドで確認したものですが、2021年規則が加盟を見越した条文を置いているため、出願時点での最新状況の確認を推奨します。(2) 先行商標の職権調査について、IPRDのFAQは「マルタとEU」を調査すると説明し、規則35は「国内商標データベース」と定めており、EUTMの調査範囲は確認できませんでした。(3) 登録までの期間は、IPRD(3〜5か月)、現地事務所(6〜8か月)、WIPO統計(遅延60日)で幅があり、拒絶理由や異議の有無で大きく変わります。(4) 庁の調査手数料は料金表の1区分10ユーロを採用しましたが、IPRDの「調査」ページには11.65ユーロの記載も残っています。(5) マルタ税関のウェブサイトは執筆時点で接続できず、AFAの実務は現地事務所の解説と第414章・EU規則の条文に基づいています。(6) 刑法典(第9章)の商標関連の犯罪規定は条文を確認していません。(7) 統計はWIPOの区分数ベースで、IPRDは年次統計を公表していません。
よくある質問(FAQ)
Q1. マドプロでマルタを指定できますか?
できません。マルタはマドリッド協定にもマドリッド議定書にも加盟しておらず(2026年10月時点、WIPOの加盟国一覧117メンバーに含まれません)、EU加盟国で唯一の非加盟国です。マドプロでマルタをカバーするにはEUを指定してEUTMとして保護を得ます。マルタ単独の保護が必要な場合は、IPRDへの国内出願(1区分115ユーロ、英語で電子出願)を行います。商標法第131〜132条と2021年規則第III部には議定書発効後の手続が規定済みで、将来加盟すれば本国官庁としての国際出願も可能になりますが、現時点では休眠条文です。
Q2. IPRDは先行商標を理由に拒絶しますか?
拒絶はしません。規則35により、IPRDは各出願について国内商標データベースを職権で調査し、同一・類似の先行登録・出願があれば出願人に結果を通知し、30日以内に取下げがなければ先行権利者にも通知して公告します。先行商標との抵触は、公告から90日の異議(第50条、100ユーロ)でのみ争われます。現地事務所によれば、2021年の異議制度再導入後は同意書(letter of consent)の実務は使われていません。したがって、先行商標がある状態で出願すると異議を受ける可能性が高く、出願前の調査が不可欠です。周知商標、名声商標、未登録標識、著作権・意匠などの先行権利も異議の根拠になります(規則37、第6条3〜4項)。
Q3. 現地代理人は必要ですか?委任状の公証は必要ですか?
法令上、代理人の選任は義務ではなく、IPRDのFAQも「代理人を選任する必要はない」と明記しています。ただし、出願人または代理人はEEA域内の送達先住所を指定しなければならず(第55条、規則32)、庁からの通知(先行商標の調査結果、拒絶理由、異議の通知)に90日などの期限内に応答する必要があるため、日本企業は実務上マルタの弁護士・商標代理人を通じて出願します。代理人を立てる場合は、代理人の権限を記載した委任状を提出します(規則31)。公証・認証は法令上要求されていませんが、現地事務所は真正性のために推奨しています。手続言語はマルタ語または英語で、英語で完結します。
Q4. 登録までどのくらいかかりますか?多区分出願はできますか?
IPRDのFAQでは出願から登録まで3〜5か月、現地事務所の目安では拒絶理由・異議がない場合で6〜8か月です。公告から90日の異議期間があるため、最短でも4か月程度はかかります。拒絶理由通知への応答期間は90日、異議を受けると出願人の答弁90日、異議人の維持90日、最終答弁90日と和解期間(最長90営業日)が加わり、1年以上になることがあります。多区分での出願自体は可能ですが、区分ごとに別の出願番号が付与され、それぞれ115ユーロで別々に審査・登録されます。登録日は出願日に遡り(第56条3項)、登録料・公告料はかかりません。
Q5. 使っていない商標はいつ取り消されますか?どこに請求しますか?
登録手続の完了(登録の公告)から5年以内にマルタで真正な使用を開始しないか、使用を継続5年間中断すると、正当な理由がない限り取消の対象になります(第26条・第29条)。2023年1月14日からは長官(IPRD)に100ユーロで取消を請求でき、民事裁判所第一法廷への提訴も可能ですが、同じ事由で両方は使えません(第52条)。長官への請求では、権利者が90日以内に反論し、請求人が90日以内に維持(+100ユーロ)を表明し、書面で決定されます。使用の立証責任は権利者にあり(第123条)、請求前3か月以内の駆け込み使用は考慮されません。EU域内での使用で足りるEUTMと異なり、国内登録はマルタでの使用が必要です。
Q6. 模倣品が入ってきたら税関で止められますか?
止められます。EU規則608/2013の税関差止申請(AFA)を国内申請(マルタ国内登録を根拠)またはEU申請(EUTMを根拠)として提出しておけば、マルタ税関は該当貨物の通関を停止し、権利者は10営業日(生鮮品3営業日)以内に侵害を確認して簡易廃棄手続を進めます。これに加えて国内法の知的財産権(国境措置)法(第414章)があり、税関長官への申請、職権での5営業日の停止、停止後10営業日(+10営業日)以内の民事訴訟の提起、裁判所による廃棄命令、侵害品の輸入者への物品価額2倍の罰金を定めます。フリーゾーン・保税倉庫への搬入や再輸出も対象です。現地事務所によれば、AFAには登録証明とEORI番号を添え、原告は保管・廃棄費用と不在被告の管財人費用を立て替える必要があります。
Q7. 費用の総額はいくらですか?
庁費用は1区分115ユーロ(約2.0万円)のみで、登録料・公告料はかかりません。3区分なら345ユーロ(約6.1万円)、5区分なら575ユーロ(約10.1万円)です。10年後の更新は1区分90ユーロ(約1.6万円)、満了後6か月の追納は+35ユーロ、権利回復は+70ユーロです。異議・取消・無効は各100ユーロで、維持する場合に追加100ユーロがかかります。譲渡・ライセンス・担保の記録は55ユーロです。これに現地代理人の手数料(出願・審査対応・登録証受領で1区分数百ユーロ台から)と翻訳・通信費が加わります。EUTMは1区分850ユーロ(約15万円)で、EU27か国をカバーするため、マルタ以外のEU加盟国でも事業を行う場合はEUTMの方が割安です。円換算は1ユーロ≒176円(2026年10月27日の欧州中央銀行参考レート)です。
まとめ
マルタの商標制度は、EU商標指令を国内法化した2019年商標法(第597章)と2021年商標規則(S.L. 597.04)に基づき、バレッタの商務省 工業所有権登録局(IPRD)が方式と絶対的理由を審査し、先行商標は職権で調査して出願人と先行権利者に通知したうえで、週刊のIPオンライン・ジャーナルでの公告から90日の異議(答弁90日、和解期間最長90営業日、維持の再手数料)を経て登録する仕組みです。費用は1区分115ユーロ(約2.0万円)に登録・公告まで含まれ、区分ごとに別出願として扱われます。手続は英語で完結し、代理人の選任は義務ではありませんが、EEA域内の送達先住所が必要です。存続期間は出願日から10年、不使用取消は登録公告から5年で、2023年から長官にも取消・無効を請求でき、長官の決定は15日以内に控訴裁判所で争います。侵害訴訟は民事裁判所第一法廷で、知的財産権行使法の証拠保全・情報提供・仮差止・損害賠償が使え、刑事罰は3年以下の拘禁・2万3,295ユーロ以下の罰金、未登録商標への登録表示も犯罪です。税関はEU規則608/2013のAFAと国境措置法(第414章)の二本立てで、侵害品の輸入には価額2倍の罰金が科されます。マルタはEU加盟国で唯一マドリッド議定書に加盟しておらず、マドプロでマルタ単独を指定することはできないため、EU全域の事業にはEUTM、マルタ限定の事業や転換・シニオリティ・税関手続には国内出願という使い分けが基本です。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
マルタ・EUへの商標出願は弁理士にご相談ください
EUTMとマルタ国内出願の使い分け、国内登録・EUTM・国際登録を横断する先行調査とIPオンライン・ジャーナルの公告監視、IPRDへの電子出願と拒絶理由対応、異議・取消・無効請求と使用証明の準備、控訴裁判所への不服申立て、EU税関差止申請(AFA)と国境措置法に基づく税関対応、並行輸入・通過貨物対策、イタリア・ギリシャ・北アフリカを含む地中海地域の商標ポートフォリオ設計、INPIT外国出願補助金の申請まで、知的財産事務所エボリクスが現地の弁護士・商標代理人と連携して一貫してサポートします。初回相談は無料です。
出典・参考文献
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。商標法・商標規則・税関法・知的財産権行使法・商法典の条文は、マルタ政府の法令データベース「legislation.mt」に掲載された現行の統合版(英語の公式テキスト)を参照しました。
法令(legislation.mt・EUR-Lex)
- Trademarks Act(商標法、Cap. 597、2019年法律XII号、2023年法律XXXV号による改正までの統合版)/商標の定義(第4条)、絶対的理由と大統領・大司教の紋章・国旗(第5条)、相対的理由と先行商標の定義(第6条)、黙認(第11条)、権利の内容・通過貨物(第12条)、準備行為・辞書・代理人商標・制限・消尽(第13〜17条)、侵害訴訟・抹消・引渡し・根拠のない警告(第19〜25条)、使用・不使用の抗弁・取消事由(第26〜31条)、財産権・共有・譲渡・記録・担保・ライセンス(第32〜42条)、出願・出願日・分類・優先権・審査・異議・使用証明・取消と無効の手続・登録・存続期間・更新・変更・放棄(第43〜60条)、証明標章・団体標章(第61〜90条)、登録簿・分割・不服申立て・代理人(第91〜107条)、刑事罰(第108〜122条)、立証責任・時効(第123〜124条)、周知商標・6条の7(第126〜130条)、マドリッド議定書(第131〜132条)の根拠。
https://legislation.mt/eli/cap/597/eng/pdf - Trademark Rules(商標規則、S.L. 597.04、法律告示50/2021、告示69/2023・152/2024による改正までの統合版)/出願の内容・出願日・表示(規則4〜6)、優先権(規則7)、拒絶理由への応答90日(規則8)、ディスクレーマー(規則10)、公告の内容と登録手続完了日(規則11〜12)、変更・移転・担保・ライセンス・分割(規則13〜20)、更新・追納・回復(規則21)、放棄(規則22)、団体・証明標章(規則23〜25)、登録簿の検索(規則26)、代理人と委任状(規則31)、EEA域内の送達先(規則32)、手数料の減免(規則33)、先行商標の職権調査(規則35)、公告(規則36)、異議期間90日と手続(規則37〜41)、マドリッド議定書発効後の規則(規則42〜72)、EUTM裁判所・転換(規則73〜80)、期限の延長(規則81〜82)、長官への取消・無効請求(規則83〜90)、料金表の根拠。
https://legislation.mt/eli/sl/597.4/eng/pdf - Intellectual Property Rights (Cross-Border Measures) Act(知的財産権(国境措置)法、Cap. 414、2000年法律VIII号)/侵害物品の定義(第2条)、適用除外(第3条)、禁止(第4条)、税関長官への申請・行政費用・担保・不服申立て(第5条)、職権差止5営業日(第6条)、停止・通知・検査・10営業日の提訴(第7条)、処分・廃棄(第8条)、責任の免除(第9条)、濫用(第10条)、価額2倍の罰金(第11条)の根拠。
https://legislation.mt/eli/cap/414/eng/pdf - Enforcement of Intellectual Property Rights (Regulation) Act(知的財産権行使(規制)法、Cap. 488、2006年法律XX号)/請求権者(第3条)、証拠提出命令(第5条)、証拠保全(第6条)、情報提供(第7条)、仮差止・保全差押え・口座凍結(第8条)、是正措置(第9条)、差止命令(第10条)、代替措置(第11条)、損害賠償(第12条)、費用(第13条)、判決公表(第14条)の根拠。
https://legislation.mt/eli/cap/488/eng/pdf - Commercial Code(商法典、Cap. 13)/第32〜37条(競争の制限):未登録の名称・標章との混同の禁止(第32条)、虚偽の原産地表示(第33条)、損害賠償または465.87〜4,658.75ユーロの違約金(第37条)の根拠。
https://legislation.mt/eli/cap/13/eng/pdf - Patents and Designs Act(特許・意匠法、Cap. 417)/第3条の工業所有権長官(Comptroller of Industrial Property)の設置の根拠。
https://legislation.mt/eli/cap/417/eng/pdf - EU商標指令(指令(EU) 2015/2436、EUR-Lex)/商標法が国内法化した指令。絶対的・相対的理由、使用証明、不使用取消、通過貨物、異議・取消・無効の行政手続の根拠。
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2015/2436/oj/eng - EU商標規則(規則(EU) 2017/1001、EUR-Lex)/EUTMのマルタでの効力、先行商標としてのEUTM、シニオリティ、転換(第139条)、真正使用(第18条)、EUTM裁判所(第123条)、附属書Iの手数料(出願850ユーロ、2区分目50、3区分目以降150、異議320)の根拠。
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1001/oj/eng - EU規則(EU)608/2013(知的財産権の税関執行規則、EUR-Lex)/税関差止申請(国内申請・EU申請)、差止後10営業日(生鮮品3営業日)、簡易廃棄手続、通過貨物の立証(商標法第12条7項)の根拠。
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2013/608/oj/eng
商務省 工業所有権登録局(commerce.gov.mt・ips.gov.mt)
- Industrial Property Registrations Directorate(工業所有権登録局の概要ページ)/IPRDの所掌(商標・証明標章・団体標章・意匠・特許)、パリ条約1967年・WTO創設メンバー・WIPO加盟1977年、EU加盟によるEUIPOへの参加、バレッタの所在地、不服申立ての連絡先の根拠。
https://commerce.gov.mt/en/industrial-property-registrations-directorate/ - Frequently Asked Questions – Trademark(商標に関するFAQ)/ips.gov.mtからの電子出願、委任状・優先権証明・使用規程、費用115ユーロ(出願・登録・公告を含む)、出願日から10年、登録まで3〜5か月、マルタとEUの先行商標の調査、手数料の不返還、代理人の選任は不要、TMclassの利用の根拠。
https://commerce.gov.mt/en/frequently-asked-questions-related-to-industrial-property-registrations-directorate/trademark/ - Searching(調査のページ)/国内商標登録簿とTMviewでの出願前調査の推奨、庁による調査サービスの料金(3語・3ウィーン分類コード単位で1区分10ユーロ、抄本1/2ユーロ、11.65ユーロの旧記載)、調査報告の免責の根拠。
https://commerce.gov.mt/en/industrial-property-registrations-directorate/searching/ - Publications – The IP Online Journal(IPオンライン・ジャーナル)/2021年2月12日からの異議制度(公告から90日)、ジャーナルの週刊発行(週の最初の営業日)、2019年2月25日の創刊、年別の公告一覧の根拠。
https://commerce.gov.mt/en/intellectual-property/latest-publications/ - Trademarks(商標のページ)/「商標の解説」「出願方法」「商標の料金表」の案内ページ(料金表ページは2023年5月更新)。
https://commerce.gov.mt/en/industrial-property-registrations-directorate/trademarks/ - IP Portal eServices(IPポータル、ips.gov.mt)/5ステップの商標電子出願、更新・回復の2ステップフォーム、異議申立て、移転・名称変更の電子手続、国内商標登録簿の検索、TMview、EUIPOへのリンク、商品・役務ビルダー、EUIPO協力基金による構築の根拠。
https://ips.gov.mt/welcome/?lang=en
WIPO・特許庁(JPO)
- WIPO Lex「Malta – Member profile」(マルタの条約加盟状況)/パリ条約(1967年10月20日)、WTO・TRIPS(1995年1月1日)、WIPO著作権条約・実演レコード条約(2010年3月14日)、PCT(2007年3月1日)、TLT(1994年署名のみ)の加盟状況と、マドリッド協定・議定書、ニース協定が含まれないことの根拠。
https://www.wipo.int/wipolex/en/members/profile/MT - WIPO「Madrid System Members」(マドリッド制度の加盟国一覧)/117メンバー・133か国の加盟国一覧にマルタが含まれないことの根拠。
https://www.wipo.int/web/madrid-system/members - WIPO Lex「Madrid Protocol – Contracting Parties」(マドリッド議定書の締約国一覧)/締約国117の一覧にマルタが含まれないことの照合。
https://www.wipo.int/wipolex/en/treaties/ShowResults?search_what=C&treaty_id=8 - WIPO「Statistical Country Profiles: Malta」(2024年)/区分数ベースの出願2,110(居住者1,793・非居住者317)、登録789、有効登録2万5,906件(世界95位)、審査官1人当たり527.5件、登録遅延60日、マルタの出願人の出願8,878区分(EUIPO 3,214、国外3,871、マドプロ1,051)、GDP比の居住者出願世界4位、上位区分・上位出願人、非居住者出願の出所別シェアの根拠。
https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/mt.pdf - 特許庁「マルタ共和国(MT)」(外国知的財産権制度情報・国別資料)/IPRDの連絡先とIPポータル、WIPO統計に基づく2021〜2024年の商標出願(1,572・1,763・1,757・2,110)、うち外国出願人(327・366・381・317)、日本から(6・1・0・1)、登録(420・1,104・854・789)、条約加盟状況(マドプロ・ニース・TLT・シンガポール条約が未加盟)の根拠。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/mt.pdf
解説・基礎データ
- Ganado Advocates「Malta: Law and Practice & Trends and Developments」(Chambers Global Practice Guides, Trade Marks & Copyright 2026)/IPRDと長官、出願115ユーロ、審査は方式と絶対的理由に限られ先行権利は異議で争うこと、拒絶理由への応答90日、マドリッド議定書に未加盟(執筆時点)、公告から90日の異議と答弁90日・維持90日、異議100ユーロ+維持100ユーロ、取消・無効の長官と裁判所の択一、控訴15日・30日、控訴審の待機1年半〜2年、仮差止の「回復不能な損害」要件、損害賠償、AFAとEORI番号、10+10営業日の提訴、保管・廃棄費用の負担、特別受任者、専門裁判所の不存在の根拠。
https://ganado.com/wp-content/uploads/2026/03/Chambers_Trade-Marks-Copyright-2026_016_malta.pdf - Chambers and Partners「Trade Marks & Copyright 2026 – Malta」(オンライン版)/上記ガイドのオンライン掲載ページ。
https://practiceguides.chambers.com/practice-guides/trade-marks-copyright-2026/malta - Ganado Advocates「Trademarks – Malta」(Lexology Panoramic: Trademarks 2025、2024年9月2日時点)/登録まで通常6〜8か月、区分ごとに別出願・別料金115ユーロ、委任状は法令上不要だが公証を推奨、職権調査の結果を出願人と先行権利者に通知、異議再導入後は同意書を使用しない、未登録商標の商法典による保護、第414章の手続では仕向国の権利が不要、刑事訴追の職権・告訴、管財人の費用の根拠。
https://ganado.com/wp-content/uploads/2025/06/Malta-Trademarks-1.pdf - BDO Malta「The introduction of the 2021 Trademark Rules Malta」/法律告示50/2021の2021年2月12日施行、1区分115ユーロ、公告から90日の異議、期間後の異議の却下の根拠。
https://www.bdo.com.mt/en-gb/news/2021/the-introduction-of-the-2021-trademark-rules-malta - Mondaq「Trade Mark Laws and Regulations Malta 2024」/商標規則S.L. 597.04の位置付け、1区分115ユーロと追加区分ごとの115ユーロの根拠。
https://www.mondaq.com/trademark/1463030/trade-mark-laws-and-regulations-malta-2024 - InariLaw「Malta leads the EU in trademark applications in the 2025 European Innovation Scoreboard」(Legalink Newsletter、2025年7月)/欧州イノベーション・スコアボード2025でGDP10億ユーロ当たりのEUIPOへの商標出願がEU平均の233%でキプロスと並び首位、マルタがニース協定の非加盟国でありながら分類を採用していることの根拠。
https://www.legalink.net/xms/files/InariLaw_-_Legalink_July_Newsletter_-_Malta_Leads_the_EU_in_Trademark_Appl...ations.pdf - EUIPO「Fees payable directly to EUIPO」(EUIPOに直接納付する手数料)/EUTMの出願料850ユーロ(2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ)、異議320ユーロの照合。
https://www.euipo.europa.eu/en/trade-marks/before-applying/fees-payable-direct-to-euipo - 外務省「マルタ共和国 基礎データ」(令和8年8月21日)/面積316平方キロメートル、人口約55万人、首都バレッタ、マルタ語と英語、GDP 243.2億米ドル・1人当たり4万3,992米ドル(2024年IMF)、主要産業、EU加盟(2004年)・ユーロ導入(2008年)、2025年の輸出先(ドイツ、イタリア、ギリシャ、米国、日本)、日本との貿易(2025年輸出260億円・輸入187億円)、クロマグロ輸入元第1位、在留邦人332人、在マルタ兼勤駐在官事務所(2024年)の根拠。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/malta/data.html - 欧州中央銀行「Euro foreign exchange reference rates – Japanese yen」/円換算レート(1ユーロ=175.97円、2026年10月27日)の根拠。
https://www.ecb.europa.eu/stats/policy_and_exchange_rates/euro_reference_exchange_rates/html/eurofxref-graph-jpy.en.html