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インドネシア商標制度の実務ガイド|DGIP出願・マドプロ・ハラール認証を弁理士が徹底解説

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インドネシアで商標を出願・権利化・権利行使する実務担当者のために、2016年商標及び地理的表示法(UU No. 20 Tahun 2016)を中核とした制度概要を、出願方式・審査・異議・取消・権利行使の「実務上の勘所」とともに体系的に整理します。DGIP(インドネシア知的財産総局)の運用、政府手数料、マドプロ経由の指定、ハラール認証商標、地理的表示まで、人口2.7億の東南アジア最大市場における商標実務の全体像を弁理士が一本にまとめました。

この記事のポイント

  • インドネシアは2018年1月にマドリッド議定書に加盟、日本企業の出願戦略が大きく変化
  • 2016年法により音商標・3D商標・ホログラム商標が登録可能に
  • 審査体系:方式審査→公告(2か月の異議申立期間)→実体審査→登録の順序が日本と異なる
  • 出願から登録まで通常9〜18か月。マドプロ経由は最短3〜6か月で結果判定
  • 外国出願人は現地代理人(IP Consultant)の選任が必須、Power of Attorney原本提出
  • ハラール商標・地理的表示(GI)等、ASEAN最大のイスラム市場特有のリスクに注意

INDONESIA TRADEMARK

弁理士による、東南アジア最大市場インドネシアの商標制度・実務完全ガイド。出願から権利行使まで12セクションで体系的に解説します。

1. エグゼクティブサマリー

インドネシア商標制度は、2016年商標及び地理的表示法(UU No. 20 Tahun 2016)を中核に、政令(Peraturan Pemerintah)・大臣令(Permenkumham)DGIPガイダンスが重層的に出願・審査・紛争を規律する「成文法」構造です。

インドネシア商標実務で押さえるべき4つのポイント

  1. 出願方式は「直接出願」と「マドプロ経由(2018年1月加盟)」の2択。前者は現地代理人必須・後者は手続簡便だが翻訳コスト発生
  2. 政府手数料はクラス単位で課金。1区分Rp1,800,000(約18,000円)が標準。マドプロ手数料はCHF(スイスフラン)建て
  3. 審査の争点は絶対的拒絶理由(識別力・公序良俗・宗教感情を害する標章)×相対的拒絶理由(先願商標との抵触)イスラム文化・ハラール表示への配慮が独自要素
  4. 権利行使は商業裁判所(Pengadilan Niaga)に専属管轄、最終的には最高裁(Mahkamah Agung)。並行して刑事告発・税関措置も実務上有効

2. 制度の基本構造と法源

主要法令と運用レイヤー

インドネシア商標制度の「一次法」はUU No. 20 Tahun 2016(2016年商標及び地理的表示法)であり、商標の定義(第1条)、登録要件(第20条・第21条)、出願手続(第4条以下)、異議(第16条)、取消(第74条以下)、刑事罰(第100条以下)等を規定しています。手続運用は政令(PP)・法務人権大臣令(Permenkumham)と、実務家・審査官が参照するDGIPの運用ガイダンスで具体化されます。

DGIP(インドネシア知的財産総局)の役割

商標審査・登録・情報提供等の行政機能は、法務人権省(Kementerian Hukum dan HAM)配下のDGIP(Direktorat Jenderal Kekayaan Intelektual)が責任主体として位置付けられます。実務的には以下の3機能で制度運用の「実効ルール」を形成します:

  • 審査部門による出願審査(方式・実体)
  • 商標審判委員会(Komisi Banding Merek, KBM)による不服審判・取消審判
  • 料金体系・電子出願基盤(merek.dgip.go.id)・各種ガイダンスの公表

司法フォーラムの位置づけ

フォーラム 管轄・特徴 根拠
商業裁判所(Pengadilan Niaga) 商標侵害訴訟・登録取消訴訟を専属管轄。ジャカルタ・スラバヤ・メダン・マカッサル・スマランの5裁判所に設置 UU 20/2016 §83〜
最高裁判所(Mahkamah Agung) 商業裁判所判決の上告審(カサシ) UU 20/2016 §85
商標審判委員会(KBM) DGIPの拒絶査定・登録に対する不服審判 UU 20/2016 §28
税関(DJBC) 輸入差止(IPR Recordal登録による水際措置) 関税法

3. 出願人資格と方式要件

出願人資格

インドネシアでは個人・法人いずれも商標出願可能です。外国出願人(インドネシア国内に住所・営業所を持たない者)は、現地登録のIP Consultant(Konsultan KI)を代理人として選任する義務があります(UU 20/2016 §6)。日本企業は通常、現地代理人を経由してDGIPに出願します。

実務ポイント:外国出願人のPower of Attorney(POA)は原本提出が必須で、公証・領事認証は不要(2019年改正で緩和)。ただし、出願時または出願日から2か月以内に提出する必要があり、未提出だと出願日繰下げのリスクがあります。

出願書類パッケージ

書類 実務上のポイント
願書(Permohonan Pendaftaran Merek) DGIPの電子出願システム(merek.dgip.go.id)で提出。ローマ字・ラテン文字以外は英訳・音訳の併記必須
商標見本 JPEG/PNG(最大2MB)。色彩商標は色見本+色の説明、3D商標は6方向図、音商標は楽譜+音声ファイル
指定商品・役務 ニース分類45区分。多区分出願可だが、各区分ごとに手数料発生
Power of Attorney(POA) 外国出願人は必須。簡易POA可(公証・領事認証不要)
優先権書類 パリ条約優先権主張時。出願日から3か月以内に英訳付で提出
使用宣誓書 米国と異なり使用証拠の提出は不要。出願時の使用意思表明のみ

4. 標準フローと期間管理

インドネシア商標審査は、「先公告→後実体審査」の順序が日本と異なります。出願日から約14日以内に方式審査が完了し、適法であれば直ちに公告(2か月)→公告期間満了後に実体審査開始、という流れです。

① 出願(DGIPオンライン)

② 方式審査(約14日)

③ 商標公告(2か月:異議申立期間)

④ 実体審査(約150営業日/7か月)

⑤ 拒絶対応(オフィスアクション)

⑥ 登録査定 → 登録証発行

⑦ 10年ごと更新(永続)

所要期間の目安:順調なケースで出願から登録まで約9〜18か月。拒絶理由通知が発行された場合は応答期間(30日+延長30日)を加味して18〜24か月程度を見込みます。

5. 政府手数料の概算

項目 電子出願(オンライン) 紙出願 日本円換算(参考)
出願料(1区分) Rp 1,800,000 Rp 2,000,000 約18,000円
追加区分料(1区分ごと) Rp 1,800,000 Rp 2,000,000 約18,000円
異議申立料 Rp 1,000,000 Rp 1,000,000 約10,000円
不服審判(KBM) Rp 3,000,000 Rp 3,000,000 約30,000円
更新料(1区分・期限内) Rp 2,250,000 Rp 2,500,000 約22,500円
更新料(猶予期間内・6か月) Rp 4,500,000 Rp 5,000,000 約45,000円(2倍)

UMKM割引制度:インドネシアの中小零細企業(UMKM)認定を受けた者は、出願料がRp 500,000(約5,000円)に減額されます。日本企業は対象外ですが、現地子会社の場合はUMKM登録の検討余地があります。

6. 商標要件と実体審査

登録可能な商標(2016年法で大幅拡大)

  • 文字商標(ローマ字・カナ・漢字・アラビア文字等)
  • 図形商標・結合商標
  • 立体商標(3D Mark)— 2016年法で正式に認可
  • 音商標(Sound Mark)— 楽譜+音声ファイル提出
  • ホログラム商標
  • 色彩商標(色の組合せに限る、単色は原則不可)
  • 団体商標・証明商標

絶対的拒絶理由(UU 20/2016 §20)

  • 公序良俗違反(特にイスラム教義に反するもの
  • 識別力の欠如(記述的・慣用的標章)
  • 誤認混同を生じさせる商標
  • 国旗・国章・国際機関章の無断使用
  • 機能的形状のみからなる立体商標

相対的拒絶理由(UU 20/2016 §21)

  • 先願・先登録商標との類似
  • 周知商標(他人の周知商標と類似する場合は非類似商品でも拒絶)
  • 他人の氏名・肖像の無断使用
  • 地理的表示(GI)として登録された名称

7. 異議申立・無効審判

公告期間中の異議申立(前置異議)

商標公告から2か月以内であれば、何人も異議を申し立てることができます(UU 20/2016 §16)。異議申立人は、絶対的・相対的拒絶理由のいずれを根拠とすることも可能です。出願人は反論書を提出して応答します。

登録後の無効審判(商業裁判所)

日本との大きな違い:登録後の無効請求は商業裁判所(Pengadilan Niaga)の管轄であり、日本のような「審判→審決取消訴訟」の二段構造ではなく、司法手続として一審から始まる点に注意。提訴期限は登録日から5年以内(悪意・公序良俗違反の場合は期限なし)。

不使用取消(UU 20/2016 §74)

登録から3年間連続で正当理由なく不使用の場合、利害関係人は商業裁判所に取消を請求できます。日本(3年)・インド(5年+3か月)と比較してインドネシアは3年と短めなので、登録後早期の使用開始が重要です。

8. 権利行使と侵害対応

民事上の救済

商業裁判所が命じ得る救済

  • 差止命令(仮処分・恒久的差止)
  • 損害賠償(実損害+逸失利益)
  • 侵害品の廃棄命令
  • 判決の新聞公告命令

刑事罰(UU 20/2016 §100〜)

違反類型 罰則
登録商標の同一・類似使用 5年以下の懲役 + Rp 2,000,000,000(約2,000万円)以下の罰金
健康・環境危害を生じうる商品の侵害 10年以下の懲役 + Rp 5,000,000,000(約5,000万円)以下の罰金
地理的表示(GI)の侵害 4年以下の懲役 + Rp 2,000,000,000以下の罰金

税関での水際措置

商標権者はDJBC(インドネシア関税消費税総局)IPR Recordal登録を行うことで、輸入段階で侵害物品を差止めできます。Recordalは1年単位で更新が必要、登録料はRp 1,000,000(約10,000円)。

9. マドプロ経由の指定

インドネシアは2018年1月2日にマドリッド議定書に加盟し、日本企業はマドプロ経由でインドネシアを指定することが可能になりました。マドプロ国際商標出願から日本特許庁経由で出願すれば、インドネシアを含む132加盟国に一括指定できます。

項目 直接出願 マドプロ経由
現地代理人 必須 不要(拒絶対応時のみ)
使用言語 インドネシア語 英語
審査期限 9〜18か月 18か月以内の審査義務(条約規定)
費用(1区分) Rp 1.8M + 代理人費用 CHF 105 + JPO手数料
基礎出願依存 なし 5年間はセントラルアタックリスクあり

10. 維持管理・更新・取消

インドネシア商標権の存続期間は出願日から10年。10年ごとに更新可能で、更新回数に上限はありません。

更新タイムラインの3層構造

  • 通常更新期間:満了前6か月以内(標準料金)
  • 猶予期間:満了後6か月以内(料金2倍)
  • 復活:不可(猶予期間経過後は権利消滅)

11. 実務上の特有リスク(ハラール・地理的表示)

ハラール認証と商標

イスラム市場特有の落とし穴:2024年10月から食品・化粧品等のハラール認証義務化がスタート。商標自体に「Halal」表示を含める場合、BPJPH(ハラール製品保証機関)の認証取得が前提となります。認証なしの「Halal」商標は使用差止・刑事罰の対象。

地理的表示(GI)保護

インドネシアは地理的表示(Indikasi Geografis)を商標とは独立に保護しています(UU 20/2016 §53〜)。「Kopi Gayo」(ガヨコーヒー)、「Kopi Toraja」(トラジャコーヒー)等が登録済み。地名を含む商標は GI との抵触チェックが必須です。

悪意の冒認出願(Bad Faith Filing)

インドネシアでは外国ブランドの冒認出願(先取り出願)が依然として問題です。最高裁は近年、悪意の出願を厳格に取り消す傾向(IKEA事件・Pierre Cardin事件等)。日本企業は進出前の早期出願(できれば日本出願と同時)が最強の防御策となります。

12. 日本企業向け実務チェックリスト

出願前(Pre-filing)

  • 先行商標調査をDGIPデータベース(pdki-indonesia.dgip.go.id)で実施
  • 地理的表示(GI)抵触を確認
  • イスラム文化への配慮(豚関連・アルコール関連表示の禁止)
  • 「Halal」表示を含める場合はBPJPH認証取得計画を事前策定
  • 直接出願 vs マドプロ経由を「指定国数」「言語コスト」「審査期限」から選択

出願中(Prosecution)

  • POA原本を出願日から2か月以内に提出
  • パリ条約優先権主張は出願日から3か月以内に英訳付で
  • 公告期間中は競合他社の異議に備えた使用証拠・周知性証拠を準備
  • 拒絶対応は応答期限(30日+延長30日)を厳守、KBM不服審判は3か月以内

出願後(Enforcement / Maintenance)

  • 登録後3年以内に使用開始(不使用取消防止)
  • DJBC(税関)IPR Recordalを登録、模倣品の水際措置
  • 更新は満了前6か月から猶予期間6か月までをカレンダー管理(復活不可)
  • 使用許諾は商業裁判所への登録で第三者対抗要件を具備
  • 侵害発見時は商業裁判所訴訟・刑事告発・税関措置の3軸で並行検討

まとめ

インドネシア商標実務では、UU 20/2016を中核とした「公告前置型」の審査フローと、商業裁判所中心の権利行使システムが日本との大きな違いです。マドプロ加盟(2018年)、ハラール認証義務化(2024年)、地理的表示の充実、冒認出願対策の強化など、近年の制度変化が著しく、最新動向を踏まえた戦略的対応が成功の鍵となります。マドプロ国際商標出願商標登録サービスもあわせてご覧ください。

インドネシア商標出願のご相談

EVORIX国際特許事務所は、インドネシアを含むASEAN主要国への商標出願・権利行使を幅広くサポートしています。直接出願・マドプロ経由の戦略設計から、ハラール対応、模倣品対策、現地裁判所での訴訟対応まで、現地代理人と連携した実務経験豊富な弁理士がご対応します。

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※本記事は、UU No. 20 Tahun 2016(2016年商標及び地理的表示法)、DGIP公式ガイダンス、JETRO・WIPO公開資料、現地法律事務所解説等を基に、一般的な情報提供を目的として作成されています。個別案件の具体的判断には、現地代理人を含む専門家へのご相談を推奨します。

杉浦健文 弁理士

AUTHOR / 執筆者

杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)

知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士

特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。