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韓国特許制度の実務ガイド|KIPO・IPTAB・特許法院・3倍懲罰賠償を弁理士が徹底解説

韓国で特許を出願・権利化・権利行使する実務担当者のために、韓国特許法(特허법)を中核に、KIPO(韓国特許庁/특허청)の運用、政府手数料、PCT国内移行、特許審判院(IPTAB)・特許法院・大法院の三審制、特許権存続期間延長(PTE)まで、日韓を跨ぐ知財実務の全体像を体系的に整理します。日本企業がアジアで最も多く出願する重要市場における実務上の勘所を弁理士が解説します。
この記事のポイント
- 韓国は先願主義+審査主義。日本特許法とほぼ同型構造で、日本企業にとって戦略立案しやすい
- 審査請求は出願日から3年以内(日本は3年で同じ)、未請求は取下擬制
- 異議申立制度なし→登録後の無効審判で対抗(2017年に異議申立廃止)
- 権利行使は特許審判院(IPTAB)→特許法院→大法院の三審制(韓国独特の専門裁判所)
- 新規性喪失例外は「12か月」(日本と同じ)、PCT国内移行期限は優先日から31か月
- 医薬品・農薬の特許権存続期間延長(PTE)制度あり、最大5年延長可能
KOREA PATENT
弁理士による、日韓実務に精通した韓国特許制度・実務完全ガイド。出願からKIPO審査、IPTAB審判、特許法院訴訟まで12セクションで体系的に解説します。
目次
1. エグゼクティブサマリー
韓国特許実務は、韓国特許法(特허법)を中核に、韓国特許法施行令/施行規則とKIPO審査ガイドライン、さらに判例法(大法院・特許法院)とKIPO実務マニュアルが重層的に権利範囲・審査・紛争を規律する「日本型成文法」構造です。
韓国特許実務で押さえるべき4つのポイント
- 出願方式(直接出願・パリ条約優先・PCT国内移行)は「優先日確保の方法」と「韓国審査への入口」として整理
- 政府手数料は韓国特許庁の料金表で客観化できるが、韓国弁理士費用は案件難易度・OA回数でレンジ管理が不可欠
- 審査の争点は新規性(韓国特許法29条)×進歩性(同29条2項)×記載要件(同42条)の三角形に集約。韓国独自の「日付混合公知文献」運用に注意
- 紛争は特許審判院(IPTAB)・特許法院・大法院の三審制。日本と異なり司法専門裁判所「特許法院」が知財事件を集中処理
2. 制度の基本構造と法源
主要法令と運用レイヤー
韓国特許制度の「一次法」は特許法(특허법)であり、第29条(新規性・進歩性)、第42条(明細書記載要件)、第97条(権利範囲)、第126条(侵害差止請求権)等が中核です。手続運用は特許法施行令(特许法 시행령)と特許法施行規則(특허법 시행규칙)、審査基準はKIPO特許・実用新案審査基準で具体化されます。
KIPO(韓国特許庁/특허청)の役割
特許付与・実用新案登録・意匠登録・商標登録等の行政機能は、産業通商資源部(산업통상자원부)配下のKIPOが責任主体として位置付けられます。実務的には以下の3機能で制度運用の「実効ルール」を形成します:
- 審査局による出願審査(ex parte)
- 特許審判院(IPTAB/特許心判院/특허심판원)による審判(無効審判・拒絶査定不服審判等)
- 料金体系・電子出願基盤(KIPRIS/KIPOnet)・各種ガイダンスの公表
司法フォーラムの位置づけ(韓国独特の三審制)
| フォーラム | 管轄・特徴 | 根拠 |
|---|---|---|
| 特許審判院(IPTAB) | 無効審判・取消審判・拒絶査定不服審判の一審。KIPO内部の準司法機関 | 特許法 §132の3 |
| 特許法院(특허법원) | IPTAB審決取消訴訟の専属管轄+一部侵害控訴審。大田に所在する司法専門裁判所 | 法院組織法 |
| 大法院(대법원) | 特許法院判決の上告審。韓国最高裁 | 法院組織法 |
| 地方裁判所(서울중앙지방법원等) | 特許侵害訴訟の一審。ソウル中央地裁が事実上の集中 | 民事訴訟法 |
3. 出願方式の比較(直接・PCT・パリ)
| 項目 | 直接出願 | パリ条約優先(日本基礎) | PCT経由韓国移行 |
|---|---|---|---|
| 法的位置付け | 韓国第一国出願 | 日本出願の優先日を引継 | 特許法§201(PCT国内移行) |
| 韓国出願期限 | いつでも | 日本出願日から12か月以内 | 優先日から31か月以内 |
| 翻訳要件 | 韓国語明細書必須 | 韓国語明細書必須 | 韓国語翻訳文を移行時提出 |
| 審査請求期限 | 出願日から3年以内 | 韓国出願日から3年以内 | 国際出願日から3年以内 |
| 日本企業のメリット | 単独出願時のシンプルさ | 日本基礎出願との連動・コスト効率 | 多国一括時に有効・31か月の余裕 |
4. 標準フローと期間管理
↓
② 方式審査
↓
③ 18か月で出願公開
↓
④ 審査請求(出願日から3年以内)
↓
⑤ 実体審査・OA応答
↓
⑥ 拒絶査定不服審判(IPTAB)
↓
⑦ 設定登録 → 特許権発生
↓
⑧ 4年目以降の年金(毎年)
標準的な所要期間:審査請求から最初のOA発行まで約12〜16か月、登録まで通常2〜3年。優先審査制度(PPH/優先審査)を活用すれば6〜12か月に短縮可能。
5. 政府手数料の概算
| 項目 | 電子出願 | 紙出願 | 日本円換算(参考) |
|---|---|---|---|
| 出願料(基本) | KRW 46,000 | KRW 66,000 | 約5,000円 |
| 明細書ページ料(21頁超) | KRW 1,000/頁 | KRW 1,000/頁 | 約100円/頁 |
| 審査請求料 | KRW 143,000+クレーム加算 | 同左 | 約14,300円〜 |
| クレーム加算(請求項毎) | KRW 44,000 | KRW 44,000 | 約4,400円 |
| 登録料(1〜3年分) | KRW 45,000+クレーム加算 | 同左 | 約4,500円〜 |
| 年金(4-6年) | KRW 100,000/年+クレーム加算 | 同左 | 約10,000円/年 |
| 年金(7-9年) | KRW 240,000/年+ | 同左 | 約24,000円/年 |
| 年金(10-12年) | KRW 480,000/年+ | 同左 | 約48,000円/年 |
| 年金(13-25年) | KRW 960,000/年+ | 同左 | 約96,000円/年 |
中小企業・個人減免:韓国の中小企業(중소기업)・個人発明家は30〜70%減免の対象。日本企業の韓国子会社で適用可能なケースもあり、現地法人化の知財メリットとして検討価値あり。
6. 特許要件(新規性・進歩性・記載要件)
| 条文 | 要件 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| §29(1) | 新規性:出願日前に公知・公用・刊行物記載なし | 12か月の新規性喪失例外あり(§30) |
| §29(2) | 進歩性:当業者が容易発明できる範囲外 | 日本のTSMテストに類似の判断基準 |
| §42 | 記載要件:明確性・実施可能性・サポート要件 | 日本特許法36条と類似 |
| §32 | 特許不要事項:人間の治療方法等 | 医薬品の物の発明はOK |
| §33 | 特許を受ける権利:原則発明者帰属 | 職務発明は使用者承継可能(§39) |
7. 主要判例と実務影響
| 判例 | 中心論点 | 実務への翻訳 |
|---|---|---|
| 大法院 2016후526 | クレーム解釈方法 | 明細書全体・出願経過・技術常識を考慮した解釈を確認。明細書の用語定義の重要性 |
| 大法院 2014후1631 | 均等論 | 日本同等の5要件採用。クレーム文言を超える保護範囲確保の指針 |
| 大法院 2018다225 等 | 数値範囲発明の進歩性 | 単純な数値選択は進歩性否定。特殊な効果(顕著性)の主張・データが鍵 |
| 大法院 2019다270 | 特許権侵害の損害賠償 | 2019年改正で3倍賠償(懲罰的損害賠償)導入。故意侵害には強力な抑止 |
2019年改正の重要ポイント:韓国は世界的にも珍しい特許権侵害の3倍賠償(最大3倍の懲罰的損害賠償)制度を導入(特許法§128)。故意侵害が認定されれば実損害の3倍まで賠償命令の可能性があり、ライセンス交渉力が大幅向上。
8. 権利行使と侵害訴訟
侵害類型と救済
特許権者が請求できる救済
- 差止請求(§126)—侵害品の製造・販売・使用差止
- 損害賠償(§128)—実損害+逸失利益+3倍賠償の可能性
- 不当利得返還(民法§741)
- 信用回復措置(§131)—謝罪広告等
- 侵害品廃棄請求(§126(2))
訴訟プロセス
特許侵害訴訟は地方裁判所(特にソウル中央地裁)に提起、控訴審は2016年改正で特許法院が専属管轄に集中。これにより専門性が高く、判決の予測可能性が向上しました。
9. 特許審判院(IPTAB)と特許法院
韓国特許制度の最大の特徴は、「IPTAB(特許審判院)→特許法院→大法院」の三審制です。日本では特許庁審判→知財高裁の二審制ですが、韓国では中間にIPTABという行政審判機関が入る点が異なります。
| 審判種類 | 請求できる者 | 期間 |
|---|---|---|
| 無効審判(§133) | 利害関係人 | いつでも |
| 権利範囲確認審判(§135) | 利害関係人 | いつでも |
| 拒絶査定不服審判(§132の3) | 出願人 | 査定送達から30日以内 |
| 訂正審判(§136) | 特許権者 | いつでも |
10. 維持管理・存続期間延長(PTE)
韓国特許権の存続期間は出願日から20年。年金は4年目以降に毎年納付が必要で、納付期限を6か月超過すると失効しますが、不可抗力等による回復制度(§81の3)も存在します。
特許権存続期間延長(PTE:Patent Term Extension)
医薬品・農薬の延長制度
- 対象:医薬品、農薬として処分(食品医薬品安全処の許可)に必要な実験等で実施できなかった期間
- 延長期間:最大5年
- 申請期限:処分を受けた日から3か月以内、かつ存続期間満了前6か月以前
- 条文:特許法§89〜92
11. 日韓制度の違いと実務上の注意点
| 項目 | 日本 | 韓国 |
|---|---|---|
| 出願主義 | 先願主義 | 先願主義(同一) |
| 新規性喪失例外 | 12か月 | 12か月(同一) |
| 審査請求期限 | 3年 | 3年(同一) |
| 公開時期 | 18か月 | 18か月(同一) |
| 異議申立制度 | あり(登録後6か月以内) | 2017年廃止 → 無効審判で代替 |
| 司法構造 | 特許庁審判→知財高裁→最高裁 | IPTAB→特許法院→大法院(三審制) |
| 懲罰的損害賠償 | なし | あり(最大3倍) |
| 出願言語 | 日本語 | 韓国語(英語仮出願も可、後日翻訳) |
| PCT国内移行期限 | 30か月 | 31か月(1か月余裕あり) |
12. 日本企業向け実務チェックリスト
出願前(Pre-filing)
- 日本基礎出願との優先期間(12か月)を厳守カレンダー化
- 韓国語明細書の品質確保(KIPO審査基準・韓国特許用語統一)
- クレーム数の最適化(請求項毎にKRW 44,000の加算料)
- PCT経由なら31か月の移行期限・翻訳文提出計画
出願中(Prosecution)
- 審査請求は出願日から3年以内に必ず行う(未請求は取下擬制)
- OA応答は通常2か月以内、延長最大4か月(30日×4回)
- 優先審査申請(PPH/グリーン技術等)でスピードアップ可能
- 拒絶査定後はIPTAB不服審判(30日以内)→特許法院(30日以内)
出願後(Enforcement / Maintenance)
- 登録から3年分は登録時一括納付、4年目以降は毎年
- 侵害発見時はソウル中央地裁+IPTAB併用(無効審判ステイ戦略)
- 故意侵害立証で3倍懲罰賠償を狙えるかを早期評価
- 医薬品・農薬はPTE申請(処分日から3か月以内)を見落とさない
まとめ
韓国特許制度は日本特許法と多くの点で類似しており、日本企業にとって戦略立案しやすい近隣市場です。一方で、三審制(IPTAB→特許法院→大法院)、3倍懲罰的損害賠償、異議申立廃止後の無効審判中心実務など独自要素もあります。日本基礎出願からの優先権主張、PCT国内移行(31か月)、韓国弁理士との緊密な連携を軸に、攻めと守りの両面で戦略的対応が成功の鍵となります。PCT国際特許出願と特許出願サービスもあわせてご覧ください。
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※本記事は、韓国特許法(특허법)、KIPO公式資料、大法院・特許法院判例、JETRO・WIPO公開資料、韓国法律事務所解説等を基に、一般的な情報提供を目的として作成されています。個別案件の具体的判断には、現地弁理士を含む専門家へのご相談を推奨します。
AUTHOR / 執筆者
杉浦 健文 (SUGIURA Takefumi)
知的財産事務所エボリクス(EVORIX) 代表弁理士
特許・商標・意匠・著作権の出願から審判・侵害訴訟まで、IT・製造・スタートアップ・ファッション・医療など幅広い業種のクライアントを支援。AI・IoT・Web3・FinTech等の先端分野の知財戦略にも精通。日本弁理士会/アジア弁理士協会(APAA)/日本商標協会(JTA)等 複数団体所属。