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デンマーク商標制度の実務ガイド|2019年商標法・DKPTOは先行商標を調査報告で通知のみ・異議2か月・約6週間で審査・出願日から10年・不使用5年・使用でも権利発生・EUTMとの使い分けを弁理士が徹底解説
デンマークは人口約600万人、1人当たりGDPが約7万1,000米ドルと世界最高水準の北欧の国で、ノボ・ノルディスク、レゴ、カールスバーグ、マースク、ベスタス、パンドラ、エコー、ロイヤル・コペンハーゲンなど世界的なブランドを数多く生んできました。日本との関係では、2024年の日本からの輸出は約881億円(機械類・輸送用機器)、輸入は約2,996億円(医薬品を中心とする化学製品、食料品)で、126社の日本企業が進出し、2025年4月にはフレデリック国王が大阪・関西万博のために来日しました。デザイン・ライフサイエンス・再生可能エネルギーの分野で日本企業との提携が増え、デンマークでの商標保護の相談も増えています。
デンマークの商標制度は、2019年1月に全面改正された商標法(統合法88/2019)に基づき特許商標庁(DKPTO)が登録します。DKPTOは先行商標を調査して調査報告書を出願人に送りますが、先行商標を理由に職権で拒絶することはせず、先行権利者が公告から2か月の異議で争う仕組みです。調査報告書を省略すれば最短で登録でき、審査は約6週間、存続期間は出願日から10年、不使用取消は5年で、DKPTOの行政取消手続も使えます。使用によって商標権が発生する点、海事商事裁判所が知財事件を集中して扱う点、模倣品が年間数万点規模で水際で止められている点も特徴です。本記事では、商標法の条文(DKPTO公表の英訳)、DKPTOの2026年手数料表と2025年統計、裁判所の判決、税関の公表数値、外務省のデータを一次資料として、出願から異議・取消・権利行使・EUTMとの使い分けまでを弁理士が実務目線で整理します。
この記事のポイント
- 根拠法は商標法(統合法88/2019、2019年1月1日施行)、管轄は特許商標庁(DKPTO)。DKPTOは絶対的理由を審査し、先行商標は調査報告書で出願人に通知するだけで拒絶しない。先行権利者は公告から2か月の異議で守る
- 庁費用は出願2,400クローナ(1区分・約5.9万円)、2区分目240、3区分目以降720クローナ(2026年1月改定)。調査報告書を省略すれば審査は約6週間、登録まで3〜4か月。商標権は使用によっても発生する(局地的でない使用)
- 存続期間は出願日から10年、更新2,400クローナ(満了後は20%増)。不使用取消は5年。異議・行政取消ともDKPTOへ3,000クローナで申し立て、決定への不服は特許商標審判委員会(4,000クローナ、2か月以内)
- 侵害訴訟は海事商事裁判所(コペンハーゲン)がEU商標裁判所を兼ねて審理。刑事は原則罰金、悪質な場合は18か月以下の拘禁刑、組織的な場合は刑法299b条で6年以下。税関は2023年に約5万点・7,000万クローネ超の模倣品を差し止め、空港検査では9割が模倣品
- 2025年の国内出願は2,238件と少なく、デンマーク企業の出願の6割は国外向け。マドプロでデンマークを指定する個別手数料はCHF 301(1区分)。EUTM(850ユーロ)との使い分けが設計のポイント
目次
- デンマーク商標制度の全体像:2019年商標法とDKPTO
- 国内出願は年2,200件前後:市場環境と統計
- 保護対象と拒絶理由:絶対的理由のみ審査・調査報告書で通知
- 出願手続の流れと審査期間:約6週間の審査・公告後2か月の異議
- 費用一覧(DKPTO公式手数料・EUTM・マドプロ個別手数料)
- 異議申立:公告後2か月・3,000クローナ・使用証明の要求
- 不使用取消(5年)と無効:DKPTOの行政取消と裁判所
- 使用義務と更新:出願日起算の10年
- 権利行使:海事商事裁判所・刑事罰・税関
- 最近の動向:2025〜2026年の判例
- デンマーク国内商標・EUTM・マドプロの使い分け
- 日本の商標制度との比較
- 日本企業がデンマーク出願で押さえるべき実務ポイント
- よくある質問(FAQ)
- 出典・参考文献
デンマーク商標制度の全体像:2019年商標法とDKPTO
デンマークの商標の根拠法は商標法(Varemærkeloven、統合法第88号・2019年1月29日)です。EU商標指令2015/2436を実施する2018年12月の改正法(第1533号)が2019年1月1日に施行され、図で表せない商標の登録、調査報告書の任意化と迅速登録、公告前の審査から公告後の異議への転換、DKPTOでの行政取消の拡充、通過貨物や準備行為に対する権利、異議・無効での使用証明の要求などが導入されました。
登録官庁は特許商標庁(Patent- og Varemærkestyrelsen、DKPTO)で、産業・ビジネス・金融省の下に置かれ、コペンハーゲン近郊のトーストロップに本部があります。商標権は登録、マドプロによるデンマーク指定、またはデンマーク国内での使用(使用の範囲が局地的な意義を超える場合)によって発生し(第3条)、パリ条約6条の2の周知商標も登録なしで保護されます。DKPTOの決定への不服は特許商標審判委員会(Ankenævnet for Patenter og Varemærker)に2か月以内に申し立て(第46条)、委員会の決定は裁判所で争います。
デンマークはEU加盟国ですから、EU商標(EUTM)もデンマークで効力を持ちます(フェロー諸島とグリーンランドには及びません)。商標の民事事件は1861年設立の海事商事裁判所(Sø- og Handelsretten)が第一審のEU商標裁判所として扱い(第43a条)、上訴は民事訴訟法368条の規定により高等裁判所または最高裁判所へ進みます。日本企業にとって重要なのは、DKPTOが先行商標を調査して通知はするが拒絶はしないこと、調査報告書を省略すれば速く登録できること、そして登録しなくても使用で権利が生じる反面、他社の未登録商標が障害になりうることです。
国内出願は年2,200件前後:市場環境と統計
DKPTOの2025年統計によれば、国内商標出願は2,238件(うちデンマーク出願人84%)で、2024年の2,118件から回復したものの、2016年の3,117件と比べると3割減っています。登録は1,732件、異議は72件、行政取消の申請は13件で、マドプロによるデンマーク指定は893件でした。デンマーク企業は国内出願よりもEUTMとマドプロを重視しており、WIPOの統計では2024年のデンマーク出願人による商標出願23,686区分(世界49位)のうち国外出願が14,431区分と国内を上回ります。人口規模の割に国内出願が少ない国で、DKPTOは年次報告で国内出願の減少(2024年は前年比約10%減)とマドプロ指定の減少を報告しています。
一方、DKPTOの審査は速く、2024年の年次報告では国内商標出願の最初の実体審査までの平均期間が1.2か月以内という目標を達成しています。日本との貿易は日本の輸入超過で、2024年は輸出881億円に対し輸入2,996億円(医薬品が中心)でした。
| 指標 | 数値 | 出所 |
|---|---|---|
| 国内商標出願(2025年) | 2,238件(デンマーク出願人1,870件・84%)。2024年2,118件、2023年2,345件、2016年3,117件 | DKPTO年次統計2025 |
| 国内登録/異議/行政取消(2025年) | 1,732件/72件/13件 | DKPTO年次統計2025 |
| マドプロ(2025年) | デンマークの指定893件(2024年971件)、DKPTO経由の国際出願184件 | DKPTO年次統計2025 |
| デンマーク出願人の商標出願(2024年) | 23,686区分(世界49位)。国内9,255・国外14,431(世界23位) | WIPO統計プロファイル |
| 人口/GDP/1人当たりGDP | 約602万人(2026年1月)/約4,245億米ドル/約71,210米ドル(2024年) | 外務省(IMF) |
| 対日貿易(2024年) | 日本→デンマーク881億円(機械類・輸送用機器)/デンマーク→日本2,996億円(化学製品・食料品) | 外務省(財務省貿易統計) |
| 日系企業/在留邦人/為替 | 126社(2024年)/2,129人(2025年10月)/1クローネ≒24.57円(2025年12月) | 外務省 |
保護対象と拒絶理由:絶対的理由のみ審査・調査報告書で通知
商標法第2条は、文字、人名、図形、文字・数字、色彩、商品や包装の形状、音など、自他商品識別力があり登録簿上で明確かつ正確に表示できるあらゆる標識を商標として認めています。個別商標のほか、団体商標と保証・証明商標があります。
DKPTOが職権で審査するのは、方式要件と第13条・第14条の絶対的拒絶理由(識別力の欠如、記述性、慣用性、形状の除外、公序良俗違反、誤認、国章や地理的表示との抵触、悪意の出願など)です(第16条)。第15条の相対的理由(先行する同一・類似商標との混同のおそれ、名声商標の希釈化など)は条文上「異議があった場合に」登録を妨げる理由とされており、DKPTOは先行商標を調査して調査報告書を出願人に送付し、回答期限を設けますが(第17条)、先行商標を理由に拒絶することはありません。出願人は、調査報告書に詳細な理由を付けること(手数料840クローナ)も、調査報告書自体を省略することもできます(第11条)。
隣国スウェーデンとは逆の運用です。スウェーデンのPRVが先行商標を理由に拒絶するのに対し、デンマークのDKPTOは2019年以降、先行商標の問題を出願人への情報提供と先行権利者の異議に委ねています。日本企業にとっては、自社の出願が先行商標で拒絶される心配は少ない一方、他社の類似出願は公告の監視と2か月以内の異議で自ら止めなければならないことを意味します。DKPTOの調査報告書は、異議や後の紛争のリスクを事前に知る材料として活用できます。
商標権の効力(第4条)は、同一商品での同一商標の使用、類似範囲での混同のおそれがある使用、そしてデンマークで名声を持つ商標について正当な理由なく識別力や名声を利用・毀損する使用に及びます。2019年法では、自由流通に置かれない通過貨物に対する権利、包装・ラベルへの標識の付与などの準備行為に対する権利、代理人による無断登録への対抗手段が明文化されました(第5条)。
出願手続の流れと審査期間:約6週間の審査・公告後2か月の異議
出願はDKPTOのオンラインサービスから行い、出願人の情報、商標の表示、商品・役務のリスト(ニース分類)を提出して手数料を納付します(第11条)。多区分出願が可能で、委任状の提出は原則不要です。出願時に、調査報告書に詳細な理由を付けるか、調査報告書を省略するかを選べます。パリ条約の優先権は6か月以内に主張します。DKPTOは、手数料の納付から約6週間で審査を行うと案内しており、出願日から後願に対する優先的地位が認められます。
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 方式審査・絶対的理由の審査 | 記載事項、分類、識別力などを審査。拒絶理由があれば応答期限を設定し、2か月までの延長可(第16条) | 約6週間(最初の実体審査は平均1.2か月以内) |
| 調査報告書 | 先行する出願・登録商標を調査し、情報として出願人に送付、回答期限を設定(第17条)。省略を選べば直ちに次の段階へ | 審査と並行 |
| 公告 | 回答期限の経過後、拒絶理由がなければ出願をデンマーク商標公報に公告(第18条) | 出願から3〜4か月 |
| 異議期間 | 公告から2か月(第19条)。異議がなければ登録 | 2か月 |
| 登録 | 登録簿に記載し、登録を公告。存続期間は出願日から10年 | 異議がなければ出願から5〜6か月 |
調査報告書を省略し、拒絶理由も異議もなければ、出願から数か月で登録が確定します。先行商標の職権拒絶がないため、登録までの期間は欧州でも読みやすい部類です。
費用一覧(DKPTO公式手数料・EUTM・マドプロ個別手数料)
DKPTOの手数料は2026年1月1日に約20%引き上げられました。以下はDKPTO公式手数料表の主な項目で、円換算は1クローネ≒24.6円の概算です。
| 項目 | 庁費用(クローネ、2026年) | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| 出願(1区分を含む) | 2,400。2区分目240、3区分目以降720/区分 | 約5.9万円(3区分で約8.3万円) |
| 詳細な調査報告書 | 840 | 約2.1万円 |
| 国際登録のデンマーク出願への転換 | 1,800 | 約4.4万円 |
| 更新(1区分を含む) | 2,400。2区分目240、3区分目以降720。満了後の納付は20%増 | 約5.9万円 |
| 出願・登録の分割 | 2,400/件 | 約5.9万円 |
| 異議申立 | 3,000 | 約7.4万円 |
| 行政取消・無効の申請 | 3,000 | 約7.4万円 |
| 特許商標審判委員会への不服申立て | 4,000 | 約9.8万円 |
比較対象として、EUTMのオンライン出願料は1区分850ユーロ(約14.9万円)、2区分目50ユーロ、3区分目以降150ユーロ/区分です。マドプロでデンマークを指定する個別手数料は1区分CHF 301、2区分目CHF 30、3区分目以降CHF 90(更新も同額)で、1CHF≒185円とすると1区分約5.6万円と直接出願とほぼ同水準です。代理人費用は別途必要で、日本の特許事務所を通じた直接出願では、庁費用と合わせて1区分あたりおおむね20〜35万円が相場です。
中小企業にはINPITの外国出願補助金が利用でき、デンマーク出願やマドプロ指定の費用の2分の1が補助対象になります。
異議申立:公告後2か月・3,000クローナ・使用証明の要求
異議申立は、出願が公告された日から2か月以内に、理由を付してDKPTOに提出し、手数料3,000クローナを納付します(第19条)。根拠は第15条の相対的理由で、先行する登録商標・出願、使用により取得した商標権、名声商標、周知商標、商号などを持つ権利者とその許諾を受けたライセンシーが申し立てられます。商品役務の一部に対する異議も可能です。
両当事者が和解交渉のために共同で申請すれば、DKPTOは最低2か月手続を停止します(第20条)。出願人は、先行登録商標の登録手続完了から5年を超えている場合、申立人に過去5年の真正な使用の証明を求めることができ(第21条)、証明がなければ異議は退けられます。DKPTOの決定への不服は、2か月以内に特許商標審判委員会(手数料4,000クローナ)へ、さらに裁判所へと進みます。
異議は2019年に「登録後」から「公告後・登録前」に変わりました。かつてのデンマークは登録後に異議を受け付けていましたが、現行法では出願の公告から2か月の間に異議を出し、異議がなければ登録される仕組みです。DKPTOが先行商標で拒絶しないため、年間2,200件前後の国内出願と約900件のマドプロ指定を公報で監視し、自社の権利に近い出願には期限内に異議を出す体制が、デンマークでは特に重要です。
不使用取消(5年)と無効:DKPTOの行政取消と裁判所
登録商標は、5年間継続してデンマークで真正な使用がされないと、正当な理由がない限り取消の対象になります(第25条)。取消請求の前に使用を再開すれば取消を免れますが、請求の3か月前以降の再開は、請求の可能性を知った後の準備であれば考慮されません。普通名称化や誤認を生じる使用による取消(第26条)、絶対的理由や第15条の相対的理由による無効(第28条)もあり、先行商標の権利者が後行商標の使用を知りながら5年間黙認すると無効を請求できなくなります。
取消・無効は、登録手続の完了後にDKPTOへの行政取消の申請(手数料3,000クローナ)または裁判所への訴えで請求します(第34条)。絶対的理由や不使用による申請は誰でもでき、先行権利を根拠とする申請はその権利者に限られます。同じ当事者間で訴訟が係属している場合、DKPTOは手続を停止します。DKPTOの決定への不服は特許商標審判委員会へ、その先は裁判所です。2025年の行政取消の申請は13件と少なく、実務では先取り登録や放置された登録を安価に整理する手段として使われています。
使用義務と更新:出願日起算の10年
登録の存続期間は出願日から10年で(第24条)、10年ごとに何度でも更新できます。更新料(1区分2,400クローナ+追加区分)の納付自体が更新申請とみなされ、満了後に納付する場合は20%の割増がかかります。DKPTOは満了前に権利者へ通知しますが、通知がなくても失効は免れません。
登録後に使用宣誓や使用証拠を提出する義務はなく、更新時にも使用の証明は不要です。使用が問題になるのは、第三者が取消を申請したとき、異議や無効の相手方が使用証明を求めたとき、そして侵害訴訟で被告が不使用を主張したときです。デンマーク特有の点として、使用によって商標権が発生するため(第3条)、登録商標を使っている事業者は、登録の範囲を超えた使用についても一定の権利を主張できる一方、他社の未登録の使用商標との衝突にも注意が必要です。各国の登録後の維持義務は主要国の商標維持義務の比較記事で整理しています。
権利行使:海事商事裁判所・刑事罰・税関
民事:海事商事裁判所
商標の侵害事件は、コペンハーゲンの海事商事裁判所(Sø- og Handelsretten)が扱います。1861年に設立された商事・海事の専門裁判所で、EU商標規則上の第一審のEU商標裁判所でもあり、EU全域に効力を持つ仮処分も命じられます(第43a条・第43b条)。判決への上訴は民事訴訟法368条の規定により高等裁判所へ、原則的な意義がある事件は最高裁判所へ進みます。
救済としては、差止、侵害品の廃棄や回収、使用の対価に相当する合理的な補償と損害賠償(被害者の損失と侵害者の不当な利益を考慮し、非財産的損害の追加賠償も可能。第43条)、判決の公表が認められています。仮処分は地方裁判所または海事商事裁判所に申し立てます。訴訟費用は敗訴者が負担しますが、裁判所が定める基準に基づく一部の回収にとどまるのが実務です。
刑事:罰金・18か月・組織的なら6年
故意または重過失による商標権侵害は罰金で処罰されます(第42条1項)。故意かつ加重事由がある場合、特に侵害によって著しく不当な利益を得る意図がある場合は18か月以下の拘禁刑に引き上げられ、組織的・大規模な侵害は刑法299b条により6年以下の拘禁刑の対象になります。法人も処罰され、起訴は原則として被害者の告訴によります。日本の商標法78条(10年以下の懲役)と比べると上限は低いものの、刑法299b条の導入により大規模な模倣品取引への抑止力は強化されています。
税関とDKPTOの模倣品対策
税関当局(Toldstyrelsen)は、EU規則608/2013に基づく税関申立(AFA)を受けて、または職権で疑わしい貨物を差し止めます。租税省の発表によれば、税関は2023年に模倣品の疑いがある約5万点・7,000万クローネ超の商品を差し止め、食品・衣料・靴・携帯電話アクセサリーが中心で、電子商取引の拡大と小口郵便への分散により2015年以降増加が続いています。2024年12月〜2025年初めにコペンハーゲン空港で行われた11回の抜き打ち検査では、13,367個の小包を調べて580件を摘発し、その9割が模倣品でした。DKPTOも模倣品対策のホットラインを設け、権利者と消費者に民事・刑事の対応を案内するとともに、税関・警察・業界団体と連携するネットワークを運営しています。
最近の動向:2025〜2026年の判例
HARIBO「金のクマ」の立体商標(海事商事裁判所 2025年1月8日)
HARIBOグループのRigo Trading社がグミ「Guldbamsen(金のクマ)」の形状を菓子の立体商標として出願し、DKPTOと特許商標審判委員会が識別力の欠如を理由に拒絶した事件で、海事商事裁判所は、委員会の判断枠組み自体に誤りはないとしつつ、委員会の決定後に実施された消費者調査がHARIBOとの結びつきを示す重要な新証拠だとして、事件を委員会に差し戻しました。商品形状の登録には出願時点での使用による識別力の立証が鍵になること、そして後から提出した認知度調査も考慮されうることを示す事例です。
「Bedst & Billigst」(海事商事裁判所 2026年8月19日)
「最高で最安」を意味する語を含む図形商標について、商標法第14条1項3号の誤認を生じる商標に当たるかが争われた事件(KLAR Aknad対JABS Denmark、BS-13209/2025-SHR)で、裁判所は登録が誤認性に反するものではないとして商標権を維持する一方、具体的な使用態様の一部を差し止め、原告側にも一部の表示の使用を禁じました。品質や価格を示唆する語を商標に含める場合、登録の有効性と広告表現の規制が別々に問われることを示しています。
DKPTOの動き
DKPTOは2025年にEUIPOと共同開発した新しい案件処理システムを意匠から順に導入し、2026年1月には手数料を約20%引き上げました。2024年の年次報告では国内商標出願の減少を認めつつ、最初の実体審査までの平均1.2か月以内という目標を達成しています。若者の模倣品購入に関する2026年の分析を公表するなど、模倣品対策の啓発にも力を入れています。
デンマーク国内商標・EUTM・マドプロの使い分け
デンマークで商標を守る手段は3つあります。デンマークはマドプロの加盟国で、国際登録で直接指定できます。
| 項目 | 国内商標(DKPTO直接出願) | マドプロでデンマーク指定 | EU商標(EUTM) |
|---|---|---|---|
| 効力の範囲 | デンマーク(別途手続でフェロー諸島・グリーンランドにも拡張可) | デンマーク | EU27か国(フェロー諸島・グリーンランドは対象外) |
| 庁費用(1区分) | 2,400クローナ(約5.9万円) | CHF 301(約5.6万円)+基本手数料 | 850ユーロ(約14.9万円) |
| 登録までの期間 | 審査約6週間+異議2か月。異議がなければ5〜6か月 | 拒絶通報期限まで最長18か月 | 約4〜6か月 |
| 先行商標の影響 | 職権拒絶なし。調査報告書で通知、異議のみ | 同左 | 職権審査なし。ただし27か国のどこか1か国の先行商標で全体が拒絶されうる |
| 異議 | 公告後2か月、3,000クローナ | 同左 | 公告後3か月、320ユーロ |
| 向いている場面 | デンマークが主市場、速く確実に登録したい、EUTMが先行商標で難しい | 北欧数か国など他国とまとめて管理したい | 欧州全域で展開、税関対策を重視 |
欧州全域を対象にする場合はEUTMが基本です。北欧では、EUTMでカバーできるスウェーデン・フィンランド・デンマークと、EU非加盟のノルウェー・アイスランドを組み合わせ、EUTM+マドプロ指定で北欧5か国をカバーする設計が一般的です。デンマーク単独なら、先行商標の職権拒絶がなく速い国内出願が確実です。
日本の商標制度との比較
| 項目 | デンマーク | 日本 |
|---|---|---|
| 根拠法・官庁 | 商標法(統合法88/2019)・特許商標庁(DKPTO) | 商標法・特許庁 |
| 先行商標の審査 | 職権拒絶なし(調査報告書で通知。異議のみ) | 職権で審査(4条1項11号) |
| 権利の発生 | 登録、マドプロ指定、または局地的でない使用 | 登録主義。周知商標は不正競争防止法で保護 |
| 登録までの期間 | 審査約6週間、異議がなければ5〜6か月 | 約6〜10か月(早期審査あり) |
| 異議申立 | 登録前、公告から2か月、先行権利者、3,000クローナ | 登録後、公報から2か月、何人も可 |
| 存続期間 | 出願日から10年 | 登録日から10年 |
| 不使用取消 | 5年。DKPTOの行政取消(3,000クローナ)または裁判所 | 3年。特許庁の審判 |
| 侵害訴訟 | 海事商事裁判所(EU商標裁判所を兼ねる) | 東京・大阪地裁など |
| 刑事罰 | 罰金。加重事由で18か月以下、刑法299b条で6年以下 | 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(78条) |
日本企業がデンマーク出願で押さえるべき実務ポイント
- 先行商標は自分で調べ、自分で守る。DKPTOは先行商標を理由に拒絶しません。出願前の調査(DKPTOのデータベース・TMview)と、公告後2か月の異議期間の監視が不可欠です。登録なしの使用商標も先行権利になりうるため、市場調査も加えてください。
- 調査報告書の使い分け。急ぐなら調査報告書を省略して審査を早め、紛争リスクを事前に知りたいなら詳細な調査報告書(840クローナ)を請求するのが合理的です。
- 速さを活かす。審査は約6週間、異議がなければ5〜6か月で登録されます。輸出開始や展示会に合わせて権利を確保したい場合、EUTMと並行して国内出願を出す選択肢があります。
- 異議は公告後2か月、3,000クローナ。2019年以降は登録前の異議です。相手の先行商標が5年を超えていれば使用証明を要求でき、和解交渉のための手続停止も使えます。
- 行政取消を活用する。障害になる登録が5年以上使われていなければ、3,000クローナの行政取消で抹消を求められます。年間の申請は十数件と少なく、DKPTOの判断も比較的早く得られます。
- 使用証拠はデンマーク向けのものを保存。不使用取消は5年で、使用はデンマーク国内での使用が必要です。デンマーク語の価格表・請求書・ウェブサイトのアーカイブを年単位で残してください。
- 模倣品は税関申立と刑事告訴の両輪で。IPEPからのAFA申請で税関の職権差止を促し、悪質な事案には18か月以下、組織的なら刑法299b条の6年以下の刑事告訴も選択肢です。空港経由の小包の9割が模倣品という実態を踏まえ、越境ECへの対策を優先してください。
- 北欧全体の設計を。EUTMはデンマーク・スウェーデン・フィンランドをカバーしますが、ノルウェーとアイスランド、そしてフェロー諸島・グリーンランドはカバーしないため、対象地域に応じてマドプロ指定や国内手続を組み合わせます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 登録までどのくらいかかりますか?
DKPTOは手数料の納付から約6週間で審査し、拒絶理由がなければ出願を公告します。公告から2か月の異議期間があり、異議がなければ登録されるため、出願から5〜6か月程度が目安です。調査報告書を省略すれば審査段階を短縮できます。マドプロでデンマークを指定した場合は、拒絶通報の期限が18か月なので、権利が確定するまでの期間は直接出願より長くなることがあります。
Q2. DKPTOは先行商標を調べてくれますか?
調べますが、拒絶はしません。DKPTOは先行する出願・登録商標を調査して調査報告書を出願人に送り、回答期限を設けますが、先行商標を理由に職権で拒絶することはなく、先行権利者が公告から2か月以内に異議を申し立てるかどうかに委ねられています。出願人は詳細な理由付きの調査報告書を請求することも、調査報告書を省略することもできます。
Q3. 登録しなくても商標は保護されますか?
一定の条件で保護されます。商標法第3条は、デンマーク国内で継続的に使用され、その使用が局地的な意義を超える場合に、登録なしで商標権が発生すると定めています。パリ条約6条の2の周知商標も保護されます。ただし、使用の範囲や開始時期の立証は容易ではなく、日本企業が実務上頼れるのは登録ですから、使用開始前に出願するのが原則です。
Q4. EUTMを持っていればデンマーク国内商標は不要ですか?
EUTMはデンマークを含むEU全域で効力を持つので、通常はEUTMだけで足ります。ただし、EUTMが他国の先行商標を理由に拒絶や無効のリスクを抱えている場合は、先行商標の職権拒絶がなく速い国内出願を併用する価値があります。また、EUTMはフェロー諸島とグリーンランドには及ばないため、これらの地域で事業を行う場合は国内登録の拡張手続が必要です。
Q5. 他社の放置された登録が障害になっています。どうすればよいですか?
5年間継続して使用されていなければ、DKPTOに行政取消を申請できます。手数料は3,000クローナで、DKPTOが書面審理で判断し、決定には特許商標審判委員会(4,000クローナ、2か月以内)、さらに裁判所で争えます。相手が同意する見込みがあれば、共存合意を結んで自社の出願を進める方法もあります。デンマークでは先行商標の職権拒絶がないため、障害登録が自社の出願を直接妨げる場面は、相手が異議を出した場合に限られます。
Q6. 模倣品が見つかった場合、まず何をすべきですか?
EUIPOの知財執行ポータル(IPEP)からEU規則608/2013に基づく税関申立を提出し、小口郵便を含む輸入段階で差し止める体制を作るのが第一です。デンマークの税関は2023年に約5万点の模倣品を差し止め、空港の抜き打ち検査では摘発の9割が模倣品でした。国内で流通している模倣品には、警告状の後、海事商事裁判所に仮処分と本案訴訟を提起します。組織的な取引には、刑法299b条の6年以下の拘禁刑を含む刑事告訴も選択肢です。DKPTOの模倣品対策ホットラインでも対応方法の案内を受けられます。
まとめ
デンマークの商標制度は、2019年施行の商標法に基づきDKPTOが絶対的理由だけを審査し、先行商標は調査報告書で出願人に知らせて先行権利者の異議に委ねる、EUIPOに近い運用です。審査約6週間、公告後2か月の異議、出願日起算の10年、5年の不使用取消が骨格で、出願2,400クローナ、異議・行政取消3,000クローナと費用も明確です。使用による商標権の発生、海事商事裁判所への集中、刑法299b条による組織的侵害への重罰、越境ECの小包を中心とした税関の差止が実務上の特徴です。日本企業には、EUTMを軸に、先行商標の職権拒絶がなく速いデンマーク国内出願を補完し、EU非加盟のノルウェー・アイスランドやフェロー諸島・グリーンランドを含めた北欧全体の設計をおすすめします。
各国の商標制度は世界の商標制度ガイドをご覧ください。
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出典・参考文献
本記事は、以下の一次資料および専門家による解説を基に作成しています(いずれも2026年10月閲覧)。各項目に、本文のどの記述の根拠としたかを付記しています。
法令・公的機関の資料
- 商標法(The Consolidate Trade Marks Act、統合法88/2019)英訳(DKPTO)/商標の定義(第2条)、登録・マドプロ指定・使用による権利の発生(第3条)、権利の内容(第4条)、通過貨物・準備行為・代理人(第5条)、出願と調査報告書の選択(第11条)、絶対的理由(第13・14条)、異議があった場合の相対的理由(第15条)、審査(第16条)、調査報告書(第17条)、公告(第18条)、異議2か月と手数料・資格(第19条)、和解のための停止(第20条)、異議における使用証明(第21条)、出願日から10年と更新(第24条)、不使用5年(第25条)、取消・無効(第26・28条)、行政取消(第34条)、刑事罰と刑法299b条(第42条)、損害賠償(第43条)、海事商事裁判所とEU商標裁判所(第43a・43b条)、特許商標審判委員会への2か月以内の不服(第46条)、手数料(第60a〜60c条)の根拠。
https://www.dkpto.org/Media/637650470301617060/The%20Consolidate%20Trade%20Marks%20Act%202019.pdf - 商標法 現行統合法(Retsinformation、LBK nr 88 af 29/01/2019)/デンマーク語原文。
https://www.retsinformation.dk/eli/lta/2019/88 - 刑法299b条(danskelove.dk)/特に加重された事情の下での知的財産権侵害に対する6年以下の拘禁刑の根拠。
https://danskelove.dk/straffeloven/299b - DKPTO「Fees of the Danish Patent and Trademark Office per 1 January 2026」(PDF)/出願2,400・2区分目240・3区分目以降720、詳細調査報告書840、国際登録の転換1,800、更新2,400+追加区分・満了後20%増、分割2,400、異議3,000、行政取消3,000の根拠(2025年の旧額も併記)。
https://www.dkpto.org/Media/639017275628242197/Fees%20of%20the%20Danish%20Patent%20and%20Trademark%20Office%20per%201%20January%202026.pdf - DKPTO「Prices and Fees」/現行手数料の掲載ページ。
https://www.dkpto.org/about-ip-rights/prices-and-fees - DKPTO「Apply – Trademarks」/手数料納付から約6週間の審査、方式・絶対的理由・先行商標の調査、出願日からの優先的地位の根拠。
https://www.dkpto.org/apply/apply-trademarks - DKPTO「IPR Enforcement and Anti-counterfeiting」/模倣品対策ホットラインと官民ネットワークの根拠。
https://www.dkpto.org/ipr-enforcement-and-anti-counterfeiting - DKPTO「Årsstatistik 2025」(2026年公表、PDF)/2016〜2025年の国内商標出願(2025年2,238件、うちデンマーク出願人84%)、国内登録(2025年1,732件)、異議72件・行政取消13件、マドプロ指定893件、DKPTO経由の国際出願184件の根拠。
https://www.dkpto.dk/Media/639138325087879989/Årsstatistik_2025_publiceret_2026.pdf - DKPTO「Årsrapport 2024」(PDF)/2024年の国内商標出願約10%減とマドプロ指定約5%減、最初の実体審査までの平均1.2か月以内という目標の達成の根拠。
https://www.dkpto.dk/Media/638815206890083048/PVS'%20rsrapport%202024%20.pdf - 特許商標審判委員会「Vejledning」(Nævnenes Hus)/不服申立ての手数料4,000クローナと期限2か月の根拠。
https://naevneneshus.dk/naevnsoversigt/ankenaevnet-for-patenter-og-varemaerker/vejledning/ - 租税省「Toldstyrelsen fanger ulovlige kopivarer for millioner」(2024年11月25日)/2023年に約5万点・7,000万クローネ超の模倣品を差し止めたこと、食品・衣料・靴・携帯電話アクセサリーが中心で、電子商取引と小口郵便化により2015年以降増加していることの根拠。
https://svmn.dk/aktuelt/presse-nyheder/pressemeddelelser/toldstyrelsen-fanger-ulovlige-kopivarer-for-millioner - 税関当局「Toldkontrol i lufthavnen: 9 ud af 10 sager omhandler kopivarer」(2025年2月10日)/コペンハーゲン空港での11回の抜き打ち検査、13,367個の小包、580件の摘発、9割が模倣品の根拠。
https://toldst.dk/nyheder/pressemeddelelser/toldkontrol-i-lufthavnen-9-ud-af-10-sager-omhandler-kopivarer - WIPO「Statistical Country Profile: Denmark」(2024年)/デンマーク出願人の商標出願23,686区分(世界49位)、国内9,255・国外14,431(世界23位)の根拠。
https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/dk.pdf - WIPO「Individual Fees under the Madrid Protocol」/デンマーク指定の個別手数料CHF 301/30/90(更新同額)の根拠。
https://www.wipo.int/madrid/en/fees/ind_taxes.html - EU商標規則(Regulation (EU) 2017/1001)附属書I(EUR-Lex)/EUTMの出願料850/50/150ユーロと異議申立料320ユーロの根拠。
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/1001/oj - 外務省「デンマーク王国 基礎データ」(2026年3月9日)/人口約602万人、GDP約4,245億米ドル、1人当たり71,210米ドル、対日貿易(2024年)と品目、日系企業126社、在留邦人2,129人、1クローネ≒24.57円、国王の2025年訪日の根拠。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/denmark/data.html
専門家による解説
- Mondaq「Denmark Trademarks Comparative Guide」/絶対的理由のみの審査と任意の先行商標調査、最初の庁通知まで約2か月・公告まで3〜4か月、公告から2か月の異議、審判委員会への2か月以内の不服、海事商事裁判所、救済手段の根拠。
https://www.mondaq.com/guides/results/5/157/all/denmark-trademarks - Wikipedia「Maritime and Commercial Court (Denmark)」/海事商事裁判所が1861年設立の商事・海事の専門裁判所であることの根拠。
https://en.wikipedia.org/wiki/Maritime_and_Commercial_Court_(Denmark)
判例
- WTC Advokaterne「Ny dom fra Sø- og Handelsretten: Kan figurmærket "Guldbamsen" registreres som varemærke?」(2025年1月10日)/海事商事裁判所2025年1月8日判決(Rigo Trading対特許商標審判委員会)で、消費者調査を重要な新証拠として事件を委員会に差し戻したことの根拠。
https://wtc-law.dk/kan-figurmaerket-guldbamsen-registreres-som-varemaerke/ - 海事商事裁判所「Varemærke ikke vildledende」(2026年8月、BS-13209/2025-SHR)/図形商標「Bedst & Billigst」が誤認を生じる商標に当たらないとしつつ、双方の一部の使用を差し止めた判決の根拠。
https://domstoldk.euwest01.umbraco.io/soeoghandelsretten/aktuelt/2026/8/varemaerke-ikke-vildledende/
※本記事は上記の資料を基に、2026年10月時点の情報で一般的な情報提供を目的として作成しています。手数料(円換算額)・運用・判例は変更されることがあります。デンマーク語の法令原文と英訳の間に差異がある場合は原文が優先されます。個別案件の具体的判断には、専門家へのご相談を推奨します。